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第10話

「今は夜ですね。本当ならぐっすりと眠っているはずのお時間です。だけどあなたはここにいます。それはどうしてなのでしょう? レア。あなたは今、夢を見ていますか? それともちゃんと目覚めていますか?」

 とムーン大学長はにっこりと笑ってそう言った。

「私は目覚めています。夢は見ていません」

 レアは言った。

「ムーン大学長こそ、本当ならもうぐっすりと眠っている時間なのではないですか?」

 レアは言う。(それはムーン大学長がふぁーと眠たそうに小さな欠伸をしたからだった)

 それから、レアは小さな部屋の中に描かれているへんてこなお魚さんたちの絵に目を向けた。

 その絵はとても個性的で、不思議な魅力があって、なんとなく、ふと目を向けてしまうのだった。

 ……、この子供のらくがきなような絵はきっと、ムーン大学長が描いたのだろうなってレアは思った。

「この絵を好きになってくれましたか?」

 ムーン大学長は言った。

「はい。素敵な絵だと思います」

 レアは言った。(それは本当のことだった)

「どこが好きになりましたか?」

 嬉しそうにぶんぶんと足を動かしてムーン大学長は言った。

「はい。絵の雰囲気がとても個性的で独特だと思いました。今まで一度も見たことがない絵で、それから、……、描かれているお魚さんたちも見たことがない不思議な形のお魚さんたちばかりで想像力と表現力がとても豊かだと思いました」

 言葉を選びながら、レアは言った。

「ありがとう。この絵は私がお遊びで描いた絵です。でもお遊びでも一生懸命描きました。だから褒められてとってもうれしいです。だけど一つだけ間違っているところがあります。この絵はお魚さんたちの絵ではありません」

「お魚さんの絵ではない?」

「はい。違います。この絵は『私たちの絵』です」

「私たち?」

 そう言いながら、レアはぶるっと自分の体が震えるのを感じた。

「はい。私たちです。私たちみんなの絵です。私たちの生まれてから死ぬまでのみんなの絵です」

 とムーン大学長は言った。

 レアはムーン大学長の言葉を聞いてから、あらためてへんてこな形のお魚さんたちの絵をぐるりと見て……、とても怖いと思った。

 ムーン大学長の言っている私たちみんなが『人間のすべてを意味している』のだとわかったからだ。

 それも今、現在この世界に生きている人間のことだけではなくて、ムーン大学長の言っているみんなとは、過去から現在、そしてもし存在するのならこれから訪れるはずの未来に生まれてくる命を含む、そのすべての時間軸上に存在している人間という種全体のことを指しているだと理解した。(天才ムーン大学長のことを知っているレアにはその言葉の意味を理解することができた)

 ムーン大学長はぶんぶんと足を前後に動かして、にっこりと笑って楽しそうな顔をしながら、じっとレアのことを見つめている。

 そんなムーン大学長の目には私はどんなへんてこなお魚さんに映っているのだろう、とレアは思った。(できれば可愛らしいお魚さんがいいなと思った)

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