第5話:PSUの進化、そして“透ける肌”という名の羞恥
戦いのたびに、
私の装甲は少しずつ変わってきていた。
最初は重厚で、
黒銀の鎧が私をしっかり覆ってくれていた。
胸も、腰も、太ももも。
冷たくて硬くて、それが安心だった。
だけど――
今日。
魔核獣を斬り伏せたその瞬間。
私のPSUは、
見たこともない色に変わっていった。
---
「……え……?」
視界の端が、妙にキラキラしていた。
ふと自分の腕を見下ろすと、
そこには薄いガラスみたいな、
透明な板が何層にも重なっているのが見えた。
奥には、はっきりと私の白い肌。
細い血管が青く浮かんで、
息をするたびにかすかに動くのが見える。
「や……っ……な、なにこれ……」
慌てて胸元を見る。
そこには、透けている装甲の奥に、
恥ずかしいくらい赤く脈打つ魔力紋。
まるで自分の皮膚じゃないみたい。
……いや、皮膚なんだ。
でもそこに装甲がある錯覚のせいで、
「透けて見えてしまう」ことが余計に恥ずかしい。
---
「リゼット?」
ヒロインが歩み寄ってきた。
彼女の瞳が私を覗き込んだ瞬間、
胸元の魔力紋がドクンと大きく脈打った。
「ひっ……や、見ないで……!」
思わず両手で胸を隠す。
でも、その手もクリアパーツ越しに自分の肌が透けて見えて、
意味がないことが分かる。
「ふふ……大丈夫。
それは、魔力の伝導効率が飛躍的に上がった証拠よ」
ヒロインはまるで当たり前のことのように、
すっと私の顎に手を添えた。
---
「ほら、ちゃんと顔を上げて」
「や……だ……恥ずかしい……」
「恥ずかしいのはいいことよ。
あなたの羞恥が、そのPSUを進化させたんだから」
「っ……な、何それ……!」
涙が滲む。
でも彼女は構わず、
クリアパーツ越しに私の腰へそっと手を伸ばした。
冷たくて、
でもそれが透けて見える装甲の奥まで届いて、
肌がピクッと跳ねた。
---
「っ……あ……!」
声が勝手に出る。
胸元の魔力紋がまた強く光った。
それが、ヒロインの目に確かに映った。
彼女は唇をわずかに開き、
うっとりするみたいに細い息を吐いた。
「やっぱり綺麗ね……。
魔力紋が透けて見えるって、本当に珍しいのよ。
あなたは特別だわ、リゼット」
「……そんなこと、言わないで……!」
頭が真っ白になる。
羞恥と、それを「綺麗」と言われた背徳感が
胸の奥でぐちゃぐちゃに溶け合っていく。
---
そのとき、
クリアパーツの装甲がふっと淡く光って、
装甲と皮膚の境目が分からなくなった。
「ひ……っ……ど、どこまで……見えて……」
呼吸が浅くなる。
魔力紋が呼吸に合わせて小さく伸縮して、
それが自分の心臓を見られてるみたいで、
ゾワゾワした。
「大丈夫。ほら――」
ヒロインがそっと、私の装甲の上から撫でた。
でもそこは、
ほとんど皮膚と変わらない極薄のクリア。
指の形が直接、魔力紋の上に押し当てられる。
---
「や……っ……だ、め……!」
恥ずかしくて腰が引ける。
なのに、逃げられなかった。
その指が冷たくて、
魔力紋が小さく脈打って答えた。
「……っ……いや……ぁ……」
また変な声が出る。
ヒロインは少しだけ微笑んで、
何も言わずに手を離した。
「これから、もっと透けるようになるわよ。
でもそれは、あなたが強くなる証だから」
---
(や……だ……そんなの……っ)
でも、
胸の奥で脈打つ魔力は、
また一つ、熱を増していった。