第22話 とっても深い落とし穴
とっても深い落とし穴
待って。みんな。私をここに、ひとりぼっちで置いていかないで。私を一人にしないで。
「ミカ。あなた体が強いですね。出発して、すぐに疲れてしまうと思ってましたよ。おんぶしてとか言い出すものだとばっかり思っていましたわ。ちょっとだけ見直しましたよ」
と感心した顔をしてセラは言った。
それはレアも思っていたことだった。
ずっと危険と隣り合わせで、動きっぱなしの冒険の中で、冒険者でもないのに、ミカは疲れた様子を全然見せなかった。(それはなかなかできることではなかった。レアもはじめは本当に大変だった)
「体は基本ですからね。いつも運動をしているんですよ。朝、大学エデンの大神殿あたりの校内を走ってます」
とふっふっふとなんだか(珍しくセラに)褒められてすごく嬉しそうな顔をしてにっこりと笑ってミカは言った。
「体はあらゆるものの基本ですからね。それに鍛えられて引き締まった美しい肉体には美の女神が宿るのですよ」
そう言ってミカはすらっとしてる細身の自分の体を、小さな胸を張って、背筋を伸ばして、大股を広げて立って、(まるで小さな女の子がお母さんに自慢するようにして)セラとレアにどうどうと見せつけるようにした。
「どうですか? 美しいでしょう。素晴らしいでしょう。誇らしいでしょう」
とミカは言った。
神様の生み出した奇跡の芸術のような伝説の種族である白い月兎のミカは本当に美しかった。
白い月兎はみんな本当に美しい人ばかりで、大人になるとまるで本物の(大学エデンの正門にある彫刻のような)美の女神様みたいになった。(背は高くて、腰は細くて、胸とお尻は大きかった)
ミカはまだ十四歳なので、体は未成熟だったけど、その小さな体にはたしかにミカの言う通りにちゃんと美の女神が宿っていた。(きっとミカも大人になったら美の女神様みたいになるのだろう)
そんなときセラがみんなの動きを手を差し出して止めた。
そして後ろを振り返って、くちびるに人差し指をぴたっとあてて、静かに、という合図をミカとレアに送った。
「なにかいます」
ととても真剣な小さな声で、セラは言った。
レアはセラのすぐ後ろに物音を立てないように気をつけながら移動する。
ミカも、レアと同じように動いた。
神域の不思議な森の中。
どんな生きものがいたとしても、不思議じゃない。
珍しい生きものも。
危険な生きものも。
まだ、誰も見たことがない、生きものも。
セラが慎重に森の中を動いて、その先の風景を観察する。
なにかいる。
そしてセラは、……、その森の木々の中に、子供のらくがきみたいな、あっかんべーの顔の絵の貼ってある、白い兎のぬいぐるみを見つけた。
その白い兎のぬいぐるみはまるで生きているようにして、小さく手足をじたばたするようにして大地の上で動き続けている。
白い兎のぬいぐるみ?
なんでこんなものが神域の森の中にあるの? 兎? もしかしてミカのいたずら?
……、あっ、まさか! と思ったときだった。
「レア! 逃げて!!」
「え?」
とセラが後ろを振り返りながら、レアに言って、急にそう言われて、驚いた顔をしている顔のレアがそう言ったとき、二人の視界がすとんと落ちた。
二人のしゃがみ込んでいた大地の下。
そこには『誰か』が掘った落とし穴が『獲物』を捕まえる罠のようにして、本当に巧妙に隠されて掘ってあったみたいだった。
「しっしっしっ。うまくいきましたね」
と言うミカの嬉しそうな声が落とし穴の上のほうから聞こえてきた。