第70話 2日目の災難
その笑みを見た男は真耶に対して尽きることの無い恐怖と絶望を感じる。ルリータは逆に、希望と尊敬の念を抱いた。
真耶は2人からそれぞれ違った感情を抱かれながら恐怖に満ちた笑みを浮かべる。そして、その隕石をギリギリまで近づけて止めると、男に向かって言った。
「選べ。このまま隕石が降ってきて死ぬか、黙って俺の前から消えるかを」
「っ!?」
「早くしないと死ぬよ。死にたくないなら決めなよ」
真耶はそんなことを言う。その問いかけに対して男は小さく呟く。
「死にたくないならって、答えは1つしかねぇじゃねえか……」
「うるさいなぁ。俺の求めてる答えじゃなかったね。残念だけど死んでもらうよ。この世界諸共」
真耶はそう言って隕石を自分がいる真上に落としていく。そして、遂に隕石は男の体に当たりそうなくらいに降ってきた。男はそれを見て絶望する。そして、死の恐怖に壊されそうな精神を何とか保ちながら目を瞑った。
しかし、それから何分待っても隕石は体に当たらない。誰かが破壊したか、消したかしたのかと思うほど当たらない。
だが、それは当たり前なのだ。なんせ、今真耶が見せていた隕石は真耶が男とその付近にいる人に向けて発動させた幻術だからだ。だから、降ってきた隕石は当然地面に着いても何も被害は無い。
真耶はその隕石を消すと、振り返ってその場から離れていく。男はゆっくりと目を開けて真耶の姿を見た。
「じゃあな」
真耶は男に向かって手を振りながらそう言ってルリータと一緒に歩き出した。男はそんな真耶を見ながら呆然と立ち尽くす。
「……アイツら……!」
男は小さくそう呟いて拳を握りしめた。
それから真耶は何事も無かったかのように街を歩く。街には多くの冒険者がいて道具屋や武器屋に押し寄せているようだ。
「真耶様は何をお買いになさるのですか?」
「ん?だから、さっきも言った通り何も買わないよ。この石さえあればなんだって出来る。というか、正直何も無くてもなんでも出来る」
「……?」
「まぁ、見てのお楽しみだ。今度機会があったら見せてやるよ」
真耶はそう言って優しく微笑むと、ゆっくりと道具屋の前を離れる。
「そう言えば、何か買いたいものはあるか?」
真耶がルリータに聞いた。すると、ルリータは迷うことなく行ってくる。
「新しい杖を買いたいです!」
「杖か。よし分かった。とりあえず武器屋に行くか」
真耶はルリータの言葉を聞いてそういうと、ルリータを連れて武器屋に向かった。
真耶達が武器屋に着くと、そこは人だかりが出来ていた。やはり、緊急クエストの影響で冒険者が増えているようだ。
しかし、ルリータはそんな武器屋の中に行きたいと言っている。それなら、行かない訳にはいかない。
満を持して真耶はその武器屋の中に入っていった。中に入ると直ぐに武器が見える。しかも、かなりごつい剣だ。金額はかなり高額なものとなっている。だが、何故かみんなその剣を買うか買わないかで悩んでいる。
「よぉ、いらっしゃい。あんた達もその剣を買いに来たのか?」
「剣?これか?これがなんだって言うんだ?」
「へっ、それは使用者を選ぶ魔剣だ。剣に認められれば使うことが出来る。認められなければ使えない。どうだ?あんた達もやっていくか?」
「いや、俺達は別にいいよ。それより杖はないか?」
「杖か?裏にあるが、見ていくか?」
男はそう言う。真耶とルリータは男の提案に乗って裏まで行き見せてもらうことにした。
ルリータは裏に入った途端テンションが変わる。どうやら大量にあった杖を見てテンションが上がったらしい。突如としてハイテンションになったルリータを見ながら真耶は微笑ましく思った。
「あんちゃんはなんであの剣を抜こうとしなかったんだ?あんちゃんなら剣に認められたはずだろ?」
「いや、俺はあぁいうのには向いてないから良いよ。それに、俺には俺だけしか使えない固有の剣があるしね」
「その背中のやつか?その剣だが、素人がみてもわかるが、かなり力を失っているぞ。本来の力の何百……いや、何千分の1程度の力も出せていない」
「分かってるよ。でも、いずれ力を取り戻すつもりさ。ただ今は、こんな感じなんだけどね。まぁ何にせよ俺はあの剣は必要ないよ。あの剣みたいな陽属性の力は俺には眩しすぎる」
