第71話 アーティファクトの杖
それから何分間か経過した。真耶達は武器屋を出ると杖を作る素材を集めにクエストを受けに行った。
そのクエストは数分で終わった。だが、集まらなかった素材を別の次元や時空間に取り入っていると、少し時間がかかってしまった。直ぐに武器屋に戻ってきて杖作りに取り掛かろうとする。
真耶達が帰ってきた時まだあの剣をぬこうとしている人がいたが、真耶達はそんな人達を無視して裏の工房へと向かった。
「ん?早かったなあんちゃん」
「楽だったからな。これで素材は集まった。ちょっと違う次元にまで行ってきたが、まぁそれも結構楽だったからな。早速作っていこう」
真耶はそう言って色んな素材を出していく。そして、それと一緒に真耶は道具入れの中から1本の剣を取り出した。
その剣というのは、真耶がただ持っているだけで特になにかに使う訳でもない普通の剣だ。唯一他と違うことといえば、真耶が取りだしたこの剣はアーティファクトで作られているということだ。
真耶はその剣を素材の横に置き集中する。そして、その剣と素材を中心に円を描き陣を完成させた。
「お前ら離れてろ、本来改良することが考えられていないアーティファクトを変える。何が起こるかわからない」
真耶はそう言ってルリータ達をかなり遠くに避難させると、その陣の中心魔力を流し込み魔法を発動する。
「”物理変化”」
すると、その魔法陣が眩い光を放つ。そして、少しづつだが剣の形が変わり始めた。周りに置いた素材と合成しながら形を変えていく。
そして遂に、剣の形は完全に変わり杖のような形になった。しかし、まだ終わりでは無い。真耶はここにほんの少しだけデウスエネルギーを加える。
それは、神すらも殺すことが出来てしまうエネルギーだ。量を間違えるととんでもないことになる。
真耶の放ったデウスエネルギーはゆっくりと杖のような形の物体に溶け込んで行った。すると、さっきまで感じられなかったエネルギーを強く感じるようになる。さらに、杖の形はさらに変わっていき、本格的に杖の形に変わった。
「おぉ……すげぇな」
男はそう言ってルリータ真耶に近づこうとした。ルリータも近づこうとする。しかし、真耶はかなり焦った表情で2人に言った。
「今近づくな!死ぬぞ!」
真耶はそう言った。しかし、時すでに遅し。真耶の言葉が届いた瞬間に杖から大量の魔力が放たれる。真耶はそれを見た瞬間に転移眼を発動した。そして、とっさに魔法を作りその魔法を2人に使う。
さらに、真耶は結界を何重にも張りその魔力から守ろうとした。そして、真耶自身の魔力でその魔力を包み込み外部に漏らさないようにする。
そして、その魔力は一瞬だけ爆発的に増え、そのあと減っていった。
ルリータ達は突如店の外に転移して混乱する。しかし、すぐに店の中に入り真耶の元へと駆けつけた。すると、中はどうともなっていなかった。どうやら真耶が全て防いだらしい。
しかし、真耶の体には痛烈なダメージが入っていた。胸は爆弾を抱え込んだ状態で爆発したかのような傷跡が残っていて、そこから止めどなく血が流れ落ちている。
しかし、真耶は安堵の息を漏らしながらただただ天井を見つめるだけだった。ルリータはそんな真耶に慌てて駆け寄る。すると、真耶はムクリと起き上がってルリータに言った。
「危なかったな。杖は完成したぞ」
「そ、それどころじゃないですよ!傷が……大怪我じゃないですか!」
「大袈裟だなぁ。こんなものすぐに治るだろ。ほら」
真耶はそ言って物理変化で傷を修復する。そうすることで傷と一緒に服まで再生した。
「よし。ルリータ、それどうする?どっかで試し打ちするか?」
「ううん。今度のクエストの時でいいよ」
「そうか。分かった。使いにくかったらその時言ってくれ」
「ん!」
真耶はそう言ってルリータと共に武器やから出ようとする。
「もう行くのか?」
「あぁ。助かったよ。ありがとう」
「それはこっちのセリフだな。あんちゃんも気をつけろよ」
真耶はその言葉に対して手を振り去っていく……と、言う感じにしたかった。しかし、恐らく真耶はトラブルメイカーなのだろう。なんと武器屋を出る前にトラブルにあってしまった。
