第18話
レアは朝にシャワーを浴びたときのことを思い出した。
シャワーを浴びていると、なんだか新しい自分に生まれ変わったような気がする。
そう。それはまるで蛹が蝶になるように。
古い自分の殻を脱ぎ捨てて、新しい体に生まれ変わるように。
昨日とは違う、今日の新しい自分になる。
そんなことを神域の不思議な森の中を歩いているときに、美しい蝶を見つけて、レアは思った。
神域には本当にさまざまな新種の生き物たちがたくさん生息していた。(お散歩しているだけで、世紀の大発見の連続だった)
今、レアが見ている美しい白い光を放っている不思議な蝶にもまだ名前がない。誰も見つけていないからだ。(もちろん、今、レアが見つけたから、大学エデンに報告すれば、レアが発見者として、この新種の神域の蝶に名前をつけることができた。でも、レアはそうしようとは思わなかったし、セラもミカも、大学エデンに神域の新種の生き物を発見したと報告をしようとはこれっぽちも思っていないみたいだった)
美しい名前のない蝶はどこかに飛んでいってしまった。
レアは心の中で、さようなら、とその蝶に言った。
「誰が本当のことを言っているのかなんてわかりませんよ。偉い人でも、有名な人でも、頭のいい人でも、良い人でも、もちろん、悪い人でも、誰も本当のことを言っているかはわかりません。本当のこと。嘘のこと。この世界の真実はどこにあるのでしょう? きっとどこにもないのでしょうね。それを知ることは誰にもできないからです」
ミカは言った。
「本当のことを言っている人だって、たくさんいますよ。それは被害妄想が強すぎですよ。ミカ」
と先頭を歩いているセラがちらっと後ろを振り返って(まるで子供に注意をするお母さんみたいだった)ミカに言った。
「そうですかね? 少なくとも私は嘘つきですよ。本当のことや真実を話したことは、まあ、ちょっとはありますけど、ほとんどありません。みんなの知っているミカは、私の作り上げた幻想のミカ。空想の兎なんです。まあ、イデア(理想)みたいなものですよ。本当はそんな人はどこにもいないんです。本当にどこにもね」と言って、にっしっしとミカは子供みたいな顔で笑った。
神域の不思議な森の奥に進んでいくと、そこには、本当にとても綺麗な湖があった。
そこで一度、レアたちは休憩をすることにした。
レアは触れそうな大きさの平べったい石の上に座った。すると思っていたよりもずっと、自分が疲れていることがわかった。