51話 クーちゃんのお揃いショッピングとラビ達の鑑識眼
「それで良いのか?」
『うん!! おさらはみんな、じぶんのマークがついてるんでしょう? ぼくもじぶんのマークのにする』
「分かった。じゃあ次はお椀を見にいくか」
今日は家族でショッピングに来ている。晴翔の家族と一緒だ。母さんと晴翔のお母さんが、何か一緒に買いたい物があったらしくて。どっちの父さんも荷物持ち要員として。俺と晴翔も半荷物要員として連れて来られた。
だけど途中で父さん達が俺達を逃してくれて。母さん達の買い物が始まると、何時間拘束されるか分からないのを、みんな分かっているからな。じゃあ逃げられたならって事で、今俺達はクーちゃんの色々な物を買っているところだ。
俺達と家族になって数週間。今までは家にあった食器や家具を使っていたけれど。ラビ達は専用の物を色々持っているからな。そろそろクーちゃんにも、専用の物をそろそろ買ってあげないと。
「向こうにたくさんお椀が置いてあったから見にいこう。それに他にもお皿が数枚は必要だからそれも見て。その後はクッションと毛布。それから1番大事な抱き枕とクーちゃんのぬいぐるみを見に行こう!」
『うん!! えへへ~、まくらとぬいぐるみ~』
嬉しそうにラビ達と進んでいくクーちゃん。うちに来てから2日もしないで、抱き枕とぬいぐるみが欲しいって言っていたんだ。ラビ達も色違いのお揃いの抱き枕と、本人達のぬいぐるみを持っていて。
抱き枕は1度貸して貰ったら、かなり寝心地が良かったみたいで。今日まで何回も抱き枕はまだかと催促されたし。
ぬいぐるみの方は、自分達の、しかもサイズも一緒のぬいぐるみを見て。それからあの、ブーちゃんがめちゃくちゃ動いて、自ら選んだカバン入りの小さなぬいぐるみを見て。ずっと良いなぁ良いなぁと言っていたんだ。
だから今日は、できる限り揃えられるものは揃えるくらいの勢いで、買い物をしようと思っている。
お椀の売っている場所に着けば、すぐにラビ達が持っているお椀を発見。発見というか、よくこのショッピングモールで買い物をするから、ラビ達が売っている物の場所を覚えていて。迷わずに欲しい商品の所へ来られる。
『ぼくは、しろだよね』
『きゅい!』
『ぷぷぷ~!!』
『にゅお……、あぁぁぁ』
返事をしている途中であくびをするブーちゃん。寝たいが今日はクーちゃんの物を買うという事で。チェックしないといけないから起きている。
チェック……。買い物が始まってから、ずっとラビ達がやっているものだ。
『これ、もうようはおなじ。それでしろいろはこれ。おにいちゃん、ププちゃん、どれがいいかなぁ』
『きゅい、きゅいぃぃ……』
『にゅお……』
『ぷぷぷ……』
全員が同じお椀をそれぞれ手に取り、お椀を横から見たり、持ち上げて下から見たりと、チュックが始まった。
どうにもラビ達にはラビ達のこだわりがあるらしい。俺にはみんな同じに見えるけど。まぁ、確かにイラストの線の長さが少し違うとか、模様がちょっとズレている、微妙に違うとかはあるけどさ。そんなに大きな違いじゃないだろう?