「ハハハハハ!お前ら見たか!?俺様がこの剣を抜いたぞ!アハハハハハハハ!」
なんと、そんなことを言って高笑いをする馬鹿そうな顔の男が店の扉の前に立っていたのだ。その男の手にはさっきまで誰も抜けなかった剣が握られている。
どうやらその男は剣に認められ抜くことが出来たらしい。だから男はああ言って笑っているのだ。
「誰か俺と戦いたいやつはおらんのか!?おらんのなら俺が決めてやる!」
男は突如そんなことを言い出した。そして、何かを悩み始める。
「……アイツで試し打ちするか?」
「死にますよ。あの人」
「だよな」
真耶とルリータはそんな会話をして無視して店を出ようとした。すると、当然のように男は止めて来る。そして、真耶に向かって言った。
「お前だ!俺は女をいたぶる趣味は無いからお前だ!」
「……」
男は無駄な情報をところどころ入れながら真耶を指さした。しかし、真耶は無言で何も言わずに見つめるだけだ。
普通の人ならここで気まずくなるのだが、どうやらこの男は自分に陶酔してしまい周りが見えてないらしい。そして、何より頭がお花畑に包まれているようだ。全く気まずいなんて思わないらしい。
真耶は何も言ってないのに表に出て決闘することになった。
「真耶様、やりすぎないようにしてくださいね」
ルリータはニコニコ笑顔でそんなことを言ってくる。真耶は1つため息を着くと、外に出て決闘することにした。
それから10分後に決闘は始まった。どうやら男は武器と防具を揃えたかったらしい。ガチガチに身を包んで店からでてきた。そして、広場で2人は剣を構え合う。
本来は街で剣を抜く事は禁止だが、今回は決闘ということもあり街の自警団に見守られながら戦うことになった。
「よし!合図を頼むぞ!」
「ルリータ、頼む」
「はい!それでは……初め!」
ルリータがそう言った時戦いの火蓋は切られた。そして火花が散ることも無く終わった。男は何もすることなく一瞬で真耶によって倒され首元に剣を突きつけられたのだ。
「勝負あり!勝者は真耶様です!」
「クソォォォォォ!もう一回だ!今回はハンデが欲しい!」
「はぁ?嫌だよ。てか、お前はそれで勝って嬉しいのか?それに、それで負けたらお前凄いダサいぞ」
「それでもだ!ハンデはお前は10秒間攻撃禁止だ!やるぞ!」
男はそう言って半ギレでルリータに言った。ルリータも突然の事で戸惑ってしまう。真耶はその男がめんどくさいやつだと思いながら仕方なく2回戦目をやることにした。
「……はぁ、仕方ない。良いよ。攻撃禁止で。いつでも来なよ」
真耶はそう言って手招きをする。すると、男は合図を待つことなく走り出して真耶に襲いかかった。
「待て、合図くらい聞け」
真耶がそう言うと、男は確かにと言って戻って合図を待つ。
「あ、待て。面白そうだからハンデをまだ追加してやるよ。まず、俺はここから動かない。そして、魔法も使わない。防御も攻撃も全部小指だけだ。あと、最初の10秒間じゃなくて良いぞ。1分間は攻撃も防御も回避もしないでやる。さぁ、これでやろうぜ。ルリータ、合図を頼む」
真耶はそう言った。すると、そのバカげたルールにその場の全員が言葉を失う。しかし、ルリータは少し戸惑い心配しながら合図をした。
「そ、それでは初め!」
その刹那、男が走り出す。剣を構えながら真耶に襲いかかった。
「うぉぉぉぉぉぉ!」
男の剣が容赦なく真耶に振り下ろされる。しかし、真耶は不敵な笑みを浮かべて動かない。そして、その刃は真耶の顔の前まで迫った。
その時誰もが目を瞑った。なんせ、この攻撃が当たれば普通の人は死ぬから。そして、真耶も例外では無い。当然そんな攻撃が当たれば死ぬ。だが、それは当たればの話。
「ま、当たらなかったら意味ないよね」
真耶はそう言って笑った。真耶の目の前には地面に突き刺さった剣を重たそうに持ち上げようとする男が立っていた。
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