真耶はそう言って微笑むと、暖かい目でルリータを見た。ルリータは玩具を選ぶ子供のように杖を見て回っている。
「あ、あの!真耶様!どちらがいいでしょうか!?」
ルリータがめをキラキラさせながら聞いてきた。ルリータにそう言って見せられたのが、1つは禍々しく、もう1つは神々しい光を放っていた。
「この2つで悩んでるんですけど、どっちがいちか分からなくて!真耶様はどちらがいいですか!?」
ルリータは楽しそうに聞いてくる。真耶と武器屋の男はその問いかけを聞いて深く悩みこんだ。なんせ、この問いかけは男性にとって最大の難題だからだ。
恐らくルリータはどっちにするか既に決めている。だとしたら、当たりを選ばなくてはならない。
「……」
真耶はその2つをじっくりと見つめて思考をめぐらす。そして、かなり悩んだ結果答えた。
「右の禍々しいやつだな。そっちの方がルリータに似合っている」
真耶はそう答えた。
「え?そうですか……?」
するとルリータは少し残念そうな顔をする。どうやら真耶はハズレを引いたらしい。だからか、ルリータは少し残念そうな顔で真耶を見つめる。
しかし、真耶を舐めてはいけない。アヴァロンやペンドラゴン、魔界、神界など色々な世界に行けばそんな職業やスキルは無い。だが、地球に行けば真耶はオタクという職業であり、特殊スキルのナルシストを持っている。しかも、天然のナルシスト。こんな時になんて答えればいいか直感で分かるのだ。
「そうか、気に入らなかったか……」
「え!?あ、いえ、そんな、気に入らなかったって訳じゃないのですが……」
「そうか……気まで使わせてしまったな。そっちの杖も似合ってるよ。でも、やっぱりこっちの禍々しい方が好きだな。お前に似合ってる」
「な、なんでそこまでオススメするんですか……?」
「だって、この杖は俺に似ている」
真耶は少し微笑みながらそう言った。その言葉を聞いた時ルリータは一瞬硬直する。そして、直ぐにその言葉の意味に気がついて顔を真っ赤にさせた。
「っ!?そ、それって……!?」
「ん?どうした?」
「い、いえ!ま、真耶様には既に居ますからね!アハハ……」
ルリータは何とか誤魔化そうとする。しかし、何故か目尻に水が流れてしまった。
「あ、あれ?雨なんか降ってないのに……なんで?」
「あーあ、あんちゃんやっちまったな。違う人と既婚者なんだろ?泣かせちまったな」
「何?俺が悪いのか?なぜそうなる?そもそも、俺が既婚者なのはルリータは初めから知ってたはずだ。俺がこの世で1番愛しているのはイザ……モルドレッドだ」
「そ、そうですよね……」
ルリータはその言葉を聞いてさらに泣き出す。武器屋の男はその様子を見て呆れてため息をついた。そして、真耶に向かって言う。
「謝ってやれよ」
「だからなんでだよ。……はぁ、全く、まさかルリータは俺と結婚したかったのか?バカバカしい。俺はお前みたいなやつは凄い好きなんだよ。結婚したいならすぐに言えよ。確証は無いが、もしかするとモルドレッドは一夫多妻を許してくれるかもしれないぞ。まぁ、俺的にはルリータは娘のポジションだと思ってたんだがな」
真耶はそう言ってルリータの頭を撫でる。すると、ルリータは驚いたような表情をして呆然としていた。
真耶はそんなルリータの鼻を押して豚みたいにつり上がった状態にすると、ゆっくり手を離して鼻に優しくデコピンした。
「ふがっ!?な、何するんですか!?」
「何ぼーっとしてるんだよ。杖選ばなくていいのか?」
「……杖ですか……私はもういら……」
「はぁ、そんなに悩むんなら俺が作ってやるよ。いらないとは言わせないからな。お前を泣かせたお詫びだ。お前にあった杖を作ってやるよ」
真耶はそう言ってルリータに微笑みかけた。すると、ルリータは何故かさっきまでの悲しみが吹っ飛び嬉しさが混み上がってくる。
そのため、その嬉しさが爆発して真耶に抱きついた。
「ありがとうございます!」
ルリータは泣きながらそう言った。
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