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「シャーナさんのお父さんが…そんな」
エルザはそう言うと、下の石畳の道に目線を移した。その俯き方は、彼女が私の父と過ごした、10日間の苦くも青い春を思い出させるようであった。
しかし、彼女は強かった。彼女は、それでも挫けることなく、前を向き直した。その凛々とした表情は、まさに宝石のように、お日様の光に照らされながら、輝いていた。
「でも、絶対に諦めちゃいけません。……私、決めましたから。もう弱虫じゃいられないから」
彼女は、私の肩を持ち、寄りかかる形で、私の瞳をまっすぐに見つめた。
そのまっすぐさが、彼女の生き方であり、覚悟だった。
「私も魔女殺しの手伝いをさせてください。…もう、誰も失わなくて良いように。……そして、もしクロニクル・エヴァーガーデンなんていう花畑があるなら、もう一度、一瞬でも良いから、父に会ってみたいから」
私は、彼女を、再会した時よりも強く抱きしめた。
「うん。よろしくね。エルザ。…私、君に出会えてよかった。友達として。…本当に」
「はい。私もです! シャーナさん。…でも、ちょっと締め付けが痛いかも」
そう言われて抱きしめる力を少し弱くした私に対して、エルザは…天使のような笑顔で、微笑んでくれた。
だから、私も君の温かい笑顔に対して、微笑み返してやるんだ。
「うん! これからもよろしくね!! エルザ!!」
「はい!!!」
こうして、私達の冒険譚は再スタートすることになった。
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私達4人は、次の街に向けて、荷を馬車に積み始めた。その作業は非常に力のいることであったが、村の精鋭である私達にとっては、造作でもなかった。まあ、この積荷が終わったら、次の街どこにするか決めないといけないんだけど…普通、順序逆でしょ。全く…バカエリュガード。…バカ。そんな私の乙女心はさておき、これは、私が気持ちのいいようで、少し憂鬱な朝に、村から連れてきた愛馬の手入れをしていたときのこと。
私の背後に、人影が現れた。
「だ〜れだ」
その人影は、私に近づくと、私の目を隠した。しかし、その問題は、あまりにも簡単だった。
だって、私達は幼馴染なんだから。
「エリュガードでしょ。分かってるよ。それぐらい…てか、足音がした時点で気づいてたよ」
すると、エリュガードは、ゲラゲラ笑いながら出てきて、私の隣に座った。
「さすがだな!! シャーナ!! やっぱりお前には構わねえわ!!!」
「…エリュガード」
「……どうした? シャーナ。浮かない顔して」
浮かないのは当然だ。
だって、お父さんが死んだんだから。
「君は…いなくならないよね」
私は、目に涙を浮かべながら、そう震える唇で、彼の瞳を見つめる。ーー彼の唇も、震えていた。
それでも、彼は、私の頭をポンポンと叩いてくれた。
「大丈夫。俺は居なくならないよ。絶対…世界の全てがお前の敵になっても…お前を守るって決めてるからな」
私は、涙を少しずつ落としながら、それに頷く。
「ありがとう…! ありがとう!! エリュガード!!」
……エリュガードは、良い人だなあ。
そして、最近、彼のその朗らかな雰囲気が、私の前世の夫に似ていることに、私は気づいた。
その夫の名前は、ヘルク。
彼は、私と彼の治めたこの国を守って、死んだ。
彼は、最後まで、良い人だった。
エリュガードも、きっと、最後まで…良い人なのだろう。
そして、きっと、私のこの想いは、私の想い過ぎなんだろう。
だけど、それでも…私はもう耐えられない。
「あの……エリュガード」
「ん? どうした? シャーナ」
「私達、前世で会ったことある…よね?」




