第73話 剣聖と真実
真耶の周りに現れた八卦の印はたった一瞬だけその場を真っ黒に染め上げて緑色の光を放った。そして、その刹那に真耶の見える世界が全て遅くなる。
いや、真耶の見えている世界が遅くなったのでは無い。真耶自身がとてつもなく速くなったのだ。だから、それ以下の速さで動くものの動きが遅く見えるようになる。
真耶はその目で向かってくるシュテルの攻撃を全て見切る。無数の星に転移して月の攻撃を何度も繰り返してくるシュテルを見ながらその攻撃を上下左右に体を動かし避けた。
「フッ、前は気が付かなかったが、星で攻撃してたんじゃなくて、星に転移して攻撃してたんだな」
真耶はそんなことを呟きながらニヤリと笑って全方向からの攻撃を見切った。そして、最後の1回だと思われるシュテルの攻撃を避けそのままシュテルの腕を掴む。
「勝負ありだな。俺の勝ちだ」
真耶はそう言って腹の位置に蹴りを繰り出した。しかし、シュテルは即座にどこかに転移して逃げる。気がつけば、周りにいつでも逃げられるように星が散らばっていた。
「残念だね。一応僕も学習はしてるんだ。逃げ道は確保してあるよ」
「フッ、逃げ道は必要ないさ。たとえ失敗したとしても、その失敗を乗り越えるのが未来へ進む近道となる。逃げ道など用意するだけ無駄だ」
「でも、今はこうして役に立ってる。必要ないことは無いと思うよ」
「ま、そうかもしれんな」
真耶はそう言って周りを見渡す。すると、シュテルは微笑んで言った。
「これでも強くなったのさ。本気を出さないと負けるかもよ?」
「そう思うなら出させてみな」
真耶がそういった刹那、シュテルが剣を構えて走り出す。そして、剣に黄色い光を纏わせ近づいてきた。
「行くぞ……”聖剣”」
その刹那、シュテルの剣が黄色い光に含まれた。そして、それと同時にシュテルは真耶に向けて剣を振るった。
「……」
シュテルが一瞬にして真耶の目の前に移動する。そして、縦に剣を奮った。真耶はその剣を左に避け躱す。すると、シュテルは再び瞬時に移動する。そして、今度は反対側から横に振り払ってきた。真耶はその攻撃を見て即座に振り返り少し後ろに後退して躱す。
しかし、シュテルは止まらなかった。今度は再び反対側から横に真っ直ぐ突き進みながら斬りかかってくる。真耶はその攻撃をバク転のように躱した。
「……」
シュテルはこれまでの攻撃を全て避けられ少し驚く。しかし、足を止めることなく真耶に襲いかかる。
真耶は全方向から向かってくるシュテルの攻撃を全て避けると、いつ反撃をするか考える。そして、シュテルが縦に剣を振るった時にその攻撃を右手で受け止め流れるように左足で蹴りを入れた。
シュテルはその足にすぐ気が付き避ける。真耶は攻撃を躱されると冷静に状況を判断して、誰もいない背後に回し蹴りのように体をひねり蹴った。すると、タイミングよくその場所に来たシュテルの腹にその蹴りが当たり、飛ばされる。
シュテルは何回か地面にバウンドしたが、冷静に起き上がり真耶の姿を捉える。しかし、その捉えた真耶がいたのは自分の目の前だった。
真耶はどこで作り出したのか分からない剣を持ちシュテルに突きつけている。シュテルは直ぐに逃げようとしたが、自分の星が全て壊されていることに気がついた。
「……負けだよ。さすがはマヤだね」
「お前もなかなかやるようになったな」
真耶はそう言って剣を捨てた。そして、魔法を発動する。すると、剣が消えただけでなく闘技場内の地面が歪み始めた。どうやら真耶は地面に物理変化を発動して鋭い岩山のようなものを作り出し星を全て壊したようだ。
真耶が1度伸びをしたところでルリータは決着が着いたことを理解する。そして、言った。
「勝負あり!勝者はどっちですか?」
「俺だよ」
ルリータの問いに真耶はそう答える。その言葉を聞いた瞬間ルリータは嬉しそうに笑った。
「ハハ、なんでマヤより彼女の方が喜んでるんだい?」
「何でだろうな」
真耶とシュテルはそんな会話をする。そして、ゆっくりとはしゃぐルリータの元に向かう。
