第86話 アポロンVS真耶
それから少しして真耶達はギルドへと帰還した。ギルドに着くと、真耶は直ぐにルリータの治療を開始する。
と言っても、真耶はほとんど魔力がない。唯一できるのは物理変化だけ。だから、多少の痛みを感じるが再構築するしかできないのだ。
「”物理変化”」
真耶はその手でルリータの左目を再生していく。まずは、貫通した部分を復元する。そして、次に目の機能を復元する。これで完璧だ。そう思って目を復元させた。その時、ルリータは小さな声で言う。
「痛いっ……!目は……視力は、治さないでください」
「っ!?何故だ!?物理変化を使えば治せるのだぞ!」
「それでも……!嫌です……!この傷は私のせいでこうなってしまいました……。だから、二度とこうならないように、戒めとして残したいんです……!」
「っ!?そんなの……お前の年でそんなことを考える必要は無い……!戒めを受けるのは俺の役目だ。何も守れない俺が受けるべきなんだ」
「それは違います!真耶様はそう思ってるかもしれないですけど、私達はそんなこと思ってません!だから、自分を追い込むのはやめてください!」
「っ!?……それは、無理だ。俺は、大切な人を守れなかった。俺の人生で最も大切な人をな。だから、俺は自分が許せない」
「そんなことないです……!それは、真耶様が許したくないだけ。許そうと思えばいつでも出来ます……!ですが、真耶様はそれでいいのです。自分が許せなくていいのです。でも、それと自分を追い込むことは違います。たとえ自分を許せなくても、明るく前を向かなければ、心が壊れてしまいますよ……」
ルリータは泣きそうな顔でそう言ってくる。真耶はそんなルリータを見て少しだけ心が暖かくなる。
そして、左目を復元する手を止めた。目から手を離すと、左目の形は出来ているのに視力が無い。その目を見て真耶は悲しむ。しかし、ルリータは言った。
「これで、真耶様と同じですね。私は真耶様の右目になります。だから、真耶様が私の左目になってください」
ルリータはそう言った。真耶はその言葉を聞いて言葉を失う。そして、右目の眼帯を外して言った。
「良いよ。俺が生きてる間はルリータの目になるよ」
そう言ってルリータの頭を優しく撫でた。
「よし、じゃあ任務の手続きしてくるよ」
そう言ってカウンターへと向かう。その時、ルリータは起き上がってどこかへ向かい始める。真耶はそれを見て目を細めた。しかし、先にクエスト完了の手続きを済ませる。
「おめでとうございます!えっと……マヤ様ですね。これが賞金です!」
「ありがとう」
真耶はそう言って賞金を受け取り、アーティファクトをポッケにしまいルリータを追う……ことはせずに、別の場所へと向かい始める。
それは、このギルドの1番上。5階の広場のような少し広い部屋だ。真耶はそこまで階段を上る。そして、ゆっくりと登り最上階へと着いた。すると、そこに人がいる。真耶はそれがわかっていたかのようにその人の前にたった。
それは男だった。身長は真耶と変わらないくらい。しかし、その男からは人感じはしなかった。どこか、神々しい力を感じる。
と言うか、服装が変だった。いかにも神様が着てますよって感じの服を着ていた。
「隠す気0だな。ルリータに何をした?」
「何もしてないさ。ただちょっと、お仕置しただけだよ」
男はそう言って指を指す。その指の先にはルリータが縛りつけられていた。首元には剣が突きつけられ、完全に人質として囚われている。
「……やはりか。行く前にルリータがソワソワしていたからな。おかしいと思ったんだよ」
「そういうことさ。まぁでも、まさか左目を犠牲にするなんて思わなかったけどね。左目に呪いをかけてたんだよ。どうするのかと思ったら、失明してまで呪いを解こうとするなんて、馬鹿らしいや」
「……なるほどな。呪いの力を更に強力な呪いで消したわけか。なら、お前より俺の方が強いってことになる。良かったな、これから負けることが確定したぞ」
真耶は殺気を放ちながらそう言った。そして、その男の前まで近寄る。
「真耶。君が負ける。神である僕は負けないのだよ」
「フッ、神なら、初めから姑息な手など使わず正々堂々と戦え。なぁ?卑怯者のアポロン君」
