第96話 彼の前に……
真耶はその3人を見て言葉を失った。なんせ、その3人はオリュンポスの中でもトップを争う3人だからだ。
真耶は、まさかこのタイミングで来るとは思っていなかった。しかも、ゼウスが。
基本的にゼウスは神界から出てこようとしない。それは、殺される可能性を極端に減らすためだ。そうでもしないと、散歩をしてて殺されるなんてことも良くある。
しかし、今真耶の目の前にはゼウスがいた。しかも、アレスとアテナを引連れて。
アテナは早速真耶の邪魔をしていた。真耶の攻撃を防いだのだ。そのせいでアポロンに刃が届くことは無かった。
それでも真耶は押し込もうと力を込める。しかし、アテナもその剣を押し込まれまいと力を込める。
「その手を離してくれないかな?私達もこれ以上仲間を失う訳には行かないのだよ」
「それは俺も同じだ。お前らのせいで仲間を何人も失っている。自分のことを棚に上げるな」
「フッ、そうかもしれないけど、私は都合の悪いことは言いたくないのだよ」
2人はそんなことを言い合いながら2人とも力を込める。しかし、全く動くことが無い。お互いの力が均衡しているからだ。そのためお互いに動けなくなった。
「面倒だ。こうすれば終わりだろ」
突如別の場所からそんな声が聞こえる。見ると、その方向からアレスが巨大な剣を構えて飛びかかってきていた。
真耶は咄嗟にその場から離れる。そうすることでその剣を躱した。その後真耶は後ろに多少足を引きずりながら止まった。
1度距離を取った真耶は剣を持ち替えて言う。
「お前ら、邪魔をするなよ」
「それは出来兼ねることだ。貴様のせいで何人も負傷している。幸いなことに再起不能になった者はおらんがな。だが、仲間をここまでやられれば黙ってはおれん」
ゼウスはそう言って真耶に目を向ける。そして、ゼウスが前に出た。おそらく戦うつもりだろう。真耶もその気で剣を構える。
しかし、ゼウスが前に出ると次にアレスが前に出る。そして、次にアテナが前に出た。
「御父様、俺が行きますから下がっていてください」
「御父様、兄上、私が行きます。ですから、下がっておいてください」
「いや、わしがやる。お主らは下がっておれ」
「いえいえ、御父様。俺が……」
「御父様も兄上も私に任せてください!私が行きます!」
「いいやわしだ!あの男はわしが殺す!」
「いいや俺だ!誰がなんと言おうと俺が殺す!」
なんと、3人はそう言って喧嘩をし始めたのだ。真耶はそれを見て呆れてしまう。そして、喧嘩をする3人に攻撃をした。
すると、その攻撃をアテナが止める。真耶は攻撃を止められて即座にその場から離れる。そして、殺気を放ち言った。
「誰でも良い。全員殺してやるよ」
「ハッ!言うじゃねぇか!俺が……」
「私が行きます!私が止めたので、私がやります!」
そう言ってアテナが真耶の前に立った。ゼウスとアレスはそれを見て戦うのを諦める。そして、一言だけ言った。
「負けたら、どうなるか分かってるな?」
アレスはそう言い残して扉を開く。そして、2人はその中に入って行った。アテナはそれを見てニヤリと笑うと、剣を構えて真耶に向き合った。
「そんな体で私と戦うつもり?馬鹿にしないでよ」
アテナは真耶にそう言って剣とイージスの盾を構える。真耶はそんなアテナを見て少し集中すると、駆け出した。
アテナとの距離を詰めて何度も攻撃を繰り出す。しかし、片手だけなので攻撃は1回しか出来ない。それでも連続で攻撃する。
しかし、アテナは真耶の攻撃を防ぐ。そもそも、剣でさえ防がれるのに、盾を持っている相手と戦えば防がれるのは当然だろう。
それでも真耶は攻撃を続ける。しかし、一瞬の隙をついてアテナが攻撃をしてきた。真耶はそれを避けるとそのままアテナの頭上をとびこえ背後を取る。しかし、アテナは直ぐに対応する。
「ふふふ、あなたの速さじゃ私に攻撃出来ないわよ」
「まぁ、様子見だしな。やっぱりフィールドは大きく使おうぜ?」
真耶はそう言って不適な笑みを浮かべると、アテナを蹴り飛ばす。流石のアテナも蹴られるとは思ってなかったのか、もろにくらい蹴り飛ばされる。
そこから真耶はアテナに追いつき攻撃をした。プラネットエトワールの刃がアテナを襲う。しかし、アテナも空中で体勢を整え剣で迎え撃つ。
真耶とアテナはそんな上空を高速で飛び回りながら切り合う。しかし、両者ともに神速の剣戟で中々当たらない。
特に、盾を持っているアテナには攻撃が通じない。アテナが剣だけで対応できなくとも、盾で防げるからだ。
そうこうしていると、上空に2人が通った軌跡ができる。それは、流れ星のように煌めいており、1種の芸術のように見えた。しかし、本人達はそう思わない。安らぎなど全くなく、一瞬でも気を抜けば殺されかねない緊張感の中剣を振り続ける。
甲高い音が連続して鳴り響いた。そして、大量の火花が散り、花火のようになる。ルリータはそれを見て綺麗だと思ったのと同時に、真耶のことを心配した。
しかし、ルリータがここで何を言おうとも真耶は手を止めない。恐らくアテナと戦い続けるだろう。だから、ただ祈るだけだった。勝手元気に帰ってくることを祈る。それしか出来なかった。
しかし、真耶には生きて帰るなんて考えは無かった。どうせ左腕は無くなり右目は見えない。魔力回路は焼き切れてしまい、魔法はもう使えない。そんな体になんの未来があるだろうか?そう考えると、生きる目的が何も思いつかなかった。だから、生きて帰るなんて思わなかった。
もしかしたら、心のどこかでは勝つ事なんてしなくてもいい。そんなことを思っていたのかもしれない。だから、こうしてアポロンやアテナと戦っても、最後の必殺技を決められずにいる。
このまま勝てずに死んでも、誰も何も言わない。言う人がいない。たとえ死んだところで、悲しむやつなんていない。そう思うと、自然と体は死を求め始めていた。
こうして甲高い音が1回なる度に、真耶の中のそういう感情が湧き出てくる。そして、自然と手に入る力も弱くなっていく。
「……!」
真耶は苦しげな表情をしながらその手を動かした。なんでそんなことをするのかも分からずに動かした。しかし、そんなことを考えているからか、いくつか攻撃を受ける。そのせいで真耶の体に剣が何回も突き刺さる。
「っ!?」
死が見えてきた。遂に念願の死が……。誰も真耶に期待しない。望まない。認知しない。そんな絶望的な世界の終わりが見えてきたのだった。
意識は次第にかすれていく。そして、全身に入る力も弱まってきた。上空で戦っていたが、浮くだけの力ももう無い。本当の終わりが見えてきたのだった。
「……」
だが、真耶はルリータを見る。ルリータは涙を流しながら祈っていた。真耶が生きて帰ってくることを、強く望んでいた。
今の真耶にとって、死ぬことよりも誰かを悲しませることの方が嫌だった。ここで真耶が死んで、ルリータを悲しませるのは絶対にしたくなかった。そう思うと唐突に力が湧いてくる。そして、その目に光が灯る。その光は煌めき、宇宙のようだった。
「孤独の悲しみを与えしては行けない。たとえ何があっても、俺の大切な人に孤独の苦しみを味あわせては行けないのだよ……!」
真耶はそう言って何とか意識を保ち、その時初めて全力でアテナを殺そうと思った。
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