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神影(しんえい)改訂版  作者: 礎衣 織姫
第十章 抑止
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04【桜蓮・永治・光治】その壱

 桜蓮の転生によって危機を脱した沙石は五日後、仕事へ復帰した。周囲は無理をするなと諭したが、沙石は退屈が嫌いのようで、積極的に仕事をこなした。といっても体力を使わない書類の整理ばかりであるが——

「あーっ、もっと身体動かしてえ!」

「なに言ってるんだ。調子がいいからって図に乗ってるとまた痛い目に遭うぞ」

 燈月に注意された沙石は、ふてくされた顔をシュウヤへ向けた。本日は寅瞳の監視日兼沙石の見舞いである。面倒がりながらも律儀にやって来るのは、やっぱり界王に逆らえないからだ。

「そうだ、オレ、あんたに聞きたいことあったんだ」

「もう帰りたい」

「ちっ、たまには付き合えよ」

「なんだよ」

「なんでデカくなってんの? 天上界」

 沙石の質問に燈月の手が止まり、寅瞳の視線が本から外れた。

「あーそれ、私も聞きたかったんですよね」

 二人の核にじぃっと見つめられたシュウヤは、やや怯んで冷や汗かいた。

「そんなに睨まなくても答えるって」

「へえ。じゃあなんで?」

「転生期に備えてる、らしい」

「転生期?」

「理想郷の確立前にある変化のことだ。天上界に転生すべき魂が転生を開始する時期って言うのか? だからキャパの確保」

「……それって今じゃなきゃダメだったのか?」

「おまえと寅瞳と妝真の三人がそろってる計算だったんだろ? 理ってのはプログラムみたいなもんなんだから、時期が来ればその通りに動く。まさかここへ来て死ぬなんて思ってないから、変えてないんだ」

「今からでも変えりゃいいんじゃね?」

「無茶言うなって。膨大な量だぞ? 理を剥がすってのは星を傷つけるんだ。それを請け負うのは泰善なんだぜ? 桜蓮に急がせたのだって、とどのつまりそういうことだろ? 前のやつを消化しきってないから無理なんだ」

 沙石と寅瞳は、泰明の腕にあった朱の紋様を思い出してゾッとした。

「わ、わりい。万能だからって簡単に考えてた。もう言わねえ」

「そうしてくれ。じゃ、帰るわ」

「せっかくだから、もっと界王のこと話していけよ」

 沙石が悪気のない顔で言うので、シュウヤは無理矢理笑った。

「いや、遠慮する」

「なんで」

「なんでってオマエ、桜蓮と鉢合ったらどうすんだ」

「は?」

「ここへ送る途中、界王との関係をしつこく聞かれて答えたら、すんげえキレられたんだよ」

 沙石は苦笑いした。界王一筋だった女がどうして帝人に気がいったのか、少し疑問に思っていたことが解明されたからだ。

「堂々としてりゃいいじゃん」

「俺の神経はそんなに図太くない」

「まあ大丈夫だって。あいつ、しばらく身動きとれねえから」

「なんで?」

「使族のお姉様方に捕まってるから」


 沙石の言う通り、桜蓮は使族の女神達に囲まれて身動き取れない状態だった。髪を結われたり、飾りをつけられたり、着せ替えられたりしているからだ。

「これがカワイイんじゃないかしら」

「こっちのほうが似合うわよ」

「編み込みしてみる?」

「せっかく綺麗な髪なんですもの。ほどいてるほうがいいんじゃない?」

「お願ーい、これも着てみて?」

 桜蓮はかすかに頬を引きつらせた。

(な、なんで私がこんな目に……)

 妙な嫉妬を買っていじめられるよりはマシだが、これでは着せ替え人形だ。彼女達なりの歓迎なのだろうが、桜蓮は戸惑った。

「あ、あの、お姉様方? 私、いろいろ見て回りたいので、そろそろ解放してくださらない?」

「あらそんなの——ずっと住んでいれば嫌でも目にするし、すぐに慣れちゃったら退屈よ? 少しずつになさいな」

「で、でも、講堂内くらいは把握してないと、迷子になりそうだわ」

「うーん、そうねえ……」

 女神の一人、暑旬恵が周りを見て、ふと灯紗楴に目をとめた。

「そうだわ! 探検!」

「え?」

「灯紗楴の子供達と探検なんてどう? あの子達、めったに出て来ないから全然わかってないはずよ? ちょうどいいじゃない。引っ張り出すチャンスよ。あなたも一人で見て回るより楽しいかもしれないわ」