その瞬間、アポロンと呼ばれた男が真耶に殴りかかった。しかし、真耶はそれを躱して蹴りを入れる。
アポロンはそれを防ぐと1度距離を取った。そして、今度は走って真耶に近づき右手で殴り掛かる。真耶はそれを左手の手のひらで受け流し右手で殴る。アポロンはそれを受け流し再び殴り掛かる。
2人は同じようなことを何度も続けて殴り合う。しかし、未だに攻撃が通らない。手足の全てを使って攻撃するが、全て防がれるか受け流される。
「弱いな。神とはこの程度か?」
「そういうお前も期待はずれだよ。魔法だって、その魔力回路の焼き付き方ではもう二度と使えまい」
「黙れよ」
真耶はそう言ってついにアポロンの顔を殴り飛ばした。アポロンはその勢いに負け少しだけよろめいた。その隙に真耶はアポロンにジャンプして蹴りを入れ回転しながら着地した。そして、流れるように右足でアポロンの顎を蹴り飛ばす。すると、アポロンは体が宙に浮いた。
「っ!?」
さらに真耶は、そこから体をねじりアポロンの腹を蹴る。すると、アポロンは凄まじい勢いで壁に向かって飛んで行った。そして、壁に背中を強打する。そのせいで壁が少し壊れてしまった。
「グハッ……!」
「弱いな。オリュンポスとは雑魚の集まりか?」
「……黙れよ。俺は雑魚じゃねぇんだよ!」
アポロンは激怒して殴りかかってくる。真耶はその攻撃を難なく躱して反撃しようとした。しかし、アポロンは真耶の想像以上に冷静だったようで、がむしゃらに殴ってきていたわけではなかった。そのせいでアポロンの左ストレートが頬に当たる。そして、殴り飛ばされた。真耶はその勢いを途中で殺すことなく壁に激突する。
「グッ……!」
その衝撃に真耶は思わず呻く。そして、直ぐに立ち上がろうとした時、アポロンが目の前にいることに気がついた。その手には、鉄パイプが握られている。
咄嗟に真耶は左に逃げた。すると、さっきまでいた場所に鉄パイプが振り下ろされる。真耶は逃げるなり直ぐにアポロンの足をひっかけこかそうとした。
しかし、片足しか引っ掛けられなかったためアポロンはコケない。しかし、バランスを少し崩す。その隙に真耶は肩甲骨の力を使い立ち上がった。
「やりやがったな。ただ、意外と軽いパンチなんだな」
真耶は頬をさすりながらそう言う。すると、アポロンも首をコキコキ言わせながら言った。
「お前こそ、軟弱な蹴りだ」
「じゃあ、そろそろ本気を出そうか」
「そうだな。正々堂々と殴り合いで行こう」
アポロンがそう言った瞬間2人はさっきより激しく殴り合う。殴っては避け、殴っては避けを何度も繰り返す。時々当たってはいるが、ほとんどは受け流しているからダメージには入らない。
アポロンは型にハマったような攻撃を、真耶は型破りな攻撃をする。共に2人の実力は拮抗していた。
そんな時、真耶があるものを見つける。それは、皿だ。どうやら皿がそこに置いてあったらしい。恐らく在庫として残しておいたものをここに保管しておいたのだろう。真耶は攻撃を避けながら皿に近づいた。そして、皿を手に取りフリスビーのように投げる。
「っ!?こんなものが通用するとでも思ってるのか!?」
「知らねぇよ!」
真耶はそう言って一度に何枚もの皿を投げる。最初は2枚や3枚程度だったのが、段々と増えていき10枚や20枚を一気に投げ始めた。
「っ!?なんのつもりだ!?」
アポロンはそう言ってそれを全て割りながら真耶に近づく。すると、真耶は近づいてきたアポロンの顔面を皿で殴り飛ばした。しかも、皿の側面でだ。
さらに、真耶は皿をもう一度投げる。そして、先程殴られ少し宙に浮くアポロンの顔にその皿をぶつけた。その皿はアポロンの顔にぶつかると広い面をちょうどアポロンの顔と平行になるように落ち始める。その瞬間に真耶は皿の上からアポロンの顔を全力で殴り付けた。
皿が割れ真耶の手に突き刺さる。しかし、逆にそれがスパイクとなり、そのパンチのダメージ量を増やしてしまった。
アポロンは殴られた挙句皿が顔にいくつも突き刺さる。さらに、地面に叩きつけられるようにして殴られたせいで後頭部にも痛みが走る。
真耶は軽く息を荒らげながらアポロンの前に立ちアポロンを見下ろした。
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