第72話 シュテルとの再戦
「「「っ!?」」」
その光景を目にした人は皆言葉を失う。そして、恐怖に満ちた笑みを浮かべる真耶を見て何人か金縛りにあったかのように体が動かなくなった。
「っ!?な、なぜ剣が動かないんだ!?」
「フッ、どうやらお前より剣の方が頭がいいらしい。こいつは俺という存在に勝てる見込みが0だと理解したのだろう。だから、自分を守るために自ら降参を選んだ。さぁ、お前はどうする?このまま1分間その剣を説得するか?1分経てばお前は負けるがな」
真耶はそう言った。男は悔しそうに拳を握りしめて降参する。
「クッ……!降参するしかない……!」
「勝負あり!真耶様の勝利です!」
その言葉を聞いてその場の誰もが言葉を失う。その以上な強さに真耶を不審に思う者も出てきた。
「いい判断だ。だが、弱いな。たとえお前が剣士だとしても、剣を失えば何も出来なくなる訳じゃない。剣がないなら拳で戦えばいい。今回はお前の努力不足だ」
真耶はそう言ってルリータの元まで歩くと、男に向かって手を振りながら去っていく。そして、その時真耶は知った顔の男とすれ違った。
「っ!?まさか……!?」
真耶は思わず振り返る。すると、その男は剣を手に取り優しい顔で微笑むとじっくり見つめ始める。
「うんうん。いい剣だ。でも、僕には合わないね。これ作った人ここにいる?」
その男がそう言うと武器屋の男が手を挙げた。
「お、俺だ」
「君か。じゃあ、この僕の剣と合成してくれないかな?」
「あ、あぁ。ちょっと見せてくれ。……っ!?これって……まさかこの剣って……」
「神聖霊剣シュテルンツェルト。このペンドラゴンに存在する剣の中で最も強いと言われている剣だ。基本的に闇の力を持った者に対して絶大な効果を発揮する」
真耶は男の後ろからそう言った。すると、その剣を持っていた男が楽しそうに微笑む。そして、真耶の顔を見て言った。
「久しぶりだね。君がここにいるってことは、希望くんが君を認めたって事だね」
「認められた訳じゃないがな。認めざるを得ない状況だ」
「確かにね。君の力なしだとこの世界は救えそうにない」
「そういう事だ。だから俺がこの世界にいることに対して四の五の言わせるつもりは無い。もし文句があるならその場で分からせるだけだ」
真耶はそう言って微笑んだ。すると、男はニヤニヤと笑って真耶を見つめる。
「お、おい、あんちゃんたち知り合いか?」
「真耶様、誰ですか?」
2人がそんなことを聞いてくる。
「知り合いだよ。コイツはシュテル。剣聖だ。分け合って戦ってボコボコにした」
真耶はそう言ってシュテルを指さした。シュテルはその言葉を聞いて少しピクっとなる。そして、言ってきた。
「それは違うな。惜敗だ」
「違うな。俺の大勝利だ」
「いいや違う。絶対に違うな」
2人はそんなことを言い合ってバチバチと火花を散らす。その2人の様子を見て武器屋の男とルリータは慌て始めた。
真耶とシュテルはそんな2人を見て少し笑うと言う。
「じゃあ、今から決闘だな。闘技場に行くぞ」
「そうだな。久しぶりに君と戦えるから楽しみだよ。1年ぶりかな?」
2人はそんなことを言いながら突然闘技場に向かって走り出す。男とルリータは慌てて2人を追いかけた。
そして、それから5分後……
真耶とシュテルは闘技場について使用許可も得た。2人は楽しそうに話しながら闘技場の中へと入っていく。
「それで、なんでお前は来た?」
「君こそなんでだい?」
「多分同じ理由だろ」
「やっぱりアーティファクトか。君も取りに来たんだね。マヤはアーティファクトを手に入れてどうするつもりなんだ?まさか、アロマがピンチなのか!?」
「さぁ?知らないな。今回来たのは組織の命令だ。だが、名目上そういうだけであって、俺は俺の意志でここに来た。アーティファクトは必ず貰っていく」
