2 木原愛理の回顧録①
夢を叶えてくれる夢
そんなものがあるなら、絶対に買ってみたい。
木原愛理はそう思った。
実家の部屋のベットの上でぼーっと天井を眺めていた。
だって、だって…
私全然ダメなの、これ以上順位を上げられない。
こんなに頑張っているのに、誰も私に見向きしない…。
私は画面に表示されているランキング最下位の文字とその隣に並ぶ「如月モカ」という名前をみた。
コメント3の中身を開くと「ブス」「あんまりかわいくない」など見たくない言葉が並んでいた。
「なんで…。」
こんなはずじゃなかった。
このオーディションに参加して、ランキング1位で見事アイドルデビュー…
そしたらみんなを見返せる…
そう思っていたのに。
とある夏の日、たまたま見つけたアイドルオーディション。
ライブ配信でランキング5位以内に入ると、アイドルとしてデビューできるというものだった。
「これだっ…!」
直感的に、これは私の人生を逆転させてくれるものだと感じた。
ド田舎に住む私にとって東京にオーディションに行くことは難しいけれど、スマホで配信をするだけなら私にも出来る。
何よりもオーディションサイトに記載されていた「運命を変えよう!」という言葉に惹かれた。
私はすぐさまこのオーディションに応募し、夏休みの後半から現在の9月にいたるまで配信をしてみた。
だけど…
「如月モカってうちのクラスにいる木原愛理じゃね?」
「あの顔でアイドルになれるわけないじゃん!」
「ランキング最下位なんでしょ、可哀想〜」
ライブ配信はランキング1位どころか、このオーディションに参加している中で最下位。
夏休み終了後、学校に行くと私のライブ配信に関する噂が流れていると知った。
私に対する陰口は、さらにひどくなった。
怖くて、聞きたくなくて。毎日逃げるように下校して、自分の部屋に急いで入った。
バンっっっっという大きな音を立てて部屋のドアを閉めたし、スクールカバンを勢いよくベットに投げつけた。
「っ…っ。」
私は悲しくなってベットに突っ伏した。
いやだいやだいやだいやだいやだ…!!
このままじゃ終われないっっ
このままじゃ終われないよっ…!
私はいつのまにか気絶するように眠りについていた。
目覚めると、いつものベットの上ではなかった____
「こ、ここどこ…。」
そこは街だった。街なのだけど、見たことない街だった。
雲の上にいるかのようなどこもかしこも真っ白い空間。だけど、道が合って。レンガ造りの建物があって。カフェのようなお店もあって。どこにもない、どこかにありそうな街に私はいた。
すると、誰かが声をかけてきた。
「どうしたの?とても辛そうな顔をしているよ。」
顔が見えなかった。うまく、みえない。
身体も、よくみえなかった。
全てに霧がかかっているように感じた。しかし、存在は感じられた。
「だれ…?ここは夢…?」
「夢?そうだね、夢かもね…。
道に迷ってしまったのかい?」
「道に…道に迷ったのかな…」
私は下に俯きながらそう言った。
「君に良いことを教えてあげよう。
ここの突き当たりを進んで左に曲がると、夢を叶えてくれる素敵なお店があるよ。君も夢を叶えてもらうといい。」
「え…!?ゆ、夢を叶えてくれるの…?」
「そうさ。素敵だろう。君にも叶えてもらいたい夢や願いの1つや2つくらいあるだろう____」