第98話 奇策
「クソッ……!メドゥーサの力か!」
真耶はその光線を見てそう言う。そして、右手首から悲しみの糸を放ちなんとなく右に避けた。
すると、これまで真耶がいた場所に光線が向かってきていた。さらに、その光線が当たった場所は石になっていた。どうやらあの赤黒い光には石化能力があるらしい。流石の真耶も『受け』ではなく『避け』を選んだ。
「フッ、避けを選んだか。正解だったみたいだな。私の放つこの光は当たればすぐに石化する。受けて跳ね返すなんて無理なのだよ」
「素晴らしい能力だな。だが、本当に受けがダメなのか?もっと良く考えろよ」
「私の技だ。私がよく知っている。お前は鏡で跳ね返すなんてことを考えてるのかもしれないが、それは不可能だ。鏡さえも石化させる。試したいなら試してもいいが、どうする?」
「いや、やめとくよ。それに、なにか勘違いしてるけど、俺は鏡を使うなんて一言も言ってないよ」
「どういうこと?」
アテナは真耶に向かって目を細めながら聞く。
「どういうことか知りたければ、撃ってみろよ」
「……」
「どうした?ビビってんのか?」
真耶はアテナを挑発する。そして、何故か光線を撃たせようとする。しかし、アテナは撃とうとしない。普段なら怒るはずが、怒りもしない。それで真耶は確信する。
「お前、その光線撃ってる時って動けないんだろ?見た感じそうだったからな。せいぜいできて起動をそらす程度かそれくらい……ついでに、攻撃中にその光線の月を変えることさえも許されない。どうだ?間違ってるか?」
「……いや、正解よ。私の魔法は私がよく知ってるわ。でも、よくそこまで分かったわね」
「……まぁ、あれだけの威力だしな。それに、俺が避けた時移動出来るのなら確実に殺されていた。だから分かったんだ」
「そう、なら惜しいことをしたわ」
2人はそんな会話をする。そして、アテナは少しだけ嘲笑うと、剣と盾を構えて真耶に向けて走り出す。
真耶は向かってくるアテナを見て少し笑うと剣を構えてアテナを迎え撃つ。2つの剣が再び混じり合う。そして、甲高い音が再び鳴り響いた。
しかし、今回は前回とは違う。アテナは剣にまでその光を纏わせた。長い間接触していれば、石化するだろう。だが、一瞬だけなら魔力を流される心配もない。ただし、体に少しでもかすりでもすれば、すぐに石化する。なんせ、体にはプラネットエトワールと違って耐性がないからな。
だが、腕や足なら多少かすっても問題ない。石化すれば切り落とせばいいのだから。そして、今は再生も出来る。それで再生させればいい。
真耶はそんなことを思いながらアテナと剣をまじわせる。甲高い音が連続して鳴り響き、火花とともに赤黒い光が宙を舞う。2人はそんな中手を止めることなく剣を振り続けた。
そして、今度はアテナの方からフィールドを大きく使い出す。真耶の剣を強く弾いて逃げ出したのだ。赤黒い光の軌跡を作りながら逃げていく。その後を真耶は全力で追いかけた。
2人の速さは真耶の方が速い。そのため、すぐに追いつく。そして、真耶は追いつくなり剣を振るった。しかし、アテナは分かっていたかのように盾で防ぎ、赤黒い光線を放とうとする。
真耶はそれを見て盾を蹴りあげた。すると、光線は空に向かって放たれる。真耶はその光を見てニヤリと笑ってプラネットエトワールを振り払った。
アテナは迫り来る剣を見て何も出来ない。盾を構えようにも蹴り上げられておりどうしようもない。さらに、蹴り上げられた時の反動で体が思うように動かず剣さえも構えられない。
「仕方ない……」
アテナはそう呟くと、魔力を全身に溜め込む。真耶はその魔力を感じ取った瞬間嫌な感じがした。そして、アポロンのことが突如としてフラッシュバックして蘇る。それは、アポロンが神格化をした時の記憶。
「っ!?まさか……!」
真耶はすぐに危険を察知し剣を振り抜こうとする。この時真耶に迫られた選択は2つ。1つは技を発動させる前に殺す。もう1つは逃げる。この2つだ。真耶は前者を選んだ。