ルリータは真耶が来ると直ぐに抱きつき言った。
「さすがは真耶様です!」
「フッ、そうだろ?俺は最強だからな」
「凄いです!」
真耶とルリータはそんなことを言って楽しそうに笑う。シュテルはそんな2人に言った。
「じゃ、僕はもう行くよ。最後に忠告しておくけど、この街にも神はいる。誰かは分からないが、強い力を感じる。一応僕の目的はアーティファクトとなっているが、本当はその神を倒すためにここに来た。もしかしたら既に近くにいるかもしれない。気をつけろよ」
「ま、善処はしよう」
真耶がそう言うと、シュテルは少し笑って手を振りながら去っていった。真耶はその背中を見届けると、服に着いた埃を落としてルリータに言った。
「……お前は神殺しの剣を知っているか?」
「神殺しの剣ですか?聞いたことないです」
「だよな。何せあれは、俺が密かに作りだした剣だ。想像以上に効果を発揮出来なかったから消したはずだったのだがな……」
真耶はそんなことを言って歩き出す。ルリータはそんな真耶を不思議に思いながらその後について行った。
それから3時間後……気がつけば空はもう暗くなっていた。真耶とルリータは初日目同様にギルドで夕食を済ます。そして、宿の自室へと戻り寝る準備を済ませた。
「……明日は気をつけろよ。何が起こるかわからん。あと、俺の予想が正しければ、シュテルは危ない。アイツと2人きりになるな」
真耶はルリータにそう言った。
「な、何でですか?」
「……悟られる訳には行かないからな。お前はすぐ顔に出そうなタイプだから秘密にしておくよ。分かったら返事な」
「は、はい……」
「……声が小さい。罰としておしりペンペンだ」
「い、嫌ですぅ!」
「冗談だよ」
真耶はそう言って微笑んだ。
「今日はもう寝ような。明日は朝が早い」
「そうですね」
真耶はそう言って電気を消した。ルリータは電気が消えたのを見てベッドに寝転がる。真耶はそんなルリータを見つめた。
少し時間が経過するとルリータは眠る。真耶はそれを確認すると、ゆっくり立ち上がって部屋から出た。
真耶はそのまま歩いて街の広場まで向かう。さすがは世界一の冒険者の街だ。こんな夜中でも街が賑わっている。
ちなみに今の時間が12時だが、街はそんな時間とは思えないくらい明るい。真耶はそんな広場を抜けて少しくらい広場に向かう。
そこにはシュテルが立っていた。真耶はそんなシュテルの近くまで歩いて向かい、話しかける。
「神聖霊剣シュテルンツェルト。その剣は持ったものに星の加護を与えると言われている。星の加護を受けた者はその者のステータスを何倍にも増大させることが出来る」
「どうしたんだい?急に」
「さぁね。急に言いたくなったんだよ。ていうか、確認みたいな感じかな。知ってると思うけど、シュテルンツェルトには似たような力を持つ剣が存在する。その名も、聖光霊真剣プラネットエトワール。その2つの剣は兄弟剣として作られた。そして、その2つの剣は戦争によって片方はこの世界に、もう片方は消失した。どこに行ってたか分からなかったのだがな」
「分かったのかい?」
「……」
真耶はシュテルの様子を見て少し笑うとシュテルに向かって言った。
「ま、そうだよな。バレたら良くないよな。しらばっくれなくていいぜ」
「……」
「その2つの剣は似てるんだ。使用者か製作者じゃなければ分からない。で、その剣を作ったのは俺だ」
真耶がそう言った瞬間シュテルは真耶に向けて剣を向け襲いかかってきた。
「まさか製作者だったとはな」
シュテルはそう言って攻撃をしてくる。
「嘘だよ」
真耶はそう言ってニヤリと笑った。
「騙したのか!?」
シュテルはそう言いながら真耶に連続で剣を振る。しかし、真耶はその剣を全部避ける。
「やっぱりお前はシュテルじゃないんだな。なぁ、ロキ」
真耶はそう言ってロキと戦いを始めた。
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