第79話 悲しみという名の……
それから3時間後……
真耶は目を覚ました。現在の時刻は5時。起きるには丁度いい時間だ。真耶は布団から出て着替えをすると、剣を手に取り手入れを始める。
昨日の夜は手入れをする時間が無かった。だから、今こうして手入れしておかないと後々面倒なことになる可能性がある。
真耶はそんな思いで剣を鞘から抜く。すると、刃の全体が顕になった。その刃はオーパーツとなったためか、紫色の光を放ち、エネルギーのようなものが流れていた。
真耶はその剣を研いでいく。そして、綺麗に磨きあげ鞘に収めた。その時、ルリータが目覚める。
「んぁ……あれ?真耶様?」
ルリータは起きるなり真耶がベッドにいないことに気がつき慌てる。しかし、直ぐに真耶が部屋の真ん中に座っているのに気がついてほっと息を着く。
「真耶様、心配しましたよ」
「悪いな。てか、俺のことを心配するより、自分のことを心配しろよ。そんな裸で寝てたら風邪ひくぞ。て言うか、お前いつ脱いだ?寝た時は着てたろ?」
「ギクッ!え、えと、その、あの、いや、えと……ね、寝相が悪いだけですよ!アハハ……」
ルリータは何故か慌てて真耶にそう言った。真耶はその事に疑問に思いながらも多少納得する。しかし、それはそれでやばい気がしてルリータに言う。
「その寝相の悪さはさすがにやばいぞ。気をつけた方が良い」
「そ、そうですね。アハハ……」
ルリータはそう言ってアハハと気まづそうに笑った。そして、真耶に近づいてきてのしかかるように背中に体重を乗せる。
「どしたん?なんかあったか?」
「いえ、なんでもないですよ」
「そうか。なら早く服を着た方がいい。風邪をひくぞ」
「そんなことないですよ〜。こうして真耶様に触れてるだけで暖まるんですから」
「何だよそれ。俺は火打石かよ」
真耶はそんなことを言って笑う。そして、ルリータをちらっと見る。すると、その白い肌がガッツリ見える。でも、肌だけなようだ。その事に多少なりとも安心する。
「ま、何でもいいけど、今日することを確認しておくぞ。まず、俺達は7時くらいにギルドに行く。そして、緊急クエストを受けてアーティファクトを見つける。見つけたら奪われないようにギルドに戻る。それで任務完了だ。もし途中で人に襲われたらボコボコにする。もし、相手が神なら殺すだ。分かったな」
「はい!分かりました!」
「いい返事だ。期待してるぞ。てか、返事だけになるなよ」
「大丈夫ですよ〜!もし失敗したら、その数だけお仕置を受けますよ!」
ルリータは自信満々でそんな事を言った。多分これはフラグなのだろうが、真耶はそんなフラグを折るのが大好きだ。だから、折るかどうか悩む。そして、少し考えた後に言った。
「ま、気をつけろよな。失敗したら何するか考えておいてやるよ。ただ、死ぬとか、死にそうになるとかは許さんぞ。絶対にな」
真耶は少し表情も声色も怖そうにしてそう言った。すると、ルリータは少し怖がりながらこくりと頷く。
真耶はそんなルリータを見て少し安心すると優しく微笑んでルリータを膝の上に乗せる。
今真耶はあぐらをかいて座っているから、その上にルリータは座る。真耶はルリータを座らせて言った。
「もしかしたら、俺とモルドレッドの子供がルリータみたいな子だったのかもな。こんなに可愛い人はなかなかいない」
真耶はそんなことを言ってルリータの頭を撫でる。そして、頭に何も無いことを確認した。そして、確認した後頭部に絶対バレないように物を隠した。
「うふふ。気持ちいいです」
ルリータは真耶が何かを隠したことに気づかずそんなことを言う。真耶はそんなルリータを微笑んで見ながら、覚悟を決めた。
それから少しして真耶はゆっくりと立ち上がった。ルリータは真耶が立ち上がろうとしていることに気がつき直ぐにその場から離れる。
「もう行きますか?」
「……うん。早めに行ってさ、敵を確認しておかないと」