しかし、それは失敗した。たった一瞬。その一瞬だけでアテナはこれまでの力の何倍もの力を発揮する。そのせいで発生した衝撃波によって真耶は遠くに飛ばされる。上手く受身を取り着地をした真耶はその力を目の当たりにして言葉を失った。
「……!」
真耶の前にアテナが降りてくる。右には赤黒い光を放つ羽が、左には黄色く神々しい光を放つ羽が生えていた。その姿はまるで、堕天使と天使を混ぜたような姿だった。
「これで終わりね。あなたは私には勝てない。それは初めから分かりきったことだったじゃない?ほら、早く死になさいよ」
その刹那、真耶の右腕に赤黒い光線が突き刺さる。そして、突き刺さると直ぐに右腕が石化し始めた。今回刺さったのがたまたま肘だったため、真耶はそうそうに右腕を切り落とし石化を止める。
そして、新しく右腕を再生させた。
「……やっぱり、再生できるんだ。人間とは思えないわね」
「だが俺は人間だ。攻撃を受ければ死ぬし、人を殺す時だって心は痛むし壊れる。お前たちみたいな神とは違うんだよ」
「あら?神に心がないみたいな言い方はやめてよね。私だって心苦しいわ。あなたを見てると」
「そうか、じゃあ心臓を潰してやるよ。そしたら苦しくなくなるさ。一瞬でね」
真耶がそう言った数秒後に真耶は落ちてきたプラネットエトワールをキャッチする。どうやら右腕を切る時に投げ飛ばしていたようだ。そして、真耶はその剣をキャッチすると、離さないように握りしめ距離を詰める。そして、首元を狙って斜めに剣を振り下ろした。
しかし、アテナはその攻撃を容易く防ぐ。さらに、羽から赤黒い光線を放ち真耶を襲う。真耶は華麗なステップを踏みそれを全て躱すと、そこからバックステップで距離をとる。
「めんどくさい技だ」
「あらそう?それは残念な事ね」
「いや、お前の技のこと言ってんだよ。他人事すぎるだろ。まぁ、そんな能力もなくなってしまえば意味無いけどね」
「どういうこと?」
「いや、何でもない。ただ、理想と現実は違うってことだ。お前の理想の中では俺は無力で弱者だ。そして、魔法でゴリ押しすれば勝てるとでも思ってるのだろう。だがしかし、現実は違う。現にお前はまだ俺を殺せていない。これが現実だ」
真耶はそう言って剣を構えた。そして、その剣を地面に突き刺す。そして、剣を抜きもう一度、今度は90度回転させて突き刺した。
「何してるの?」
「対策してるだけだよ。俺も馬鹿じゃないから」
真耶はそう言って地面を殴り付けた。それも、剣を突き刺したところに。その瞬間、地面に巨大な亀裂が走る。アテナはそれを見て目を疑う。
「なんという力だ……っ!?」
アテナがそう呟くと、真耶はアテナに向けて地面を殴った時に舞い上がった岩や土、石や砂を投げまくる。アテナはそれを見て慌てて剣を構え連続でそれらを切り裂く。すると、岩を切り裂いた時突如その岩の中から刃が飛び出してきた。
それは真耶だった。真耶は岩陰に隠れながら移動してきており、死角からアテナを攻撃する。アテナは突如現れた真耶に驚き慌てて避ける。そして、すぐに真耶に攻撃をしようとしたが、なんと真耶の姿が消えていた。
アテナは慌てて周りを見渡し探す。しかし、どこにも見当たらない。そして、完全に見失ったと思ったところで突如死角から真耶が現れた。どうやら再び岩陰に隠れたらしい。真耶はそうして連続来て攻撃を仕掛けてくる。
攻撃しては隠れ、攻撃しては隠れをずっと続ける。しかし、アテナはその死角からの攻撃をギリギリで防ぐ。少しでも気を抜けば殺られるという緊張感に包まれながら、真耶の攻撃を防いでいく。
しかし、真耶は防がれるのを前提で数え切れないほどの攻撃を、目視出来ないほどの速さで行う。アテナはそれを感覚で防ぐ。
そして、2人の戦いはさらに激化した。
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