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神影(しんえい)改訂版  作者: 礎衣 織姫
第一章 接触
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05【神族編】その壱

燈月(ひづき)殿の消息がつかめた」

 そう言って仲間のところに駆け込んだのは、神族で天位三を得た長らの一人、風門(かざと)である。銀髪に水色の瞳。二十二、三歳の様子だが五千歳近く、神族の中では年長者だ。

 ひとつのテーブルを囲んでお茶を飲んでいた、ほか四名の長は、気を引き締めて風門へ向いた。神族は今日まで、忽然と姿を消した燈月を必死に捜索していたのだ。

「魔族に捕まっているらしい」

「なんだと!?」

「封術師の飛鳥泰善(あすかたいぜん)が魔族に雇われたという噂は聞いているだろう。魔神が魔剣を所有できるようになるまで、我らの動きを封じる目的で拉致したようだ」

「バカな。燈月殿を拉致するなど、いったいどんな手を使って」

「わからぬ」

御身(おんみ)は無事なのか」

「大切な人質だ。殺しはしないだろう」

「ううむ……しかし、このまま黙って手をこまねいているわけにはいくまい。なんとかせねば」

 長の中で一番体格のいい男である烈火(れっか)が言った。その烈火へ紅一点の安土(あづち)が目をやる。

「奪還すると言うのか? 我らに気づかれる隙もなく燈月殿を捕らえた者ども相手じゃ。ヘタに動けば我らとて無事ではすむまい」

 彼女は胸にかかった長い黒髪を背に払いながら意見した。烈火は赤い瞳に彼女を映し、しばし放心した。

 絶世の美女と評してもいい。安土は妖艶にして品格ある見事な女性だ。豊かな胸と細い腰。形のいい身体の曲線が世の男性を放ってはおかない。

 それを知ってか、彼女はいつも身にピッタリとしたシックなワンピースを着ている。外套はここぞという時にしか羽織らない。堅苦しいばかりで女性らしさを損なうからだ。

「安土殿は、いつ見ても美しい」

 烈火は思わず呟き、安土はピクッと眉尻を上げた。

「不謹慎な。このような時に」

「いや、申し訳ない。つい」

「まあともかく、燈月殿が捕われたことと飛鳥泰善が雇われたことは直接関係しているとみて間違いないのだ。まずは、この男のことを詳しく調査してみる必要があるな」

 風門が言うと一同はうなずいた。

 彼らは調査員を派遣し、報告を待つあいだは組織内の統制をはかることに専念した。燈月が行方不明となってから、神族政権下に動揺が広がりつつある。魔族の手の内にあることはまもなく知れ渡るだろう。その時この動揺が混乱に変わることだけは避けなければならなかった。


 一週間後、調査員が戻ってきた。しかし報告は風門らを満足させなかった。

「魔剣をおさめるほどの力を持つ高名な封術師。依頼報酬は小麦や果物、酒等の物品に限り、金銭はいっさい受け取らぬ——か」

 自室で報告書を手に、風門は思案した。

(もといた住居は質素であり、悪い噂はない。天位は授かっていないようだが、封術の力は誰も一目二目置くほどの実力。それでいて慎ましい生活態度。身辺はキレイなようだが、どうだろうな。魔剣は使族も目をつけていたようだが、それは退けている。なぜ魔族に限って受け入れたのか……魔剣だからか。それともほかに何か理由があるのか)

「風門殿、今よろしいか」

 彼の書斎に泉房(みずふさ)が訪ねてきた。神族長の一人である。頭髪は透明感のある水色で、瞳はサファイアブルーだ。「外見が似ている」とよく他人(ひと)から言われる二人だが、風門は身長一八二センチの体育会系、泉房は一七五センチの文系である。似ているのは同郷ということからくる雰囲気のみで、実のところ言われるほどは似ていない。仲が良く、兄弟と思われることもしばしばあるが……

 風門は泉房を書斎へ招き入れ、紅茶を勧めた。

「どうぞ」

「かたじけない」

「いや。それで用件は」

 泉房は出された茶を飲み、うなずいた。

「実は、私なりにいろいろ考えてみたのだが、こういうのはどうだ」

「なんだ」

「封の依頼をしてみるのだ」

「なに?」

「渦中の人物に直接確かめなければ、解決の糸口はつかめぬ」

「しかし応じるだろうか」

「なんでもない依頼のようにして接触をはかるのだ。しかし我々では天位で疑われる。天位のない者を立てて、うまくおびき出せないだろうか」

「成功するか否かは別として、やってみる価値はありそうだ」

「ではさっそく、みなの者に決をとろう」


***


「時空に無用なひずみが生じたので封じてほしい」という依頼内容で、飛鳥泰善は意外にも簡単に引き受けた。

 神族長らとしては、魔族側が外部との接触に反対しなかったのも驚きだったが、こんな作戦があっさり通ったことにも目を丸めた。警戒心が乏しいのか、あるいはワザと罠にかかったのかと疑う。

 だがどちらにしても、なにかせねば事態が進展しないので仕方ない。これは大きな賭けであった。

「今日の昼に来るという話だが、本当に来るだろうか」

「一度受けた依頼は断らぬという評判だから、来るだろう」

 神族長らは早朝から陽が真上にあがるまで、首を長くして待った。

 それと悟られぬよう民間で使用される馬車を調達し、魔族の領地へ迎えを出してまで招くのだから、来てもらわなければ困る。来ないという結末は作戦失敗に他ならないからだ。

 魔族の城から神族の神殿までは、相当な距離がある。まともに来れば三日かかり、時空のひずみ《ワープゾーン》を利用しても、六時間かかる。当然ひずみを利用しての手段を選んだが、その途中で計画がバレないとも限らない。下手をすれば魔族との全面戦争という危険をはらんでいるのだ。そうなれば、いかに神族を支持すると言っている者でも、魔族は魔族政権に返り、雲行き次第で使族も使族政権のもとにひるがえるだろう。

 結局おのれの種族政権が安泰でなければ自分の立場も不安になる。理想はあくまで均衡でも、実現化が遠のけば神族政権への支持など無意味であるし危ないのだ。


 太陽が真上にあがった。迎えに出した馬車が帰って来た。待ち構える神族上位天位者らの緊張は頂点に達した。


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