第二話
暖かな光を浴びながらゲートをくぐり抜け先は、先程居た冥界と同じく全てが真っ白で覆われた、真に天界であった。
断定した理由は、目と鼻の先にパルテノン神殿を想起させるギリシャ様式に似た神殿が建っていたからである。
確かに冥界にも神殿はあるが、それ等とはなにか根底から違うものを感じるのだ。
実際に冥界の神殿を訪れたことは無い故に明確な違いは何かと言われれば少々困るが、先程から俺の魂がここは天国であると叫んで止まぬのだ。
まぁそれに、冥界の神が「転生して〜」と言っていたことからもここが天国であろう事は容易く想像できるというものだ。
何はともあれ心の中でそう結論付けた俺は神殿の中へと進んだ。
長い思考を止めて周囲を見渡せば、この神殿がいかに巨大であるかをまじまじと感じることが出来る。
柱の一つ一つが世界一大きいとされるセコイアの木の幹の2回りは大きく見える。
その高さも軽く150mはあるのでは無いだろうか?
単にデカすぎる。
だがそれほど巨大であるのも、前世で読んでいたギリシャ神話を元にした小説での神々を思い出せば納得出来る。
何せ、神は巨大なのだ。
人と同じサイズであるのは神力でサイズが小さくなっているだけだ。
そも、人と同じサイズで描かれていること自体人間が考え決めつけた理想に過ぎない。
と…ダメだ、考え出したらキリがないっつーの。
そんなことを考えながら五分ほど歩いていると、ようやく奥の方までたどり着いたのか、大きな大きなシルエットが目に入った。
そこには巨大で荘厳な椅子に座り、それだけで罪人の魂の穢れも浄化されそうな可憐な笑みを湛えた女神様が座っている。
さらにその女神様が身にまとっている豪華なドレスはさながら流れる雲の如し優しさを感じさせるオーラを放っている。
故に目の前の女神様の身長が、見上げるほどに大きくとも関係がない。美しさは全てを許す。間違いない、ここは楽園であろう。
「ふふっ、そんなに褒めてくれる方に会うのは数百年ぶりですわ。はじめまして、木戸琢麿さん。」
どうやら俺の思考は読まれていたようだ。
まぁ、目の前にいるのは偉大な女神様である。思考を読むぐらい造作もないのだろう。
「はじめまして、麗しき女神様。お招き頂き恐悦至極に存じます。」
「あらあら、そんなに堅苦しくなくても良いのよ。それにしても珍しいわね、死んだというのにここまで落ち着いているのは、間違えて冥界に招かれた上に死に目にあったかからかしら?あら?でも普通さらに冷静でいられなくならないかなぁ」
「ふふ、ご心配には及びません女神様。私はあの場所で、生前取り憑かれたように読み漁っていたギリシャ神話の世界が実在していたことに驚き、しかも冥界の神と時間の神相手に会話をする事が出来てとても興奮しているのです。故に私は死への恐怖が薄れているだけですから。」
「まぁ、あまり問題が無いようで良かったです。さて、そろそろ転生についてのお話をしましょうか。まず、これから琢麿さんには5つのスキルを選んで頂きます。これには3つの種類があるから一つ一つ丁寧に教えますね。
まず1つ目はユニークスキルです。あなたの知る異世界とは異なり、このスキルを使用する際には一切の魔力を消費せず 、ただスキルによってクールタイムに違いがある程度です。2つ目はパッシブスキル。これらは魔力を消費するものの鍛えれば少ない魔力で効果を出し続けることが出来る、補助スキルです。例えば筋力増加のパッシブであれば魔力が続く限り延々と強いままです。そして最後が普通のスキルの説明です。これには超新星爆発なんて強力なスキルもあれば土起こしなんて言うちょっぴり地味で一見すると使えないようなスキルまで、無限大に存在しています。もっとも、弱そうなスキルで強者になった者など未だいないのだけれどね。」
「なるほど、5つのスキルですか。面白い構成が出来そうですね!因みに他にはどんなものが選択できるのか手短に教えて頂けますか?」
「ええ、もちろんよ。スキルを選んだ後はあなたの生まれ先を決定した後、神殿の最奥にある転生陣から転生をするという流れになるわ。以上だけど質問はあるかしら?」
「いや、問題ないですよ女神様。」
そう返すと女神様は朗らかに微笑み、スキルの選択が始まった。
✝︎
「よし!準備万端だな。」
「面白い組み合わせを選んだわね。これまで数え切れないほどの人間を転生させてきたけれどここまで面白いのはあなたが初めてよ。」
1時間ほど経っただろうか。俺は転生の準備を終え、転生陣の前に来ていた。
ちなみに俺が選んだものをステータス化して見るとこうだ。
種族:人間
性別:男
ユニークスキル:カウンター
パッシブスキル:獲得経験値2.0倍、並列思考
スキル:切れ味強化【極】、回避【極】、空間魔法
攻撃力:1
防御力:3
体力:2
魔力:1
こんな所である。
俺が前世読んでいた異世界物の主人公と言えば大抵がインフレを起こすレベルのチート持ちで無双する奴ばかりだったがそれでは少し面白くないと思ったのだ。
一見して強く見えないスキルで誰よりも強く在る事にこそロマンを感じるのが俺という人間なのだ。
故にこのステータスになったのだ。
女神様が驚くのも無理は無いのだろう。
「あらぁ、またそうやって女神様だなんて呼んじゃって。そういえばまだ名乗ってなかったわねぇ。私は転生の神であると同時にあなたがこれから行く世界の主神でもある女神、テミスよ。まぁ名乗ってばかりなのだけどそろそろ時間が来たようね。最後にあなたには私から2つの加護をあげる。大きくなったら教会にでも来て祈りを捧げて頂戴。そしたらまた会えるから。」
テミスはそう告げると人間と同じサイズに姿を変え、なにか呪文を唱えながら俺の額に触れた。
すると転生陣が眩く光り、俺の身体は暖かな光に包まれ、脳内に誰かの声が響いた。
一体誰だろうと頭を回したが理解するより早く視界が暗くなってきた。
もう時間切れなのだろう。
俺は思考を止め、眠い頭を叩き起しテミスに感謝を告げた。
伝わったかどうか分からないが消えゆく視界の中、微かにテミスが微笑んだのが目に映ったのだった。。