第84話 彼を苦しめる事
真耶は地面から現れたその剣をなんの躊躇もなく握った。そして、地面から完全に抜き取り手に馴染ませるためか何回か振る。
「うん。いい感じだ」
真耶はそう言ってその黒い剣を構えた。そして、タイミングを見計らう。
今、真耶の足元には八卦の印……すなわち、絶対認識領域が展開されている。この状態だとほぼ全ての事物は認識することが出来る。
真耶はその力で領域内にいるゴーレムの動きを全て認識した。そして、いつどこでどのような攻撃が来ても避けられるくらい考える。
ゴオォォォォ!
ゴーレムの声がした。そして、近くで動く気配を感じる。さらに、ゴーレムの情報を全て認識した。
その刹那、真耶は持っている剣でゴーレムを切り裂く。まるで縮地のように高速移動しながらゴーレムを切る。そのためか、ゴーレムは切られたことに気がついていない。
「”羅刹之獄”」
その瞬間、ゴーレムの右腕に傷がついた。しかし、その傷はほんの少しだけ。よく見ると傷がついてるなって思う程度のものだった。
だが、そのほんの少しの傷でゴーレムは動きがおかしくなる。なんせ、その傷が再生しないからだ。どれだけ再生させようとも治らない。どれだけ復元しようとしても、復元しない。
その傷は2度と治らなくなったのだ。
「フフフ……」
真耶はその事実を知って慌てるゴーレムを嘲笑うように笑った。
そそもそも、この羅刹之獄という技は技では無い。この剣の名前の事だ。今真耶が握っている剣の名前が羅刹之獄……別名、不治の剣。この剣でつけられた傷は、その傷をつけた本人が死ぬか解除する以外では治す方法は1つしかない。
しかし、その方法もほとんど無理に近い。真耶でさえ面倒な工程のせいでやりたがらない事だ。真耶はそんな剣でゴーレムを攻撃した。
ゴーレムはその傷を何とか治そうとする。しかし、その傷は絶対に治らない。この技は治そうとする行為そのものが禁止される。だから、例え腕を切り落として再生させても、切った場所は再生されない。
「終わりだな」
真耶はそう言って剣を構えた。そして、再び縮地のような技を使う。すると、ゴーレムは真耶を見失った。その瞬間に間合いに入り込んだ真耶が攻撃する。
「”神葬・暗黒星雲”」
そして、その場に黒い軌跡が残った。
「長かったが、俺の勝ちだ」
真耶がそう言った時、ゴーレムの体が半分に切り裂かれた。そして、その体はズレていき地面に落ちる。
真耶はそのゴーレムを見て手に持っていた剣の召喚を解除しようかと思った。しかし、その時ルリータが真耶の元まで歩いてくるのが見える。それが分かった時真耶は、慌ててルリータの元まで走った。
そして、その数秒後にルリータに向けてゴーレムが謎の黒い光線を放った。真耶はギリギリでルリータを助けるが、さらにもう1つの光線が来ていることに気が付かなかった。
真耶はその光線は避けきれずに当たってしまう。そして、その光線は真耶の体を貫きルリータの左目を貫き潰してしまった。
「あぁぁ!」
人は怪我をした時よく叫ぶのだが、その痛みが通常より何倍も強いと声すら出ないらしい。
ルリータは左目を抑え泣きながら歯を食いしばっている。そして、血が溢れ出てくるのを必死に止めようとしていた。
「ルリータ!今すぐ回復を……っ!?」
真耶が回復をしようとした時、あることに気がつく。それは、今の光線が真耶の羅刹之獄と同じ力を持っているということだった。なぜゴーレムがその能力を持っているのかは分からないが、その能力があるということはルリータのこの傷はゴーレムを殺さない限り治せないということになる。
試しに物理変化で欠損した部分を再構築してみたが、その部分だけは出来なかった。
「……やってくれたな……!ゴーレムの野郎……!……最悪だよ。クロエの予想通りになったわけか……」
真耶は小さくそんなことを言う。
「あ……あぅ……!ま、真耶……様?ど、どういう……んんん!」
ルリータはもがき苦しみながら真耶に聞いた。真耶は慌てて優眼を発動してルリータの痛みを和らげる。そして、言った。
「ずっと、聞こえていた。お前とクロエの会話は。お前がなにかやらかすと聞いて、未来を変えようとした。でも、変わらなかった……」
真耶はそう言ってクロエが言った通りとても落ち込む。そして、まるで死んだような目付きになって地面を眺め出した。
その時、ゴーレムが再び光線を放つ。真耶はそれを見て時間を止め防いだ。
「……」
真耶はその止まった光線を見つめ言った。
「今は……今はその時じゃない。俺は死んで詫びることなんて出来ない。こんな罪深い俺は死んで詫びるなんて出来ない……!」
真耶は暗い目をしてそう言う。ルリータはその目を見て直ぐに真耶が自分を責めていることに気がつく。だから、ルリータはクロエに言われた通りに無理やり強がって言った。
「真……耶……様……!私は……大丈夫……ですよ……!」
ルリータはそう言って笑顔を作る。しかし、真耶は表情を変えない。なんせ、ルリータが苦しんでいるのが分かるからだ。だから、笑えない。だが、ルリータは真耶に少しキツめに言う。
「真耶様……笑ってください……よ……!」
ルリータはそう言った。真耶はその言葉を聞いて少しだけ悩む。そして、優しい笑顔を作ってルリータに見せた。しかし、やはり罪悪感を感じているのか、その笑顔は暗い。
だが、今のルリータにはどうしようもない。ルリータはそんな真耶を見て笑った。真耶はルリータにほほ笑みかけるとこれまで以上に魔力量を爆発的に増やす。
「俺が……俺を許せなくなる前に……必ず……お前を……倒す……。そう決めたから。何があっても決めたから。たとえどんな存在が目の前に来て今の自分に正しい情報をどれだけ送り込んだとしても、必ずお前への復讐心は忘れない」
真耶はそう言って立ち上がり振り返ると、ゴーレムのいる方向を見た。すると、なんという事か、ゴーレムの体が少しおかしい。真耶は時間を進めそのゴーレムを見る。
すると、ゴーレムは形を変え始めた。切り裂いた体2つを混ぜ始め、魔力を増大させていく。そして、ゴーレムは形を変え人型となった。
「アーティファクトを盗んだものよ。排除する」
ゴーレムは突如喋り出した。そして、そう言ってこれまで以上に魔力を増やす。その魔力量は今の真耶と同レベルくらいだろう。
「俺が必ずお前を殺す。何があってもな」
真耶はそう言って殺気を強めた。すると、どこからともなく声が聞こえてくる。
「そこのあなた……!これを……!」
弱りきった声で後ろから誰かが声をかける。振り返ると、冒険者の女性が真耶に向けてアーティファクトを投げていた。真耶はそれをキャッチする。
「精霊達の羅針盤か……助かるよ」
真耶はアーティファクトを見ながらそう言う。そして、もう一度ゴーレムを見た。すると、ゴーレムはさらに形を変化させている。恐らく戦闘モードに入ったのだろう。だったら真耶も入る他ない。
「侵入者は排除する」
ゴーレムはそう言って襲ってきた。真っ直ぐ右ストレートを決めてくる。しかし、真耶はそれをカウンターで蹴り返す。そして、魔力を溜め魔法を発動した。
「全力で行ってやるよ!”死獄纏”」
その瞬間、真耶の体に黒い力が纏い始めた。そして、少しして真耶の体は黒いドラゴンの鎧に覆われた。
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