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「 グオオオオオオオオ!!!!!! 」
白龍の咆哮は、私達の耳だけでなく、大地を切り裂く。
私とメアリー、そしてエリュガードとエルザは瞬時に耳を塞いだからなんとかなったが、耳を塞げなかった人達の耳から、たくさんの血が溢れ出る。
そして、唸り声を上げながら、その人達は倒れる。
私は、その人達を街の外に担いで運び込むために、彼らに近づこうとした。
「待って!! 今救けに!!!」
「…待て。シャーナ」
しかし、エリュガードは、私の肩を掴み、離さなかった。
「……どうして……エリュガード…!!」
「………よく見ろ」
「………え?」
「彼らに微かに流れていたマナがもう流れていない。………つまり、もう既にあの人達は、死んでる」
────救けられなくて、ごめんなさい。
「エリュ………ガード」
私は、声にならない想いを、私の愛しい彼の名前を呼ぶ形で、口ずさむ。
「………逃げよう。シャーナ」
「…うん」
エリュガードが後ろを振り向く。そして、そこにはグルーシャさんがいた。
「白龍のこと、頼みました」
「ああ、任せろ」
そのグルーシャさんの顔には、やはり、勇敢さだけではなく、あの時と同じ怯えが映っていた。
****
(数分後。視点は、グルーシャに移る)
「10年ぶりだな。白龍。……覚悟しておけ」
私は、息を深く吸い込み、地を震わす踏み込みを見せる。そして、私の身体は、剣を構えたまま宙を舞う。
「お前を殺すのはこの私…!!! グルーシャ・ランドだ!!!!」
────因縁の対決と言ったところだろうか。
「 グオオオオオオオオオオオオオオ!!!! 」
白龍の耳障りで、忌々しい咆哮が、私の耳をかすむ。しかし、その程度の"痛み"は、かすり傷だ。
あの時の…お母さんの苦しみに比べれば。
****「お母さん!!!! お母さん!!!! 息をしてよお!!!!」****
────白龍は、今日…私が終わらせる。
私の愛するみんなを守る為に。
そして、母を殺した白龍への復讐の為に。
****「お母さん!! 死んじゃ、やだあ!!!」これは、この私グルーシャの記憶。「グルーシャ……貴女は生きるのよ。生きて、生き抜いて、幸せになるのよ。……だから、そのために、私のことは…忘れて?」
決して、忘れることのない…あの日の記憶。
****
私は、その記憶を忘れなかったから、今…ここで立ち向かえる。
もちろん、仲間や街の人を守りたいという気持ちのほうが、私の中では少し強い。
その想いの原動力は、まだ完全に失われたわけではなく、私の今の努力でなんとか出来る問題。
でも、私はあの気持ちを…
母を失った時に誓った復讐を…決して忘れることはないだろう。
だから、私は剣を構える。
そして、先ほど地面を強く蹴った推進力のまま、空高く飛ぶ白龍の目ん玉に剣を突き刺そうとする。
「くたばれえ!!!! 白龍!!!!!」
──── 奴の白銀の翼を、ズタズタに引き裂き、殺すために。
私は、白龍の頭上に着地し、そのまま奴の頭に剣を突き刺す。
そして、そのまま私は白龍の頭部を破壊するために、その剣を突き刺したまま、あの術を唱える。
「 CHRONICLE EVERGARDEN !!!」
────それは、人類がまだ見ぬ楽園の名前。
既に霊魂と化した故人の異能を、現世に呼び寄せる花の楽園。
その楽園が、今、白龍の頭部に顕現し、無限の斬撃を白龍の頭一帯に与え続ける。
「 グオオオオオオオオ!!!! 」
鳴り響く白龍の咆哮。続く斬撃。
「これで終わりだあ!!! 白龍!!!」
…しかし、この甘美な花で造られた楽園の領域には、固有の限界がある。
それは……
「我々悪魔の有する権能────"GUILTY"に弱い」
────その声は、突如として、上空から現れた。
その声の主は、30代後半の男。その男の渋い声と共に、白龍の頭部を破壊する斬撃は収まってしまった。
あまりの予想外の展開に、流れ出る汗が止まらないグルーシャ。
彼女が状況を理解するには、時間が要するはずだ。
しかし、その前に、その声の主の"GUILTY"は発動していた。
「顕現せよ。我が権能────"WITH YOU"」




