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クロニクル・エヴァーガーデン  作者: ロクト
第一部 悲しき冒険譚の始まり編
16/20

16

私の前に現れたその男から匂う悪魔特有の異臭が、私の鼻の中を通り抜ける。そして、彼の特異な点は、その異臭だけではない。彼の肉体は、一部黒みがかっていたという点で、人間の姿とはかけ離れていた。


「お前は、誰だよ。私達の戦いを邪魔をしたんだから、死ぬ覚悟はできてんのか?」


私が剣を構えるも、彼は動じない。


「あと、もしかして、お前、楽園教の悪魔だな?」


彼は答える気配を見せない。それでも、私は全くと言っていいほど構うことなく、続ける。


「それにしても、このGUILTY、洗脳系とかではなく、領域系のGUILTYだよな? てことは、お前……"傲慢"だろ? あの七つの大罪のうちの」 


しかし、彼は私のその複数の問いを無視して、一言だけ、言う。


「お前達は、復讐などというチンケな理由で、俺の主に近づくべきではない」


私はそのフル無視男の言葉に腹を立てながら、剣を握る。


しかし、私が踏み込むより先に………彼はゆっくりと動き始めた。


なんと恐ろしいことに、その男は私が踏み込んだのと同時に立ち上がり、私が一歩進んだのと同時に、ゆっくりと歩き出し、私が三歩進んだ辺りで、私の隣へと並び立ったのだ。


────もしかして、この固有領域…………時空系の能力も混じっているのか?


私がそんな予想を立てている間に、既にその男は私の右肩をポンポンと叩いてきた。


そして、私に呪いの言葉をかける。


「だから、シャーナたちにも伝えてくれ。────『新大陸にだけは、近づくな』………と」


私は当然の疑問を彼にぶつける。


「シャーナ達って……なんで、お前がそれを言う? お前、悪魔だろ。それも、GUILTYを使えるということは、七つの大罪クラスの…………」


「それは」


────その言葉の終わり際、彼から感じられたのは、深い哀愁。彼はその表情で、呪いの言葉を吐き出す。


「シャーナとメアリーは、この俺────ケイン・ロビンソンが人間だった頃の娘だから……といったところだろうな」


そして、彼がその哀愁に満ちた表情を見せたその次の刹那。


そのGUILTYの固有領域は、音を立てて崩れ、消え去った。


****


「グルーシャさん!! 目を覚ませ!!!」


「グルーシャさん!! 俺達の為に沢山尽くしてきたあんたは死んじゃ駄目だ!!! 生きてくれ!!!」


────みんなの声が、聞こえる。


この感じ────私は、あの"GUILTY"の固有領域が崩壊してから、頭から地面に落下して、気を失ってた……のか?


それに、ここは…………花畑?


それと、みんなは…………


「町のみんなと私の仲間は!!!!」


私はその叫び声と共に、目を覚ます。そして、そこにいたのは…みんなだった。みんな、凄く私を心配してくれてる。でも、私には…分かる。


「町………壊されちゃった。人も、沢山………ごめん。私がふがいないせいで!!」


「いや、良いんだ」


それでも、みんなは優しかった。


みんなは、私に深々と頭を下げる。困惑しながらも、嬉しさを感じていた私に、町のみんなは言う。


「グルーシャ船長!!! 今まで俺達の為にありがとう!!! あんたのおかげでこの街はここまで大きくなれた!!!」


「みんな…!!」


私の瞳から、涙が伝う。その涙で瞳が濡れた為か、私は前が少し見えづらくなっていた。


でも、それでも。


町のイカ焼き屋も運営してた町長のザンギエフさんが、私に歩み寄ってくれてるのが、私の瞳には映った。


そして、そんなどうしようもない私を………


ザンギエフさんは、抱きしめてくれた。


「今までありがとう。グルーシャ。………これからの復興は、俺達で頑張るから、お前は自分のやりたいことをやれ。お前は、本当によく頑張った。だからこそ、お前の海賊の仲間と一緒に、人生を生きるんだ。それが、俺達からの願いだ」


そして、最後に彼はこう付け加えた。


「今まで、ありがとう。グルーシャ。お前は俺達の可愛い娘だったなあ。本当にありがとう」


「……うん。ありがとう。みんな」


私は、泣きじゃくる私に鞭を打って、とびっきりの笑顔を作る。


「みんなは私にとっての仲間であり…!! お父さんでした!!!」


────メアリー暦1012年。


私の故郷は、余りにも優しく…温もりで溢れていた。



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