第8話 ムーン大学長 月に惑う。
ムーン大学長
月に惑う。
人が成長しようとするときには、夢を見ます。その曖昧な意識の中で、まるで繭の中で成長する蝶のように、人は夢の中で成長するのです。その形を『本当に違うもの』に変えるんですよ。
レアは一人で階段を降りていった。
ミカはいない。この隠されていた大図書館の地下に続いている(こんな地下があるなんて知らなかった)階段のある扉の入り口のところで「ここからはレアさん一人で行ってください。そうしたほうがきっと、『とても幸運なこと』が訪れるはずですから」と言って、いやらしい顔で笑ってから、いたずら好きの天才兎は星と月の輝く明るい夜の中を歩いて、どこかに行ってしまったのだった。
その階段は、薄暗くてとっても長い地下に続いている階段だった。
ところどころに古風な可愛らしいランプがあって、階段のあるせまい通路を照らし出している。
その天井や壁には一面に不思議な形をした見たこともないへんてこなお魚さんたちの絵が子供の描くような絵で描かれていた。(クレヨンで描いたような絵だった。本当に百人くらいの子供たちが遊びながらみんなで楽しく描いたあとみたいだった)
なんだか奇妙な深海の水族館にでもきたみたいな、あるいは本当に海の深いところを歩いているような(変なお魚さんしかいないし、暗いから、やっぱり深海の底なのだろう)あるいは、どうしてそう思ったのか不思議ではあるけれど、月の大地の上を歩いているような、そんな気持ちにレアはなった。
やがて、そんな階段が終わって(終わりがあってよかったとレアは思った。途中から、ずっとずっと、永遠にこの長い階段は続いているのではないかとレアはそんな不安な気持ちになっていた)
そこには小さな木の扉があった。
丸みを帯びたどこか作りもののように思える扉だった。
とんとん、とレアは緊張しながらその小さな木の扉をノックした。
すると「どうぞ」とまるでレアがこの時間にこの場所を訪ねてくることが始めからわかっていたみたいにして、すぐにそんなとても可愛らしい声が小さな木の扉の向こうから聞こえてきた。
その声にレアは聞き覚えがあった。
その可愛らしい女の子の声は、大学エデンの頂点に立つ大学長であるムーン大学長の声だった。
その声を聞いて、ぶるっと一度、レアの身体が小さく震えた。