第15話
ミカは舞台衣装のようなとても美しい青と白のハーフパンツの冒険者の服を着ていた。(小さな青色の帽子を頭の上にちょこんと乗せていて可愛かった)ミカがとても美しい顔と形をしていて、白い兎として、真っ白な髪と体をしているから、本物のお人形さんのようにとっても綺麗だったのだけど、今、ミカはかっこ悪いことにセラに縄で体をぐるぐる巻きにされていた。
「さて、ではこの縄をほどいてもらえませんか?」
と縄でぐるぐる巻きにされているミカは笑いながら縄の先っぽを持っているセラに言った。
「密航者の縄をほどくわけないでしょ? ミカ」
とセラが優雅に笑いながら、美しい白い癖っ毛の髪を手で撫でるようにして触ってから、そう言った。
「おや、密航者ではありませんよ。たまたまこの大きな箱の中でお昼寝をしていたら、この大きな箱と一緒にこの神域に向かうレアとセラの乗っている気球の中に荷物として積み込まれてしまっただけですよ。まったくの偶然です」
とミカは言った。
もちろんそんなことを言っても、セラはミカの縄をほどいたりはしなかった。(荷物だって箱一つ分、ミカの代わりになくなってしまったのだ。気球に荷物を乗せるの大変だったのに)
そんなことを言っている間にも、気球はだんだんと神域に向かって進んでいく。
レアとセラは神域に気球がついたときの準備を始める。
そんな忙しそうな二人な様子をにこにこしながら、縄で縛られているミカは楽しそうに(旅行のときに両親が準備をしているのをずっと見ている子供みたいに)見ていた。
「ムーン大学長の研究で一番有名なものは『感情を結晶化する研究』に成功したことだと思います。心を結晶化して目に見える形で、まるで宝石のようにして、保存をしておくことができる。見えない心を結晶化して、目に見えるようにする。素晴らしい研究です。ムーン大学長が天才の中の天才だからこそ成功した研究ですが、あらゆる研究にはその研究に研究者が深い興味を持つ深い個人的な理由があります。おそらくムーン大学長が感情を結晶化する研究をしようと思ったのは、『ムーン大学長には、感情がない』からでしょう。普段はあるように振る舞っていますが、ありません。からっぽなんです。ムーン大学長の心の中はね。だから知りたいと思った。興味が惹かれた。笑うってどう言うこと? 悲しいってなに? 嬉しいってどんなことだろう? 涙ってどんなときに流れるんだろう? 恋ってどきどきするのかな? 愛はどんな感じがするんだろう? あったかいのかな? 感じてみたいな。知ってみたいなって、きっとそんなことを思ったんだと思いますね。からっぽの心の中で」
と自分も天才の中の天才であるミカはそんなことを楽しそうな顔で誰に話しかけるわけでもなく、大きな声のひとりごとのようにして言った。(たぶん、することがなくて暇だったんだな、とレアとセラは思った)
ミカの話したムーン大学長の感情の結晶化の研究の話はとても有名な話だった。(歴史の中の偉人たちの話と同じくらいに有名だった)
ムーン大学長に感情がないことも同じくらい有名な話であり、もちろん、レアもセラもそのことは知っていた。(でも、みんなそのことを言葉にしたりはしなかった。みんな知っているけど、みんな知らないふりをしていた。こんな風にどうどうと言葉にするのは、ミカくらいのものだった)