「子供?」

 桜蓮は少し暗い顔をした。

 子供の世話をするなんてまっぴらゴメンよとでも言いたげで、暑旬恵はやや顔が引きつった。

「あら、中身は大人みたいだから大丈夫よ」

「そう」


 引きこもり少年二人は、母・灯紗楴が連れて来た少女に目を見張った。むろん、見たこともないような美少女だったからだ。星を散りばめたようにキラキラと輝く瞳。艶やかに波打つ髪。透き通るような白い肌。どれを取っても可憐で美しい。

『すっごいカワイイ』

 光治が感動しながら言うと、永治は内心同意しながらも渋い顔をした。

『だからって誘いに乗るのか?』

『講堂内、見て回るだけでしょ?』

『例の透視能力者と出くわしたらどうする』

『今まで何も言って来ないんだから、大丈夫だよ』

『忙しいだけじゃないのか?』

『後回しにできる程度のことなら、なおさら平気じゃない? そりゃ心配だけどさ、ずっと怯えながら生きるわけにもいかないだろ?』

 永治は唸った。

 確かに、何か言ってくるつもりがあるのなら、真っ先に来てもおかしくない。シュウヤにも存在を確認されているし、問題があるなら界王みずから現れるはずだ。しかし実際は、双方から放置されている状態だ。もしかしたら自分たちが思うほど、この能力は天上界に影響を及ぼさないのかもしれない、と。

 そうしてふと見れば、外の世界へ興味を持ち、目の前の美少女に見とれている光治の顔がある。心配事を押しのけてでも少女と交流をはかりたいと願っているのは明らかで、永治はなんとなく心が折れた。

『行く気満々だな』

『うん。ていうか、もう退屈なのが嫌。どうせ俺たち出てくんだから、今のうちに見とこうよ』

 後ろ向きとも前向きとも取れる台詞に永治はゲンナリしながら、溜め息でうなずいた。


「あなたたち、こっちの言葉は喋れないの?」

 灯紗楴と別れてしばらく一緒に通路を歩いていると、不意に桜蓮が尋ねた。

 光治は軽く首を横へ振った。

「ううん。喋れるよ?」

「なによ。じゃあ最初から喋ればいいじゃない」

「兄弟で話すときは、慣れてる言葉のほうがいいんだ」

「ふーん。やましいわけじゃないのね?」

「あ、当たり前だろ?」

 光治はやや焦りながら答えて目をそらした。桜蓮は訝しげにしながらも、あまり気にしないように努めて新しい話題をふった。

「魔族棟に行ってみない? まだ一度も見てないの」

「俺は神族棟がいい」

 とは永治が言った。桜蓮は目元をしかめた。

「嫌よ。サンドライトがうるさいじゃない」

「サンドライト?」

「沙石……って言ったかしら」

「ああ、核の。だったら、なおさら行ってみたい。会ってみたいんだ」

「失望するわよ?」

「え?」

「言葉は乱暴だし、結構バカだし」

 悪態をつく可憐な少女の姿に、永治は少々唖然として、光治と視線を交わした。

「でも、この世界を支えてる核の代表だって聞いたけど」

 光治が問うと、桜蓮はムッとしながら答えた。

「それはそれ、これはこれなの。代表だからって偉いわけじゃないわ」

「でも、加護から感じ取れる雰囲気じゃ、とっても徳の高い神様っぽいけど」

「核だもの。慈愛の心なんて基本よ、キ・ホ・ン! 持ってて当たり前なことは自慢にならないでしょ?」

「いや、それがすでに凄いんだけど」

「じゃあ自分も持っているのか? その基本とやらを」

 永治が横やりを入れると、

「当然よ。失礼ね」

 と桜蓮は前で腕組みして、そっぽを向いた。

 双子の兄弟は「とてもそんなふうには見えないな」という感想を抱いて口を閉ざした。

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