第69話 任務初日目
次の日になって、真耶は朝早くから目を覚ました。そもそも、真耶がショートスリーパーだってのもあるが、今回早起きしたのはそんな理由ではない。なんと、朝の四時にルリータが起こしてきたのだ。
流石の真耶もそんな時間に起こされてはたまった物ではない。真耶は小さなあくびを一つすると、ルリータの顔を見る。
涙で目が滲んでぼやけて顔がよく見えないが、何故かプルプルと震えており目に涙を浮かべている。
「どうした?」
「あの、おトイレに着いてきてくださいませんか?」
「……」
その言葉を聞いた瞬間真耶は思考が止まる。そして、意識がどんどん遠ざかっていく。しかし、直ぐに意識を取り戻して言った。
「お前、夜一人でトイレに行けないのか?」
「ギクッ……!い、いえ……行けますよ……!」
「じゃあ1人で行ってきなよ」
「う……い、嫌です……!」
ルリータはそう言って涙を流す。よく見ると地味に股の部分が濡れ始めていた。多分もう限界なのだろう。このままここで決壊されても困る。真耶は一緒に行くことに決めた。
「一緒に行くか」
真耶はそう言って扉を開けてルリータをトイレまで連れていこうとする。ルリータは両足を産まれたての小鹿以上にプルプルさせながらトイレへと向かった。
2人はトイレまで到着すると、誰もいないか確認する。そして、誰もいないことが分かるととてつもない速さでルリータは中に入った。
真耶はそれを見て帰ろうとするが、突如眠気に襲われる。
「……あぁ、あと5分寝かしてくれてたら寝覚めが良かったのに……」
そして、真耶はその場でトイレのドアにもたれ掛かり眠ってしまった。そのせいでドアは開かなくなる。
「……あれ?」
それから2分後にルリータがトイレから出ようとした。しかし、出られない。出ようとしても真耶がもたれかかっているせいで出られない。
「え?あの、え!?出られないです!怖いです!助けてください!真耶様!まぁやさまぁぁぁぁ!!!!!!」
ルリータは慌てふためいて泣き始めた。そして、扉をどんどんと叩く。しかし、真耶は起きない。
そして、ルリータが泣き始めて5分後に真耶は起きた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!あぁぁぁぁぁ!!!」
「……うるさい……」
真耶はそう言って立ち上がる。すると、扉が開いた。そこからは、涙目で、目に泣いたあとがめちゃくちゃ残っているルリータがいた。
「ん?あれ?どしたの?」
真耶はすくっと起き上がって聞く。その様子からはさっきまでの眠そうな顔は見られない。
「ど、ドアが……」
ルリータはそう言って真耶に泣きながら抱きついてくる。真耶は少し戸惑いながら一旦自室に戻ることにした。
部屋に戻ると真耶は再び寝ようとする。しかし、ルリータが引っ付いて離れない。真耶はルリータが抱きついたままベッドに横たわった。
「……はぁ」
真耶はため息を1つつく。そうして、真耶とルリータの2日目が始まった。
結局その後真耶は起きた。寝ようとしてもルリータがずっと横でブルブル震えているため寝られず目が覚めてしまった。
真耶は目を覚ますと直ぐに朝の準備をする。と言っても、服を魔法で綺麗にするだけだ。こうすることで着替えする時間が無くなる。
それから色々と支度をすると、だいたい30分位で準備が完了した。そして、宿を出て街に向かう。
「……」
その間もルリータは真耶に抱きついていた。
「……悪かったな。なんか欲しいものあったら買ってやるよ」
「え!?ほ、本当ですか!?」
「うん。本当」
「わーい!やったぁ!」
ルリータは真耶の言葉を聞いて純粋に喜ぶ。そして、恐怖心はなくなったのか、震えることは無くなり離れることが出来た。
「ま、歩いてて欲しいものがあったら言ってくれ」
「はーい!」
ルリータは嬉しそうにそう返事をする。だがその時、ルリータが聞いてきた。
「あ、でも、真耶様はなにか買うものは無いのですか?明日の任務のために道具を揃える必要があると思うのですが」
「道具?いらないよ。そこら辺の石があったら何とかなるしね」
「石?どういうことですか?」
「今度見せる機会があったら見せてやるよ」
「……?石ってそんなに凄いのですか?」
「あぁ凄いぞ。この石だって、普通にこれ一つで戦えば……」
真耶が話し出した時、突如背後に人が立つ気配がする。真耶はゆっくりと振り返ってその人の顔を見た。
その人はただの冒険者だった。理由は分からないが真耶に対して嫌悪感を抱いているらしい。
「……誰だ?」
「誰でもいい。石のすばらしさを教えてくれよ。なぁ、クソ野郎」
「いきなりクソ野郎呼ばわりか?初対面の人とは仲良くしろって言われなかったのか?」
「あいにく、てめぇ見てぇな女を引き攣れるやつとは仲良くしなくていいって教わってな」
「飛んだ親だな。嫉妬がすごそうだ」
「なんとでも言えや。だが、俺を怒らせるとどうなっても知らないぜ。そこの嬢ちゃんもいい体つきをしている。ぐちゃぐちゃになるまで玩具にしてやりてぇぜ」
男はそう言って気持ち悪い笑みを浮かべた。真耶はその男の話を聞いて呆れて何も言えなくなる。
「……」
「あ?なんだよその目は?」
「……ルリータを玩具にするか……やめた方がいい。ぐちゃぐちゃの死体になって終わりだ」
「あ?言うな。お前ごときが俺にそんな口を聞けると思ってるのか?」
「いや、それはこっちのセリフだ」
2人はそんな会話をする。
「……ま、何でもいいけど俺らは仲間だぜ。無駄な戦いはよせよ」
真耶はそう言って振り返るとその場を去ろうとする。さすがにこんなに朝早くから戦うのは嫌だし、目立つ訳にも行かない。
それはルリータも分かっていた。だから、2人とも関わらないようにして離れようとする。
しかし、男はしつこかった。その場を去ろうとすると何故か邪魔をしてくる。
「おいおい逃げんなよ。俺に石のすばらしさを教えるんだろ?」
男はそんなことを言ってくる。真耶は面倒くさくなったのか、男に向かって指を指した。
「あ?」
男は何をしているのか分からないようだ。真耶はそのままその手を空に向ける。すると、男は上を向いた。そして、顔を青くする。
なんと、上から隕石が降ってきていた。男はその隕石を見て言葉を失う。真耶はそんな男を見て笑っていた。
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