第94話 救世主
「……!」
ルリータは必死でアポロンから逃げる。しかし、アポロンは楽しそうにルリータを追いかける。
「……もぅ!やめてよ!”海龍の乱喰”」
ルリータはスピードを弛めることなく振り返るとアポロンに向かって魔法を唱える。すると、杖から海龍が生み出されアポロンを食い殺そうと襲いかかる。
「ハハハハハ!まだこんな力を隠してたのか!?”フレアフェニックス”」
アポロンは海龍に向かって獄炎に包まれた不死鳥を放つ。海龍はそれに食らいついたが不死鳥はその海龍すらも燃やし尽くしてしまう。
さらに、なんということかその不死鳥はルリータを襲う。ルリータはそれを見てさらに速度を上げ逃げる。そして、狙いを済まして魔法を放った。
「”グランドパルチザン・Lv7”」
その刹那、地面から剣が生えてくる。それは、土や岩などでできており、いくつも生成される。そして、その剣は不死鳥を貫き止めた。
しかし、アポロンは一切動揺することは無い。それに、魔法を放つ手を止めない。
「”サンブラスト”」
アポロンの手からプラズマ化した炎の光線が放たれる。ルリータはそれを縦横無尽に駆け巡り避けた。しかし、今度はアポロンは狙いを定め確実に当てに来る。ルリータはそれがわかっていたから振り返り魔法を放った。
「”ソーラーレイ・Lv8”」
ルリータとアポロンの放った光線がぶつかる。すると、2つの力は均衡しその場に強い衝撃波を起こした。
しかし、最初は均衡してても持続力がなければいけない。しかし、持続力はアポロンの方が強かったようだ。段々とその光線がルリータの方へと押される。
そして、ルリータがその光線に耐えていると、突如右肩に矢が刺さり力が抜けた。
「なんで……!いだぁ!」
ルリータはその光線を右の腹に受け穴が空く。そして、とてつもない痛みに襲われ減速してしまった。すると、アポロンはそんなルリータにかかと落としをする。すると、アポロンのかかとはルリータの目の上の辺りに直撃しルリータを地面に蹴り落とした。
ルリータは地面に隕石のように落ちていく。そして、地面に落ちた時その下にあった家を破壊してしまった。
「うぐぁ……!うぅ……!」
ルリータはその力を振り絞って立ち上がる。しかし、足はブルブルと震え目はかすみ、頭はぐわんぐわんと揺れている。それでもルリータは立ち上がった。
しかし、アポロンはそんなルリータに容赦はしない。ルリータの目の前に降りてくると、ルリータを見る。
ルリータはそんなアポロンを見て直ぐに構える。しかし、アポロンはそんなことお構い無しにルリータの顔を殴る。
アポロンの拳がルリータの頬に吸い込まれるように当たった。ルリータはアポロンのパンチを受け体が宙に浮く。そして、再び飛ばされる。
「かハッ……!」
そして、遂にルリータは全身に力が全く入らなくなってしまった。最後の力を振り絞って立ち上がろう押したが、膝から崩れ落ちてしまう。そして、前を向くと絶望を纏ったアポロンがいた。
「さて、お前はもう飽きたな。終わりにしてやろう。”ゴッドインパルス”」
アポロンがそう唱えると、頭上に5つの金色の矢が生成された。それは、先程とは違う怖さを持っている。
「詰みだ。死ね」
アポロンはそう言って手を天に掲げると、勢いよく振り下ろす。そして、金色の矢はルリータを襲う。ルリータはその矢を見て逃げようとすることさえなかった。ただ、涙を流して怯えるだけ。完全に絶望して諦めてしまったのだ。
「ごべ……ん……なさい……」
ルリータはそう言って目を瞑る。
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
しかし、いつまでたっても矢は当たらない。当たれば確実に痛みがするからわかるはずだ。
いや、もしかしたら既に死んでいるのかもしれない。当たった瞬間に死ぬから痛みがなかったのかもしれない。
ルリータは涙が溢れて止まらない目をゆっくりと開く。すると、目の前に緑と銀色のオーラを纏う真耶がいた。
その手にはプラネットエトワールが握られている。そして、その周りには弾かれた矢が刺さっていた。
「っ!?」
「っ!?」
「……」
真耶の姿を見たアポロンとルリータはその異常な姿に絶句する。なんと、真耶はちょうど心臓がある部分に穴が空いているのだ。そのせいで心臓が丸見えになっている。そして、何故か左腕がない。そのボロボロな体を見て2人は言葉を失う。
「っ!?貴様……ゾンビか!?」
「無礼なやつだ。俺は人間だ」
「人間とは思えんな。そんな体で動ける人間は存在しない」
「いいや存在するね。今ここに居るだろ?俺という存在が」
「口の減らない男だ。だが、存在したところで貴様は俺には勝てん。そんなボロボロな体でよく戦えると思ったな」
「……まぁ、多少賭けみたいなところはあったけどね。それでも成功したからこうして生きてるしこうして戦えている。これはハンデマッチだ。初めからハンデが多かったが、これ以上増えたところで何も変わらん。どうせ俺が勝つんだからな」
真耶はそう言って笑った。しかし、アポロンは怒りも笑いもしない。ただ、真耶という男に恐怖心と呆れを覚える。
だから、真耶のことを哀れみの表情でしか見れなかった。しかし、アポロンはそのことを直ぐに後悔する。
真耶はアポロンの位置を把握すると、右目の眼帯を外した。その目にはこれまで見た事もない目が浮かんでいる。アポロンはその目を見て一瞬で理解する。その目はヤバいと。
そして、その予感は的中した。なんと、真耶の傷がどんどん再生していく。そして、胸に空いていた穴がふさがった。しかし、左腕は治らなかった。
「……やっぱりか……まぁいい。神1人殺すのに腕2本は贅沢すぎる」
真耶はそう言って右手でプラネットエトワールを握りしめアポロンの姿を見た。そして、全く見えない右目でアポロンを直視する。
「っ!?」
その数秒後、真耶は突如動き出した。そして、アポロンの体に剣を突き刺す。それは、右の脇腹あたりに突き刺さった。
「っ!?」
アポロンはその時全てを理解する。なんと、右の脇腹の辺りにちょうど魔力を貯める器官があったらしい。真耶はその器官を壊したためアポロンが焦っているのだ。
「っ!?」
アポロンは少し後退する。さらに、真耶の爆発的な成長に言葉を失う。考えてみれば、さっきまでの真耶はこんな動き出来なかった。そのはずが、今の真耶はさっきの何倍もの速さで動くことが出来ている。アポロンはその事実に直面し言葉を失う。
「……この野郎が!」
アポロンは全身に残った魔力で真耶に壊された部分を修復した。そして、他の部分も回復する。そのためアポロンの傷は全てふさがった。
「馬鹿め!俺には回復という技がある!貴様らは二度と俺には勝てないんだよ!」
「か本当にそう思うか?もし本当に俺がお前に勝てないとするなら、もう既にお前は俺達を殺しているはずだ。だが、殺せてないということは、力が均衡していると言うことだ」
「っ!?何が言いたい……!?」
「力不足だって言いたいんだよ。言っただろ?ハンデマッチだって。俺とお前ではハンデがありすぎる。それにもかかわらずお前は俺を殺せない。要するに、お前は弱いんだよ!弱者が!”エンシェントグランドパルチザン”」
真耶はルリータがさっき使っていた技を使う。しかし、その威力はルリータのものとは比べ物にならないくらい強かった。
「っ!?」
「俺を殺すんだろ?だったら、早く殺してみろ。クソ雑魚くん」
真耶はそう言ってニヤリと笑った。
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