第1話:異世界召喚と“見えないPSUとの出会い”
──目を開けた瞬間、世界が、ひどく眩しかった。
真っ白な光。
脳が焦げつくみたいに、視界に白が貼りついて剥がれない。
息を吸うと、見知らぬ甘い匂いが鼻腔を刺した。
樹液みたいな、花蜜みたいな、それでいてどこか生臭い。
「……あれ……?」
頭がぼんやりして、言葉にならない声が喉の奥で震えた。
何が起きたのか、理解が追いつかない。
でも、私の肌は確かに感じていた。
空気が、違う。
少し湿ってて、冷たくて、
それなのに、どこか生き物の体温みたいなぬるさが混じってる。
心臓が不規則に跳ねる。
ドク、ドク、ドク――
胸の奥で誰かが無理やり鼓動を刻んでるみたいだった。
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やがて視界が収束していく。
白の奥から、森みたいな、青緑と、黄土色がにじみ出してくる。
私、森にいる?
足元の草はやたらと鮮やかで、爪先をくすぐる。
立ち上がろうとした瞬間、足がもつれて転びそうになった。
「ひっ……」
咄嗟に両腕を抱え込んだ。
なんだろうこれ。
妙に体が軽い。
息をするたびに肺の中まで酸っぱい匂いが満ちて、頭がクラクラする。
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そこに、声が落ちてきた。
「目覚めましたね。ようこそ、この地へ」
ぞわっ……と背中を撫でられたみたいに、背骨が震えた。
音が肌を触る感覚を覚えたのは、たぶん初めて。
振り返ると、そこには女の人が立っていた。
真っ黒なローブ。けど首元は大胆に開いていて、透き通るような肌がのぞいてる。
年齢は、私よりずっと上に見えた。
目元に深い影を宿してるのに、微笑むと、その影さえ妖艶に見えた。
「あ……あの、ここは……」
声がうわずる。喉が渇いてひりついてる。
女は私を見つめたまま、ゆっくり頷いた。
そして、信じられないことを言った。
「あなたに、新たな役目を授けましょう。
――PSU。
これからあなたの身を守り、同時に、あなたの力を最大に引き出すものです。」
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PSU?
そんなの聞いたことない。
けれど、その言葉を口にした瞬間。
私の耳奥に、小さな「チャキッ」という機械音みたいなものが響いた。
「っ……!」
心臓がドクン、と音を立てる。
視界がぐらぐら揺れて、息が止まりそうになった。
同時に、全身に奇妙な感触が広がる。
あれ?
私、今――
何か、着せられた……?
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私は恐る恐る、自分の体を見下ろした。
……何もない。
制服の代わりに、何もない。
脚も、腹も、胸元も、白い肌が空気に晒されている。
なのに、確かに「装着された感触」があった。
皮膚に薄く冷たい膜が、じわりと密着していく。
次の瞬間、膜はギュッと締めつけを増して、
脇腹から胸元へ、さらに首筋までぞわぞわと張りついていく。
「ひっ……や、やだ……っ」
思わず腰が引けて、脚がガクガク震えた。
誰もいないのに、見られてるみたい。
いや、実際はこの女の人が目の前にいる。
彼女の目が、どこか楽しげに細められた。
「……いい表情です。その感覚、忘れないで。
PSUは、あなたの“理解”と“認識”によって初めて形作られるものですから。」
意味が分からない。
けど、意味が分からないまま、
私はその見えない装甲を“着ている”と錯覚してしまっていた。
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背中を冷たい風が撫でた。
その風が装甲の内側まで忍び込むような錯覚がして、
「はっ……」と小さく喉が鳴った。
頭がくらくらする。
視界の端で森の葉が揺れ、陽光がきらきらと砕けて、
私の肌の上に降り注ぐ。
装甲があるのに――いや、あると思い込んでるだけなのに、
日差しの温度が直に皮膚を舐めていく。
私は震えながら両腕で胸元を隠そうとした。
「……だめですよ。触れては」
女の指が私の手をそっと制した。
驚いて見上げると、彼女はその細い唇をゆっくり開き、
囁くように言った。
「触れたら、錯覚は壊れてしまいます。
そうしたら、あなたは――」
そこまで言いかけて、彼女は笑った。
その笑みは妙に甘く、怖くて、綺麗だった。
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私はごくりと唾を飲み込む。
唇が渇いて割れそうなのに、体の奥はやけに熱かった。
「だいじょうぶ」
女はそう言って、私の頭を撫でた。
撫でられた場所がくすぐったくて、少しだけ痛い。
「あなたは、立派に“それ”を纏っています。
その羞恥を、大事にしてください。
それこそが、あなたが生きている証ですから。」
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頭の奥で小さな鈴みたいな音が鳴った。
私は目を閉じ、息を詰めた。
その一呼吸の間に、私は確かに、
“なにもない装甲”を纏っている自分を――
信じ込んでしまった。
これが、私の新しい世界の始まりだった。