第13話 やがて世界は一つになる。
やがて世界は一つになる。
泣いている女の子がいる。
どうして泣いているの?
そう優しい声で、泣いている女の子にレアは言った。
……お願い。私に構わないで。もう私のことを、世界のどこにも探さないで。お願いだから、私を、……。
……、誰? あなたはいったい誰なの?
レアは夢の中で問いかける。
知らない声。でも、まるでムーン大学長と同じくらいの年頃の、とても小さな十歳くらいの女の子だと思える、幼い声。
レアの意識は、ぼんやりと目覚める。
すると、不思議な声は消えてしまった。
……、夏の夜と、淡い夢と一緒に。
「……、あなたは、誰なの?」
いつもの自分のふかふかのベットの中で目覚めたレアは、朝日の中で問いかける。夢の中のように。自分の誰の手も握っていない右の手のひらを見つめながら。
どんな世界にも、天才と呼ばれている人たちがいる。
レアの知っている世界の天才。
それは、白い兎のミカ。
世界中の誰もが認める天才ミカ。
大学エデンのトラブルメイカー。自分の研究(遊び)のためなら、どんな規則でも平気で破ってしまう問題児。(天才とは、永遠の子供のことなのかもしれない。ムーン大学長も子供だし)
そんな天才兎の生涯をかけた研究のテーマは、……『不老不死』、あるいは『永遠の命』の獲得だった。
それをミカは本当に自分の命が尽きる前に生み出そうとしているのだった。
……、どんな『禁忌』をおこなっても。
永遠と広がっている青色の空。
その中を吹く強い透明な風。
冒険者の気球は、まるで子供が手を離してしまった風船のように空の中を飛んでいる。
いい風。
なんだかとってもいいことがありそうだな、と幸せそうな顔で笑いながら冒険者の服を着ているレアは思った。
気球の中にある大きな箱の後ろからぴょこんと兎の耳が飛び出している。
それを見つけたのはセラだった。
セラからこっそりとそのことを教えてもらったレアは、とても大きなため息をついた。(結局、あんまりよくないことが起こってしまった)
「あの、なにをしているんですか? ミカ」
大きな箱の後ろにこそこそ隠れているいたずら好きの天才兎は、驚いた顔をすると、「あ、見つかってしまいましたか?」とふふふといやらしい顔で笑いながら、レアとセラの前に堂々とその小さな姿をあらわした。
もちろん、冒険者の格好をして。