だけどラビ達によると、ぜんぜん違うらしい。だからそういうのを調べて、完璧だと思える物を毎回買っているんだ。歪みなんかもしっかり調べているぞ。
ちなみにラビ達が商品を色々触っているけれど、ここは魔獣達の物を専門に売っていお店で、しかもレジには必ずクリーンを使える店員さんがいるから、触っても問題はない。
『きゅいっ!!』
『にょっ!!』
『ぷぷっ!!』
全員が鋭い目つきでお椀を確認していたら、最初にラビが声を上げ、その時ラビが見ていたお椀をブーちゃん達が順に確認する。そうしてみんなが頷き返事をすると、クーちゃんにそのお椀を渡してきた。
『このおわんがいいの? ありがとうおにいちゃん! ププ!! タクパパ、ぼくこのおわんにする!!』
「あ、ああ」
「相変わらず凄いチェックだな」
「全部これだぞ」
「母さん達は母さん達で、一緒に買い物するのは大変だけど。ラビ達はラビ達で大変だよな」
「まぁ、自分達が気に入った物が買えてるなら良いけど。あんな鋭い目つき、ダンジョンでもしないもんな」
あれだけ鋭い目つきで、集中して物を選ぶラビ達。危険なダンジョンでも、ここまで真剣に周りを見ていないのに。どうして買い物ではこうなのか。ダンジョンでは楽しんでるもんなぁ。
こうしてラビ達のチェックを受けながら進んだ買い物は、ちょっと時間がかかりながらも、最後のクッション、掛け布団、抱き枕とぬいぐるみコーナーまで進んできた。
先に近くにあったぬいぐるみから選んだクーちゃん。こちらはブーちゃんが先頭になり、クーちゃんそっくりのぬいぐるみをゲットする事ができた。さすがブーちゃん、ぬいぐるみの目利きである。
そして布団の方へ行こうとした時、ある意味問題が発生した。俺にとっての余計な問題が。
抱き枕コーナーへ行く手前の広い通路で、この日は実演販売をしていたんだけど。その商品が新作の、ダンジョンの素材を使った魔獣専用クッションと掛け布団で。人も魔獣もけっこう集まって、その実演販売を見ていた。
俺は気にせず、その前を通り過ぎようとしたんだけど、その新作のクッションと掛け布団を見たラビ達全員が、それに反応したんだ。それで、それまで最後の1番大事な抱き枕だって言っていたのに、そっちに一直線に走って行き。
ブーちゃんに至っては、俺がラビ達を追いかけて行った時にはもう。お客様さんに、どんな物か触って確かめてもらう用のお試し品に、しっかり寝込んでいて。それに続くラビ達。
「おい、みんな勝手に寝るんじゃない。ほら起きろ! ブーちゃん! 体勢を整えるんじゃない!!」
晴翔と一緒に、何とか全員を起こそうとした俺。引っ張り、引き剥がし、何とかラビとププとクーちゃんのクッションと掛け布団は取ったんだけど。そうしてもブーちゃんから離せなくて。
そんなブーちゃんに加勢するラビ達と、何としても買わずに帰ろうとする俺。が、結局ブーちゃんに勝つ事ができずに、クーちゃんは元々買うつもりだったけど、新作の高いクッションと掛け布団を、人数分買う事になってしまったんだ。
確かに手触り最高で、これに人が寝てもきっと最高だろうと思ったけど。新作商品、まぁ、それなりの値段でさ。
はぁ、とため息を吐きながら、全員がお揃いの模様の色違いを選び。選んだ途端にブーちゃんはまた寝る体勢に。
ただ俺はがっくりだったが、ブーちゃん達を見ていたお客さんが、そんなに良い物なのかと。自分の家族魔獣にとどんどん買ってくれて。お店の人に感謝の品として、それぞれ自分の人形が付いているキーホルダーを貰って、ラビ達はさらに喜んでいた。
喜ぶのは良いんだけど、俺は? 俺には何か良い事ないのか? お店の人が大きな買い物カートを持ってきてくれて、それに今日買う物を全て入れれば、母さん達のことを言えない程の買い物になっていた。
そうして予定外の物を選んだ後、抱き枕もしっかりゲットし。鼻歌を歌ったり、スキップをしたりと、大喜びでレジに向かってラビ達。会計を済ませた後は、自分達でクッションと掛け布団を運んでいた。
「そんなに気に入ったのかな?」
「はぁ、予定外の出費だ。だけどあのままだと、あのお試し品を買取になりそうだったしな」
「買うならちゃんと新品じゃないとな」
「まぁ、本人達があれだけ喜んでるから、それだけで良いと思うようにするよ」
「そのうちお前の物まで、しっかり選ぶようになったりしてな」
「俺は使えれば何でもいい」
「それを許さないのがラビ達だろう?」
「……はぁ」
帰りの車の中は、母さんの買い物とラビ達の買い物で、後ろが見えるギリギリまで荷物が積み込まれることに。父さんがラビ達の買い物に苦笑いしていた。