「組織?君は今アロマ達と一緒にいないのか?それに、あのアヴァロンの人達ともだ。希望から聞いたが、モルドレッドとアーサーはどうした?」
「……さぁね。アイツらはアイツらなりに何かしてるんだろうな。ただ、俺にはもう関係ない事だ。今は俺のやるべきことをやる。ただそれだけ。俺の考えに異議を唱えるものも許しはしない。敵対するようであれば容赦なく殺す」
真耶はシュテルを睨みつけながら言った。すると、シュテルは少し戸惑いながらも真耶に対して頷いた。真耶はそんなシュテルを見て少し目を瞑ると左目に心眼を浮かべて見つめた。
「……まぁ、分かってくれればそれでいい」
「そうか、許してくれて嬉しいよ。その右目の眼帯のことも聞きたいけど止めておくよ」
「これに関しては別に聞いても構わん。どうせもう見えないんだからな。本体が戻るまではこの状態が続く」
真耶はそう言って目薬を1滴打つと、シュテルから少し離れる。その刹那、ルリータが息を切らしながら闘技場に入ってきた。
「はぁ、はぁ、はぁ……ま、真耶様……速すぎ……です……」
「悪いな。ルリータ、合図を頼む」
「ふぇ!?き、キツイです……」
「そうか、悪い。じゃあそこで休んでおいてくれ」
真耶はそう言った。そして、シュテルの方を見てポッケからコインを取り出す。
「これが地面に落ちたら始まる合図にしよう」
「そうだね。じゃあ頼むよ」
シュテルはそう言って剣を抜き構える。真耶はコインを弾くと魔法で見えやすいように少し肥大化させた。
コインは何回転かしながら落ちていく。そして、ゆっくりと地面に落ちた。その刹那、2人は動き出す。真耶はすぐにコインを魔法で小さくすると、向かってくるシュテルの攻撃を右に避けた。
そして、右手の手首から闘技場の壁に向かって悲しみの糸を放つ。シュテルは真耶のその動きに気づき、回転しながら振り払うように真耶に攻撃を繰り出した。
しかし、真耶はバク転をしてその攻撃を避ける。そして、左手の手首から悲しみの糸を放ちシュテルの剣に引っ付いた。
「っ!?」
真耶はそれを確認して右手の悲しみの糸を一気に収縮させる。すると、真耶の体が引き付けられその場から離れることが出来た。さらに、シュテルの持っている聖剣も奪い取る。
真耶は聖剣を奪い取るとその場に突き刺し、壁を蹴りその初速度を最大限にあげシュテルに拳で攻撃を繰り出す。
シュテルはそんな真耶を見て冷静に周りを見る。そして、星のようなものを少し遠くに飛ばした。
その瞬間、シュテルの姿が消える。そして、シュテルの姿が星があった場所に現れた。
「やるな」
「君もね。前より強くなったんじゃない?」
「それはお前の方だな。俺に関しては弱体化している。どちらかと言えば、技術力が上がっただけだ」
真耶はそう言ってシュテルに向かって走り出した。その時に一旦右や左に移動することでまるで分身しているかのように見せる。そして、シュテルを惑わしながら近づく。
「技術力が上がったか……それは強くなったって言うんだよ」
シュテルはそう言って先程の星をシュテルンツェルトのある場所に飛ばし即座に移動する。そして、剣を握りしめ真耶の姿を見た。
「決めさせてもらうよ。”星剣”」
その刹那、真耶の周りに無数の星が発生する。この技は前に戦った時に見た技だ。真耶はその攻撃がどれほどの威力が知っている。
「前より強くなったよ。君はどうにか出来るかい?」
「ホントだな。確かに強くなってる」
「じゃあ、君の本気を見てみたいからもう決めるよ」
シュテルはそう言って動き出す。しかし、真耶はニヤリと笑って言った。
「この程度じゃあ本気は出さないよ」
真耶はそう言って足のつま先を地面に2回トンッと響かせる。その刹那、真耶の足元に星剣と同じくらいの範囲の八卦の印が現れた。
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