第11話 星と月のお話
星と月のお話
「星と月の違いがなんだかわかりますか?」
くすくすと笑いながらムーン大学長は言った。
ムーン大学長のお話はこんなふうによく遠くに自由に飛んだ。
「固有のお名前があるか、ないか、ですか? あとは大きさでしょうか?」
悩みながらレアは言う。
「そうですね。そのお答えも正解です。ちゃんとした個としてのお名前があるかどうかです。大きさは距離の問題ですね。月と星の違いは、本当は近いか遠いかの、距離の問題だけなのかもしれません。もし月が遠くに行ってしまったらそれが月だって、満天の星空の中から見つけ出すことはできないでしょう」
とムーン大学長は言った。(確かにそうなのかもしれないなってレアは思った)
「私は月と地球は家族だと思うのです。子供とお母さんですね。もちろん私がそう思っているだけなのですけど、本当にそう思います。月は子供で、それも一人っ子だから、きっとお母さんが恋しくて、ずっとこんなに近くにいるのだと思います。ふふ。私とおんなじですね」
そう言ってムーン大学長はにっこりと笑った。
「教育とは星を見るようなものです」とムーン大学長は言った。(それはもしかしたら今夜がとっても美しい星空の見える明るい夜だったからなのかもしれない)
「きらきらと輝いている星を見て、あ、星ってこんなふうに輝くんだ。こんなに綺麗なんだって思うこと。そのきらきらした光を見たことを自分の中に大切にとっておくこと。なくさないように、ちゃんとしまっておくこと。そして、たまに思い出してそのきらきらした光をしまっていた箱を開けて、見てみること。それが教育なのです。人は勝手に成長します。その手助けをすることは、本当は誰にもできないんです。子供が勝手に成長するだけ。本当にそれだけなんです。だから教育はとても難しいんですね」
そこで、ムーン大学長は一度、言葉を話すことをやめて空を見上げた。
もちろん、ここは地下にある部屋だから夜空の星は見えない。だけど、ムーン大学長はその見えない星を見ようとしていた。あるいは、自分の心の中にある星の光を見ていたのかもしれなかった。