真耶はニヤリと笑ったそう言う。ルリータはその笑みに少し恐怖心を抱いたが、それ以上に真耶のかっこよさの方が勝ち胸がキュンキュンする。
「……それにさ、モルドレッドが来てるかもしれない」
「え……?」
「来るはずなんかないって分かってるけど、もしかしたら来てるかもしれない。そう思うと、自然と足が進むんだ」
「そ、そうなの……ですね……」
ルリータはその言葉を聞いて少し心が苦しくなった。なんせ、ルリータが真耶のことをどれだけ好きになろうとも、真耶は絶対にルリータに振り向いてはくれない。
ずっとモルドレッドだけを見て、他の人を好きにはならない。たとえモルドレッドに嫌われようとも必ずモルドレッドのことを好きになる。ルリータはその事実を改めて知り泣きそうになる。
しかし、何とか泣かないように涙をこらえ、作り笑いをして自分を誤魔化した。
「……」
そんなルリータを真耶はなにか覚ったような目で見てくる。もしかしたら、今泣きそうなことさえも全て見通されているのかもしれない。
でも、それでもルリータは隠した。必死にバレないように隠した。
「ほら、行きましょ!」
ルリータはそう言って真耶をギルドに行かせようとする。すると、真耶はなにか考えるような素振りを見せてギルドに向けて歩き出した。
ルリータはその後ろを隠れてバレないように泣きながらついて行った。
そして、少ししてギルドに到着する。ギルドに着くと、まだ5時だと言うのに人だかりができていた。恐らく皆緊急クエストの準備をしているのだろう。武器屋や防具屋には行列が出来ていた。
「すげぇな」
「あんちゃん!あんちゃんも武器揃えなくて良いのか!?」
「あぁ、武器屋のおっちゃんか。別に俺は揃えなくていいよ。てか、もう揃ってるし」
「その武器だって手入れしなきゃだろ。安くしとくから俺に任せろよ」
「いや、手入れなら自分でできるし、もう俺はしたぞ」
「そうだったのか……だが、まだなんかあるかもだろ?見せてみろよ。見せるだけだったらタダだからな!な!」
武器屋の男は何故か無性に真耶の剣を見たがっている。真耶はその気迫に少し呆れながら剣を男に渡した。男は剣を受け取ると鞘から丁寧に抜く。そして、それを見て言葉を失った。
「あんちゃん……これはとこで手に入れた?」
「自分で作った。元のベースはただの剣に無限回路をつけたものだが、それにアーティファクト後からとデウスエネルギーを循環させることで、オーパーツとなった。だから、今その剣はオーパーツだ」
「っ!?じゃあ、ここに流れてるのはデウスエネルギーなのか……!?」
「そうだ」
真耶がそう言った途端男は深刻そうな顔をして剣を真耶に返す。そして、くらい声で言ってきた。
「あんちゃん……」
「何だ?」
「それを作る技術を俺にもくれよぉ〜!」
男は突然豹変して真耶にそんなことを言ってくる。そして、店をほったらかして真耶にすがりついた。
「おい、店をほったらかすな。あと、その技術は渡せない。そもそも、俺の固有魔法で作り出したのだから、お前には出来ないだろ」
「クッ……!その技術があれば、王国の武器屋になって金儲けできたのによぉ!」
「諦めろ。そもそも、この力を常人が扱えるわけないだろ。一振で腕が吹っ飛ぶぞ」
「じゃああんちゃんはなんで使えるんだ?」
「デウスエネルギーを体に取り込んだからだ」
「っ!?嘘だろ!?あれは取り込んだら最後。死ぬだけだろ?謎の呪いにかかって、衰弱していくって話だ」
「俺には効かない。たとえそれがルールでも、そのルールを俺は改変できる」
真耶はそう言った。すると、男は少し分からないと言った表情をする。真耶はそんな男に別れを告げるとその場から離れる。そして、受付まで行き緊急クエストの受注を済ませた。
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