第88話 激怒する太陽神
━━少し前……2人の戦いを見ていたルリータは何とかして抜け出そうとしていた。隣にいる男は何故か剣を突きつけるだけで殺そうとしてこない。
ルリータはそんな男に話しかけようとする。しかし、自分の口にはボールのようなものを咥えさせられており話せない。
「ん〜!ん〜!」
ルリータはそう呻くように声を上げた。すると、突如目の前で大きな音がする。思わずそちらに目をやると、何と2人が落ちたのだ。
というより、真耶がアポロンを突き落とし共に落ちていったのだ。ルリータはそれを見て思わず真耶の元へ向かおうとする。しかし、拘束されており、動けない。
ルリータは何とかして抜け出す方法を考えた。その時、ある方法を思いつく。
(……これしか……)
ルリータは頭の中で葛藤する。そして、必死に考えた結果、それをやることにした。
「んむ……」
そう、それとは魔法陣を書くこと。ルリータは魔法陣を書いて隣にいる男を倒そうとしたのだ。
しかし、いかに有能な魔法使いと言えど、得意不得意はある。そして、ルリータの不得意なものは魔法陣を書くことだ。ルリータは魔法陣を書くのがとてつもなく下手で遅い。そのため、基本的に杖に魔法陣をいくつか覚えさせることで魔法を発動している。
しかし、杖が無い今ルリータは手で確保がない。下手ではあるが何とかして書いていく。
そして、かなり時間をかけ書き終えると、容赦なく魔法を放つ。
「んむんむむんむ!!!」
「うぐぁ!?」
男は突然の雷魔法で全身をしびれさせ気絶した。ルリータは男が倒れ剣を落とすのを見て手を縛る紐からてを無理やり抜く。そして、口にくわえているものを外し投げ捨てると、取られていた杖を取り返して真耶が落ちた場所から飛び降りた。
そして、一直線に真耶の所へ向かう。
着地する時は魔法を使ってベクトル方向を上に向けさせ減速し着地する。そして、真耶の元まで行こうとした。その時……
「真耶様!大丈夫ですか!?」
「……ん?っ!?馬鹿!来るな!」
真耶はルリータを見てそう言うと、慌ててルリータの元まで走り出す。すると、さっきまで倒れていたアポロンが起き上がりルリータ目掛けて襲いかかった。
ギリギリのところでルリータを押し飛ばし守った真耶は逆にアポロンの攻撃を左の脇腹に受けてしまう。アポロンは真耶のその左の脇腹らへんを殴り貫いた。
「っ!?グフッ……!」
突如腹に穴が空いた真耶は口から血を吹き出す。
「クッ……!」
真耶は何とか抜こうとするが、抜けない。
「グハハハハハハ!俺は光明神アポロン……またの名を、太陽神アポロン!このままこのギルドごとお前を殺してやるよ!」
そう言って右手を上げその上に巨大な太陽を作り出す。真耶はそれを見て嫌な予感がした。
「っ!?馬鹿野郎!ここにいるヤツら全員逃げろ!死ぬぞ!」
「「「っ!?」」」
真耶のその言葉でその場の全員が今の状況がまずいということに気がつく。そして、全員逃げ出した。しかし、魔法使いなどは結界を張り守ろうとする。
「馬鹿!そんなもので守れるわけないだろ!死にたくないなら早く逃げろ!」
真耶がそう言うと、魔法使い達は慌てて逃げ出した。そして、その場には真耶とルリータ、アポロンにその部下の男だけとなった。
「クソッ……!」
真耶も何とか逃げようとその腕を抜こうとする。しかし、抜けない。凄まじい力で押し込まれている。1度右腕で殴ってみるが、右腕は一瞬にして灰になってしまった。どうやら焼き尽くされたらしい。
「真耶様!待っててください!”ウインドカッター”」
ルリータは魔法を使いアポロンの腕を切ろうとした。しかし、生半可な魔法では効かない。ルリータは少し集中して魔法を使う。
「真耶様!気持ち後ろに下がってください!」
「何!?どういう……え?」
その時真耶は嫌な予感がして上を見た。すると、そこには見たことがある刃がある。
「行きます!”断罪のギロチン”」
その刹那、その刃は落ちてきてアポロンの腕を切り落とした。
「っ!?グァァァァァ!!!この……野郎!もう終わりだ!」
アポロンは激怒し太陽をビー玉サイズまで縮め握りつぶした。その刹那、手の中から眩い光が放たれる。
