第9話:レイナの“無邪気な煽り”と秘密の共犯関係
「ねぇ、リゼット」
レイナの声が、
いつもより少しだけ甘くて、
それだけで胸の奥がドクンと跳ねた。
私たちは小さな野営の灯りのそばにいた。
昼間の訓練が終わって、
魔核獣の気配もない穏やかな時間。
でも、
この静けさが逆に息苦しい。
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「最近さ……ちょっと慣れてきたでしょ?」
「……っ……!」
頭の中が真っ白になった。
「や……やめてください……
そ、それは……な、慣れちゃったわけじゃ……!」
「ふふ、ほんとに?」
レイナはいつもの冷静な瞳で、
私を真っ直ぐに見た。
その視線に、胸の奥を覗かれてるみたいで
魔力紋がぴくっと縮む。
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「だって今日、
私が腰に手を回したとき、
前みたいに大きな声、出なかったものね?」
「そ、それはっ……!」
恥ずかしくて顔を両手で覆った。
でも手の下で頬が熱い。
心臓の音が、自分でもうるさいくらい鳴ってる。
(やだ……何でこんなに……)
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「リゼット」
不意にレイナが私の手を取り、
そっと指を絡めてきた。
その手は少し冷たくて、
でもそれがクリアパーツ越しの魔力紋に触れて、
そこからじんわり熱が広がる。
「……私ね、
あなたが慣れちゃうの、ちょっと寂しい気もするの」
「……え?」
「前はさ、
触れるたびにびくってなって、
変な声出して、
顔真っ赤にして泣きそうになってたでしょ?」
「……っ……そんなの……!」
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「最近は、そうならないから。
ちょっと物足りないのよ」
レイナはいたずらっぽく笑った。
「……って言ったら、怒る?」
「も、もう……っ……やめてください……!」
顔がもう、焼けそうなくらい熱い。
なのに、レイナは楽しそうに微笑んで、
私の額にそっと自分の額をくっつけた。
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「でもね、リゼット」
その声は、さっきまでのからかう調子じゃなかった。
「あなたが慣れてきたってことは、
ちゃんと私の隣で、強くなってるってことよ。
……それはちょっと、嬉しい」
「……っ……レイナさん……」
「だからこれからも、
いっぱい恥ずかしい思いして。
私の前だけで。
――それが、二人だけの秘密だから」
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胸の奥がズキュン、と変な音を立てた気がした。
魔力紋がまた赤く脈動して、
それをレイナが見て、嬉しそうに細い声で笑った。
(……もう、この人には全部見られちゃってるんだ……)
でも、
それが少しだけ、
怖くなくなってる自分がいた。
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「……レイナさんだけですよ。
そんな顔、見せるの……」
私が小さくそう言うと、
レイナは嬉しそうに目を細めて、
そっと唇を寄せた。
「知ってる」
その声が、
耳じゃなくて胸の魔力紋に落ちて、
またドクンと脈を打った。