第75話 遊び人の戯言
真耶は両腕に装着してある悲しみの糸をシューターから取り出すと、目にも止まらぬ速さで周りに張り巡らし、一気に引っ張る。すると、真耶の周りに見えない壁が現れた。
「ん?壁?結界ですか?先程の糸……あれはアーティファクトですかね。まさかあなたが所持していたとは」
「まぁね。結局のところ、神器の数よりアーティファクトの数で勝敗は変わってくるからさ。ただ、お前は違ったみたいだな。アースガルズの戦力増強かと思ったが、そうじゃないんだろ?」
「なぜそう思うのです?」
「ここにある武器を見れば分かる。お前はほとんどの武器を持ってるが、3つほど無いものがある。それは、『アーティファクト』『オーパーツ』『冥界神器』だな。どうせこの3つをコレクションに入れたかったんだろ?」
「……」
「図星だろ?」
「そうですね。まぁ、アーティファクトが1番現実的ですから。冥界神器は死を経験しなければ行くことさえも出来ない。オーパーツは存在しているかどうかすら怪しい。だとしたら、アーティファクトを狙うのは当然です」
「まぁね。ただ、他にもいろいろあるだろ?忘却の宝玉とかさ。それに、俺の知ってる中でオーパーツだと思われるものは一つだけある」
真耶はロキにそう言った。すると、ロキは少し反応して目を細める。真耶はそんなロキを見ながら言った。
「お前も薄々勘づいてんだろ?この世界にはどのエネルギーにも当てはまらないものが存在する」
「……デウスエネルギーですか……」
「ご名答。あのエネルギーだけは神でさえも操ることは出来なかった。俺はできたがな。恐らく俺自身はルールを改変できる。理滅の力を取り戻す前は無意識的に死を避けてルールを改変していたのだろう。だから、この世界で唯一俺だけがデウスエネルギーを使用できる」
真耶はそう言って目を細めた。ロキは睨みつけてくる真耶を見てミストルティンを握る拳に入れる力を強めた。そして、静かに言う。
「だとしたら、尚更ここで殺しておくべきですね」
その刹那、真耶を襲う神器の数と威力が増す。そのせいで悲しみの糸で作った壁にヒビがはいり始めた。
「もう限界のようですね。どうやら後手に回ったあなたの負けのようです」
「パッと見そうだろうな。でも、俺は常に後手に回れば死ぬだけだと思っている。そんな奴が先手を取らないはずはないだろ?」
「……」
「やる時はやる男だよ。俺は」
真耶はそう言って突如目の前を殴りつけた。その刹那、突如ロキの体が真耶の拳の先に転移する。
しかし、ロキは全く驚く気配もなくその拳を受け止めた。真耶も全く動揺することなく止められた手を引き更に蹴りを入れる。
ロキはその蹴りも手のひらと腕で防いだ。真耶はそこから更に体をひねり回し蹴りを決め込む。しかし、やはりロキはそれも防ぐ。
そして今気がついたのだが、真耶を囲んでいたロキの魔法陣が全て消えていた。どうやら突如真耶から攻撃されたことによって維持するのが困難になったようだ。
「……なるほど、あの時……闘技場で戦った時から既に私は負けてたのですね」
「そゆこと。だからお前の二連敗な」
真耶はそう言ってロキに殴り掛かる。すると、ロキはその拳を手のひらで一旦受け、更にそこから受け流す。真耶はその攻撃を受け流された瞬間に反対の手で攻撃する。真耶はそんなふうに何度も攻撃を繰り出すが、ロキはそれを全て手のひらで受け止める。
真耶は周りを少し見ると、少し移動し様々な方向から攻撃をする。そんな全方位からの攻撃を真耶は仕掛ける。しかし、ほとんどの攻撃は防がれ、その他は受け流された。
「私をあまり舐めないで欲しいですね。これでもアースガルズの2番を務めてますから。魔法も武器も使わない攻撃なんて通用すると思ってるのですか?」
「さぁね。やってみなければ分からない。一撃一撃に強い力を込めれば通用するかもしれないし、手数を増やせば押し切れるかもしれないだろ?」
「そんなことは無いのですよ。私とて多少の近接戦闘術を習得している。それなりには対応できますよ」
2人はそんなことを言いながらずっと近接戦闘を続ける。真耶が攻撃すればロキは受け流し反撃する。しかし、真耶はそれを避け反撃をする。
「……それにしても、あなたの攻撃は全て変わった攻撃ですね。型にハマってないというか、なんと言うか、この世界では見れることの無い攻撃です。そもそも、戦闘中にバク転をする人など見たこともない」
「そういうところが良いだろ?」
「どうなんでしょうね。確かに、人と変わった視点を持つことは大切ですよ。ただ、人と違うことばかりしていると嫌われますよ」
「お前がそれを言うか?まぁ、別に俺は気にしないよ。現に今色んな人から嫌われてるし、それに、本当に大切な人は1人でいい。その人に大切に思われているだけで生きる力となる。そしたらさ、いずれその人から更に違う人に行って色んな人がそういう自分を認めてくれるようになるさ。一人ぼっちの王様でも、いずれついてくる人は増えるはずだよ」
「フッ、机上の空論ですね。口ではなんとも言える。ですが、実際にそうなるとは限らない。何をしても無駄な人はこの世界に5万と居ますよ。私みたいにね」
ロキはそう言うと突如真耶と距離を取る。そして、ミストルティンを構えて言った。
「私は遊び人です。遊び人は誰かと仲良くすることを好まない。1人で遊ぶことを好みます。あなたと共に私の部下を痛めつけたかったのですが、それも叶いませんね。”世界樹の呪い”」
ロキはそう言ってミストルティンを真耶に向けた。すると、真耶の足元が隆起し出す。そして、その中からユグドラシルの根が生えてきた。真耶はそれを見て逃げようとするが、ギリギリで避けきれない。そのせいで体全身を包み込まれてしまった。
「っ!?ユグドラシルの根か……人の生命力を吸うことで何億年も生え続けていると言われている。その根を切って作られたミストルティンはユグドラシルの力を得ることが出来、その恩恵すらも我がものとする」
「そうですよ。だから私は今あなたの生命力を吸い取っている。このまま死ぬまで吸い取りますよ」
「……」
真耶はロキのミストルティンを見て手を強く握りしめた。そして、ニヤリと笑って言う。
「お前に1つ教えてやろう。先程も言ったがデウスエネルギーはオーパーツに近いものがあるって。あれ嘘だ。本当は、デウスエネルギーはオーパーツの成れの果てだ。オーパーツを破壊してそこから溢れ出たエネルギーがデウスエネルギーだ。だから、デウスエネルギーをどうにかすればオーパーツは作れるということ。この意味がわかるか?」
「……」
「理を操る俺にとって物事の情報を変えることなど容易い。まぁ、やったことないからどうなるかわからんがな」
真耶はそう言ってリーゾニアスを抜いた。そして、リーゾニアスにデウスエネルギーを流し込んでいく。
「いつかやろうって思ってた。それが今だったんだ」
真耶がそう言ってデウスエネルギーを纏わせていく。すると、リーゾニアスの形が変わっていく。真耶は完全に形が変わるのを確認して剣を一振した。すると、まとわりついていたエネルギーが霧散しその剣の姿が顕になる。
「これがオーパーツさ。古代先進武器・理滅王剣リーゾニアス・星雲」
その剣はまるで星のような煌めきを放ち、これまでに感じたこともないような恐怖と絶望、そして希望と幸福が感じられた。
「っ!?」
「さぁ、踊り狂おうか」
真耶はそう言って剣を構えた。
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