第90話 変化の時
真耶はアポロンの元まで全力で向かう。その間にも戦いの準備を済ませる。
『ねぇ、気をつけておいて欲しいんだけど、この前私の正の魔力を無理やり負の魔力に変えたから、今回の戦いに私は参加出来ないわ。だから、最後まで1人で戦ってもらうことになるんだけど良い?』
「問題ない。はなからそのつもりだ。俺1人でアポロンを倒す」
『うん……。本当にごめんね。こんな大事な時に私が戦えなくて……』
「何言ってんだよ。神1人くらい俺だけでも倒せるよ。それに、俺一人で倒せなきゃ、末代までの恥だ」
『末代って……結婚する宛はあるの?』
クロエはおちょくるような笑みを浮かべて言ってきた。それに対して真耶はニヤリと笑っていう。
「どう見える?」
『なさそうに見えるわ。それも運命なのよ』
クロエはそう言って笑う。すると、真耶は左手をプラネットエトワールの上に置いて言う。
「そうか、運命か。だが、運命というのは初めから変えるために存在している」
そう言って階段上に積み上がっていたものを使い屋根の上に駆け上がる。そして、さらに速度を上げて走りながら続けた。
「未来も同じだ。変えるために存在している。変えれない未来なんてない。もし、未来が変えられないとか、運命だとか言うんなら……」
真耶はそう言って高く飛んだ。その先にはアポロンがいる。アポロンは真耶の存在に気が付きニヤリと笑って構えた。
そんなアポロンに真耶も構えて攻撃しようとする。プラネットエトワールに手を添え目を瞑り集中する。
「……未来も……運命も……全て断ち切ってしまえばいい……!”運命の一閃”」
真耶はそう言って神速の居合切りをする。その一閃でアポロンは両腕を切り裂かれた。真耶はアポロンの腕を切ったのを確認すると、体をねじり屋根の上に上手く着地する。
「これでわかっただろ?俺の力は、運命は変えられる」
真耶はそう言ってニヤリと笑った。
「……それにしても、あの腕……再生してるな。さっきルリータが切り落としてたはずなんだがな」
真耶はそう言ってアポロンを見る。すると、アポロンは突如腕の周りに大量の炎を集め始めた。そして、その炎の中から先程切り裂いた腕が出てくる。
「……やはりか……再生能力持ちか?いや、魔法のようだ」
「……クハハ!お前、面白いやつだなぁ!なんだ!?前のは手を抜いてたのか!?」
「それはお前もだろ」
アポロンの言葉に対し真耶は恐怖に満ちた笑みを浮かべてそう言った。そして、聖光霊真剣プラネットエトワールを抜く。
「今度は負の俺じゃなくて、正の俺で行く。珍しいだろ?だが、光栄に思っていい。俺が光の力で戦うんだ。滅多にある事じゃない。光の力で倒されるのはな」
真耶はそう言って剣を構えて駆け出した。最初に少し右に揺れながら走り出すことによってブレを生じさせ視認しにくくする。
そして、アポロンに対して斜めから攻撃することで攻撃を防ぎにくくする。そうして攻撃を繰り出した。
しかし、アポロンはその拳で真耶の剣を防ぐ。拳と刃がぶつかり合い、素手とは思えない甲高い音が鳴る。真耶はアポロンに対して真っ直ぐだけではなく、横や下、後ろから攻撃を繰り出した。また、サイドステップを使うことで左右に移動する。またまた、アポロンの頭上を前宙で飛びながら背後を取ることで攻撃を繰り出した。
しかし、アポロンはそのどれもを防ぐ。2人の実力は均衡していた。しかし、先にアポロンが動く。
「小賢しい!”シャイニングフェニックス”」
アポロンは黄色く光り輝く炎の不死鳥を放った。その不死鳥はかなり早いスピードで真耶を襲う。
「ガサツな野郎だ」
真耶はそう言ってプラネットエトワールをさやに収め、抜刀の構えをとる。そして、目を閉じ集中する。
「……”神閃・虚無の空間”」
真耶は目にも止まらぬ速さで居合切りを行う。しかし、その刃を視認することは出来ない。たった一瞬で切られた不死鳥は、突如縦に切り裂かれてしまった。
「背中ががら空きだぜ!”フラッシュフィスト”!」
アポロンはそう言って眩い光を放ちながらその拳を真耶に向けて来る。真耶は一瞬目が眩んだが、どうせ右目は見えないのでアポロンの右腕の軌道を予測してその部分を蹴る。
