表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/22

第19話 とっても大きな、大きな白い月が見える夜

 とっても大きな、大きな白い月が見える夜


 新しい夢を見るように。古い夢を懐かしむように。

 

「新しいことを考えることができる人は、新しい夢を見ている人だけです。古い夢を見ていては、いつまでも同じ毎日が繰り返されるだけで、新しい夢を見ることはできません。そこに不思議なことはないのです。神様の奇跡も。人生を変えるような幸運もありません。あるのはただの当たり前のことなんです」

 そんなことを透明な神域の湖の冷たくて気持ちのいい水に足をつけながらミカは言った。

「命は儚いものです。本当に成し遂げたいことは、急いでやらないといけません。でなければ、手が届く前に、命がなくなってしまうでしょう。命は夢が叶うことを、まってくれたりはしないのですから」

 ミカはそこで湖の水面から顔を上げて、夜空を見上げた。

「なにもかもが失われていきます。時間と一緒に。あらゆるものが、なくなってしまうのです。どうしようもないことですけれど、とても悲しいことだと思います。基礎を学んで、この今私たちが座っている石のように、しっかりとした土台を作り、その上にこつこつと毎日の経験を積み重ねていきます。(ミカは拾った面白い形の石を座っている大きな石の上に重ねて積み上げるようにした)それはとても良いことです。夢を叶えるための一番の近道でもあると思います。……、でも、とても時間はかかります。それを待っていられないときもありますね。そんなときは少し無理矢理でもなにか無茶な冒険をしなければいけないのです。たとえば、立ち入ることを禁止されている危険な土地である神域にいく、と言うようなことですね。今の私たちのようにね」

「ミカ。あなたやムーン大学長のような天才でも、まだ手の届かないようなことや、わからないことがあるのですか?」

 と、ミカと同じように夜空に輝いてる大きな大きな白い月を見ながらセラが言った。

 結局、今日は見つけた湖で夜を過ごすことにした。

(食べられるものがあったり、水があったりするようなところ。それから安全なところを見つけたのなら、焦らずまずはそこを秘密基地にして、行動をする。それが冒険者の掟にもちゃんと書いている鉄則の一つだった。しかもここは未知の土地、神様のいるところ、世界で一番危険な大地、神域なのだ。今までの冒険よりも、じっくりと。油断しないで冒険をしなくてはいけない。神様がどこかで私たちのことをじっと見ているかもしれないのだから)

 神域の夜はとても不思議な夜だった。

 透明な夜。

 怖いくらいに美しい夜。

 とても空が透き通っていて、たくさんの(まるで砂浜の砂をばら撒いたみたいだった)星がとても綺麗に白くきらきらと輝いていた。

 驚くほどに大きな、大きな白い月が、とても眩く夜を照らして輝いている。

 なんだかとっても高い山の頂上にでもいるみたいだった。(空が高い場所にいるみたいだった)

「私が知っていることなんてほんの少しのことですよ。私の小さな手がつかむことができることもほんの少しのものだけなんです。それはムーン大学長も同じです。世界とはそれほど広くて、大きくて、未知のものなんです。でも、だからこそ、なんだかとってもわくわくしませんか?」

 と本当に楽しそうな(いつもの作りものの嘘っぽい笑顔じゃなくて)子供みたいな顔でにっしっしっと笑ってミカは言った。

 そんなミカを見て、セラもにっこりと子供みたいな顔で笑った。

 湖のそばにはみんなで準備したテントがあって、(ミカはすぐにどこかに遊びに行っちゃったけど)小さな炎が燃えている。

(人間の作り出した道具で灯した小さな炎だった)

 その小さな炎を囲むようにして、レア、セラ、ミカは神域の不思議な夜の中にいた。

 どこからか、なにか歌声のような声が聞こえた。

 初めて聞くはずの美しい獣の声。

 ……、なのにその声にレアは聞き覚えがあった。

「神獣が歌を歌ってる」

 と歌の聞こえてくるほうの遠くの夜空を見て、レアは言った。

 セラとミカも、その神獣の歌声に、じっとレアと同じ方向を見ながら、静かに耳をかたむけている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