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「シャーナとメアリーのお父さんは、大魔王の権能によって、悪魔となった。恐らく、もう元に戻すことはできない」
────もう、戻せない。
その言葉を聞いた私は、咄嗟にメアリーの顔を見たくなる。何故だかは、分からない。それでも、見たくなった。
……ああ、そうか。
彼女が悲しみ、苦しんでないかを…私は確認したかったのだ。
だって、メアリーはまだ幼く、私の可愛い妹なのだから。
…しかし、私の妹は大人であった。
「シャーナお姉ちゃん」
刹那、メアリーが私の肩をポンポンと、叩く。彼女のその小さな手は、微かに震えていた。
それでも、彼女の瞳は覚悟で満ちていた。まるで、私がどのような選択をするべきか知っているかのように。真っすぐな瞳だった。
そんなルビーの宝石のような色の瞳で、彼女は私の耳元でこう囁く。
「今度こそは、大切な人を一緒に守ろうね。"アンナ"……ね?」
アンナ・ロード。
それが、私の前世の名前。
思えば、マーガレットもメアリーと同じように泣き虫だった。でも、マーガレットは大切な人の死によって変わった。
それと同じように、メアリーも変わったのだろう。恐らく私の断片的な記憶しか覚えてないであろう彼女が。
そして、私の前世の名を知る彼女の声は………どこか私のかつての親友マーガレットを思い出させてくれた。
────まさか、本当に彼女がマーガレットだったなんて。
そして、それがたとえ偶然だったとしても。
私は、その偶然を作ってくださった神様に感謝する。
だって、私は………もう一度、マーガレットを。
メアリーを。
守ることが出来る。
そして、お父さんだって、守りたい。
私は欲張りだから、全部守りたいんだ。
だから、私はグルーシャさんに対して、一歩前に出て言う。
私がこの世界で守りたいもの、その全てを守る…そんな決意の言葉を。
「それでも構いません。今は見つけられなくても、これから見つけてみせます。グルーシャさん、私は私の大切な人を全て救いたい。だから、私達を新大陸に連れて行ってください」
「………覚悟は、あるんだな? 口先だけではないんだな?」
「はい。もちろんです」
────分かっている。分かっているとは言ったけど、今の時点で、これは完全に私のエゴ。
あくまで今の時点では、みんなを守りたい願いも、お父さんを救いたいという願望も、全て私の口先だけのエゴに過ぎない。
でも、それで良い。
今だけは偽善者でも良い。
最初は偽善者でも、その偽善が純粋な善行へと変貌し、最後には世界を救うことだってある。
だから、今の私は、少なくとも偽善者ではありたい。
みんなを守るために、その口約束をして、それを絶対に死ぬつもりで守る。
私はただの偽善者にはなりたくない。
みんなを救う。その口だけの善を、いずれ本当の善行として実行したいから。
だから、この物語は、私が口だけの偽善者から、みんなのヒーローになるまでの物語。