真耶はアポロンから離れると腕を抜きながら慌ててルリータの体を抱きしめた。そして、アポロンから逃げるようにギルドの正面に向かう。
「死ね。”ビッグバン”」
その刹那、ギルドが一瞬で大爆発した。中に入れば一溜りもないほどの勢いで爆発した。
ギリギリでギルドから抜け出した真耶だったのだが、その爆風をもろに受け吹き飛ばされる。そして、そのまま崖下の一番下にある湖まで一直線に落ちていった。
「……クッ」
真耶は落ちる途中で体制を変える。ルリータをの下に入り、抱きしめる。こうすることでルリータを落下の衝撃から守ろうとしているのだ。
そして、真っ直ぐ落ちて行って、どんどん水面が近くなる。真耶とルリータはそのまま水の上に落ち、巨大な水しぶきを上げた。
上がった水しぶきが全て落ちると、水面に血が滲み始める。それは、真耶の血だ。恐らく全身から溢れるように出ていた血が湖に滲んでしまったのだろう。
そして、湖が赤い色で染まっていく。その光景を見た誰もが、真耶とルリータは死んだ。そう思っただろう。
しかし、その時湖に波紋ができるのにある1人の冒険者が気がついた。そして、その波紋は増えていく。その波紋が増えると、その真ん中からルリータを担ぎあげびしょびしょになった真耶が現れた。
「……」
真耶は無言で上がってくるなりその場に座り込む。
「ったく、なんで守られたお前の方が気絶するんだよ」
真耶はそんなことを言いながら深く息を着く。そして、立ち上がりルリータを連れて安全な場所まで移動しようとした。その時、真耶達にある男が話しかける。それは、真耶が水面に浮上したのをいち早く気がついた男。そして、真耶がクエストに行く前にだる絡みしてきた男だった。
「あんちゃん!大丈夫か!?早く逃げなきゃなんだろ!俺ん家に来い!そこで手当をしてやる!」
男は慌てて真耶にそう言った。真耶は霞む目でその男を見る。その男は真耶に向けて手を差し伸べていた。真耶はその手を掴む。そして、立ち上がるとルリータを担ぎあげフラフラな足取りでその男の家まで向かった。
そして、それから少し歩いて男の家に到着した。
「悪い……助かった」
真耶はルリータをベッドに寝かしつけて椅子に座りそういった。男は前に会った時と全然違って真耶に優しくする。
ハンガーまで貸してもらったため、上着を脱いで乾かさせてもらうことにした。
「良いってことよ。それより、あんちゃんはなんであんな奴と戦ってたんだ?あんちゃんもそうだが、あの男もここいらでは見ない顔だっただろ?」
「まぁ、少し事情があってな。嫌だったら直ぐに追い出してもらっていい。俺は、今は魔王軍の幹部……12死星だ」
「っ!?」
「そして、ルリータも同じ。ただ、俺に関してはまた複雑な事情があって神に狙われている。さっきまで戦っていた男も神だ」
真耶はそう言って自分の無くなってしまった右手を見た。その手には包帯が巻き付けられている。男が心配し包帯を巻いたのだ。
一応止血はしてあるものの、完全に止まったわけじゃない。血が滲み包帯は真っ赤になる。
腹の傷も、包帯で巻いているだけ。回復は死なてない。
「……そうか、大変だったんだな。なんか要望があったら聞くぜ」
「……?追い出さないのか?」
「……へっ、その程度のことで追い出したりはしねぇよ。それに、今のあんちゃんは敵には見えないし、そんな疲弊してるやつを放り出すほど鬼畜じゃねぇよ」
「……そうか、本当にありがとう」
真耶はそう言った。男はそんな真耶に微笑みかけてお茶を注いで持ってくる。
「そういえば何だが、なんであんちゃんは魔法を使わなかったのか?あんちゃん魔法使えるだろ?」
「どういうことだ?」
「どういうことって、あのアーティファクトを取りに行ったってことは、あんちゃんも魔法戦闘を基本にしてるんだろ?なんで使わなかったんだ?」
男は不思議そうに聞いてくる。真耶はその言葉を聞いて少しだけ考えると、ゆっくりと話し始めた。
その時の真耶は、どこか悲しげな表情だった。
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