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クロニクル・エヴァーガーデン  作者: ロクト
第一部 悲しき冒険譚の始まり編
13/20

13

メアリーが何故、私の名前を知っていたのか。


これは、そのことを1時間ぐらい考え続けていた時のこと。「おーい!! シャーナ!! 行くぞー!!」エリュガードの声がこだまする。どうやら、私達は荷造りを終わらせることができたようである。


そして、それからすぐに、私達は馬の毛並みをみんなで撫で、お日様の光を直視しないように気をつけながら、馬車に乗り込む。


もちろん、私とメアリーとエリュガードだけではない。エルザも一緒だ。


「それじゃあ!! 出発だ!!」


エリュガードがそう無邪気に叫ぶと、私達の愛馬の元気の良い唸り声と共に、馬車は動き出した。


****


私達は今、気持ちの良い草原を馬車で横切っている。


その草原の気持ちよさは、夏のそよ風の爽快さと涼しさ、馬車の影の隙から差し込んでくるお日様の光、そして海の近く特有の潮風によるものがあった。


そして、私達の視界に、遂にその港町と海が映る。


その目的地に着いたという解放感と、日光を反射して、宝石のような輝きを放つ海の美しさによる高揚感で、私とエリュガードは、思わずも同時に同じことを言うことになる。


「港町ウォルトンに着いたぞお!!!」


私達は、思わず目を合わせる。そして、お互いの驚いた顔を見ると、私達は笑いが止まらなくなってきた。


「全く…お姉ちゃん達、何がそんなに面白いのー?」


メアリーは、その光景を前に、キョトンとしていた。


「二人とも、楽しそうで良いですね!」


それに対して、エルザは私達の仲良しさを、微笑ましく見守ってくれていた。


****


潮と魚と、微かな火薬の匂い。外国の言葉と、船乗りたちの荒々しい笑い声が混じる喧騒。海鳥の鳴き声。マストが墓標のように林立する港の景観。


その水運の街の何もかもが、私達には新鮮だった。


私は、そんな街で、馬車をいつも通り宿の繋ぎ場に置かせてもらうことにした。


そして、私達は一旦、この街を知るために、観光をすることにした。


****


「うんめえええ!!!!」


またしても、私とエリュガードは同じ時に、同じ言葉が出た。そのイカ焼きは、あまりにも美味しかったので、またそのような珍事が起こったのだ。


「ここは海賊様のおかげで潤ってんだ!! 君達子供にまで代金は要求しねえよ!! ガハハ!!!」


私達は、その店主さんの笑い声に思わずシンクロしてしまった。私達3人の楽しい笑い声が、近くの新鮮な魚を扱う市場にいたメアリーやエルザにまで、響く。そして、メアリーはまたそれを見てキョトンとしていて、エルザもまた遠くから見守ってくれていた。


…それにしても。私とエリュガードは、あの密会以来、さらに仲が深まった気がする。


だって、私とエリュガードの距離感…明らかに近くなっているし。


正直、嬉しい。


エリュガードは、私を求めてくれている。


それが恋心によるものなのか、親友としての仲の良さによるものなのか、それとも……私のお父さんに対する罪悪感?


いや、罪悪感が理由だなんて、そんなことは絶対にない。


絶対に……


そんなことを考えて、急に下に俯き始めた私の頭を、エリュガードはポンポンと叩いてくれた。


「落ち込むなって。ほら。俺、イカ焼き2つ買ってたから、お前に一つやるよ」


……ずるいよ。エリュガード。


私、こんなに君に優しくされ続けたら。君のこと、もっと好きになっちゃうよ。


……


あとそれと、メアリー。


君も、美味しそうに食べるんだね。


もしかして、君は…マーガレットだったりするのかな?


私の前世の親友だった…あのマーガレットだったり……


いや、ないか。そうだよね。きっと…そんな偶然はない。


エリュガードが、そうだったように。


****


イカ焼きを食べて元気を取り戻した私は、エリュガード達3人と一緒に、近くの気持ちが落ち着きそうな花畑に行った。その花畑は、あまり大きくなく、そんなに人は入れないぐらいの大きさしかなかった。


すると、そこには、20代くらいの大人のお姉さんが、ただ一人、ポツンといるのが、私には見えた。彼女は、私達の視線に気づいたのが、こちらに柔らかい視線を移す。そして、彼女は、私の目を見ると、こう微笑みかける。


「君、花は好きかい?」


「…好きです」


「君、名前は?」


「シャーナ。シャーナ・ロビンソン…貴女は?」


「私はね。グルーシャ・ランド。女海賊さ」


そう言うと、彼女は無邪気に、微笑む。



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