すると、タイミングよくアポロンの腕を蹴り拳の軌道を変えることに成功した。真耶は拳の軌道が変わると体を斜めに逸らして避ける。そして、プラネットエトワールの柄に手をかけた。
「死ね。”理滅・歪曲”」
真耶はそう言ってアポロンの体を切り裂く。しかし、アポロンの体は切れなかった。傷一つつかずにアポロンは少し疑問に思う。
しかし、その数秒後にアポロンの体が曲がり始めた。それは、体を引きちぎるように曲がり始める。
「っ!?奇妙な技だ!」
アポロンはそう言って上半身と下半身を切断し分ける。そして、歪む下半身を捨てそのまま上半身を再生させると、何事も無かったかのようにその場から離れる。
「めちゃくちゃだな。お前ゾンビかよ」
「ゾンビ?あんなゴミ共と一緒にするな。殺すぞ?」
「あ?殺す?馬鹿じゃねぇの?殺せないから困ってんだろ?」
真耶らニヤリと笑いながらそう言った。すると、アポロンはその言葉に腹を立て殺気を強める。この時点で、並の冒険者ならほとんど逃げるか気絶しているだろう。しかし、真耶は不敵な笑みを浮かべると今度は左手でリーゾニアスを抜いた。
「単純な頭だな。もう少し頭になにか詰めた方がいいぜ。もしくは、死んで何もかも忘れな。”血界・吸血十字”」
真耶はアポロンに飛びかかり攻撃する。しかし、その攻撃は容易に防がれ隙を作ってしまった。アポロンは容赦なくその隙を狙う。しかし、真耶はその攻撃を難なく躱して今度は背後に回り込んで攻撃をする。
「紺青・水圧斬”」
「”フレイムフィスト”」
2つの技がぶつかり合う。重たい刃と燃える拳。その2つがぶつかることでその場に強い衝撃波を発生させる。2人はお互いの武器を押し付け合い睨み合った。
「真耶と言ったな。貴様に1つ教えてやろう。神というのはな、いついかなる時も人より優れていなければならないのだ」
「どういうことだ?」
「こういうことさ。”爆砕拳”」
「っ!?」
その瞬間、真耶の持つ剣と触れている拳が爆発した。真耶はその爆発で剣が弾かれてしまう。しかし、真耶は直ぐにその場から離れることでその後の追撃を躱した。
「危ないな」
「……よく躱したな。だが、1度躱したくらいでいい気になられては困る。俺は神だ。神は人より何倍も優れている。それを今教えてやるよ!」
アポロンはそう言って真耶に襲いかかった。アポロンの右手に光が宿る。その光は直視出来ないほどの光を放つ。
しかし、真耶はその光の拳を何とか剣で防いだ。リーゾニアスとプラネットエトワールを十字に重ね合わせることでその一撃を受け止める。
しかし、その重たい拳は真耶に容赦なく襲いかかる。その拳を受け止めた真耶はそのパワーに圧倒され受け止めきれない。力を殺せずそのまま後ろに飛ばされる。
飛ばされ足が宙に浮いた真耶は空中で一回転し体制を整えて上手く着地する。そして、リーゾニアスを背中の鞘に収めてプラネットエトワールを構えた。
「……」
「弱い!お前はとにかく弱いんだよ!神に楯突いたことを後悔するんだな!”紅蓮の拳”」
アポロンはその腕を真耶に向けて伸ばし、突き進んでくる。真耶はそんなアポロンを見て歯を食いしばると、剣を何回か振って目をクワッと開くと力強く剣を握りしめ迎え撃つ。
「”星剣・星雲破壊”」
真耶はその技でアポロンの拳を防ごうとした。しかし、その時真耶は気がつく。自分の魔力回路が完全に焼き切れてしまったことに。
「っ!?」
上手く発動しなかった魔法は中途半端に魔力だけ剣に付与される。しかし、それでも真耶はアポロンの攻撃を防いだ。何とか負けないように全力で押し返そうとした。
しかし、そんなボロボロの体では防ぐことは出来ない。徐々に押されていき、気がつけば手が震え出していた。
「……っ!?クソッ……!」
その刹那、押し負けた真耶が剣を弾かれ防御が出来なくなる。そして、アポロンの燃える拳はそんなことはお構い無しに攻めてくる。
何とか防ごうとも思ったが、体は思うように動かない。アポロンの拳は、容赦なく真耶の左胸を貫いた。
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