第67話 無駄な会議
「それで、この会議の議題はなんだ?」
真耶は当たり前のことを聞く。
皆は小学校や中学校で学級会を始めるとなった時まず最初に何をするだろうか?
それは当然議題を決めることだ。議題がなければ話し合いにすらならない。というか、議題がない話し合いはただのおしゃべり会だ。ママ友じゃないのだからそんな馬鹿なことはしない。もし、そんなことをしている奴がいたら、その現況を目の前に連れ出してきてお尻ペンペンだ。
「いや、そう、そうなんだよ。本当にね、議題ってのは会議を始める上で大切なんだよ。それでさ、まぁ、なんて言うの?俺は余り会議とかしたことないからさ、それに大抵会議する時は何かしらの問題が発生した時だったしさ。だからさ、俺はこういうのを知らないんだよ。なぁ、教えてくれよ」
真耶は、そう言って怒りながらそう言った。そして、目の前にいる十二死星の1人、嘆きの亡霊のお尻に鞭を当ててさらに言う。
「この会議って意味あるの?」
真耶のその言葉はその場の全員の心に刺さった。
どうやら普段は会議の議題を皆探してくるらしい。基本的に魔王城の補習とか、魔界に侵入者がいるとかそう言うことが起こるらしいが、真耶がこの世界に来たことでそれもなくなったらしい。
そのせいもあってか嘆きの亡霊は何も議題を見つけられなかったそうだ。しかし、だからといって会議を辞めるなんてことは出来ない。なんせ、それがノルマだから。
十二死星には会議の議題を見つける当番があるらしい。皆それぞれ当番の日に見つけてくるようだ。そして、今回は難しい議題にして欲しいという願いから探し回った結果嘆きの亡霊は見つけきれなかったようだ。
ちなみに、嘆きの亡霊とは十二死星の中で数字は十。十二死星はランク付けされていて、数字が小さい方が強いらしい。そして、嘆きの亡霊は女性……しかも、幼女だ。
真耶はそんな嘆きの亡霊を見てこんなに小さい子でもしっかりしているなと感心する。
「まぁ、話し合う内容ないんならいいんじゃないの?」
「いや、そういう訳にも行かんのだよ。そもそも、今日話したいことは色々あった。逆にその時間が出来て良かったよ。それでも罰は受けてもらうけどね。フィリミュルは今日から懲罰房な」
「う、う、う、嘘ですよね!?わ、私、じゃ、し、死んじゃいます、よ……!」
フィリミュルと呼ばれた嘆きの亡霊はそう言って慌てる。しかし、それに追い打ちをかけるかのように真耶は言った。
「あ、ちなみに俺は懲罰房の役職に着いたよ。なんかそこしか残ってなかったらしいからさ。俺、拷問官デビューだぜ」
真耶はそんなことを言って笑う。しかし、フィリミュルは全く笑えなかった。そして、涙を流しながら皆に土下座を決め込んだ。
「それで、結局この会議どうするんだよ」
「特に話すこともないわけだな。誰か何かあったら話して欲しいが、あるか?」
サタンがそう聞くと、十二死星の1人であるアルラウネが手を挙げ言った。
「あ、それなら私から1つ。先日星が1つ増えました」
「「「っ!?」」」
その言葉を聞いた瞬間真耶とサタンは言葉を失った。そして、驚きのあまり今やっていることの手が止まる。
「あれ?あの、私何か言いましたっけ……」
「待て、星が増えたと言うのは、観測されなかったものが観測されたとか、位置が移動したとかじゃないのか!?」
真耶は慌ててそう聞く。すると、アルラウネは首を振って言う。
「それが違うのですよ。何も無いと観測されていた場所に1つ増えていました」
「エミナ!その星はどんな形をしていた!?魔力の質は神に似ていたか!?」
「い、いえ、形は丸く魔力は全く感じたこともないようなものでした」
エミナと呼ばれたアルラウネはサタンの気迫に少し気圧されながらも答える。
「神とは違う星が出来たのか……?」
サタンはそう言って深く考え込む。そんなサタンに真耶は言った。
「星の魔物か……。また新しく増えたんだな」
「っ!?知っているのか!?」
「ちょっとな。前に1度だけ戦ったことがある」
「どうなった!?」
「勝ったよ。国3つは滅んだけどね」
「「「っ!?」」」
「だから先に忠告しておく。星の魔物とは関わるな。もし何かあれば俺が何とか戦う」
真耶はその場の全員に向かってそう言った。すると、サタンが少し深刻な顔をして聞いてくる。
「今のお前が戦って勝てるのか?」
「無理だな。今の体は仮の体だ。記憶こそ戻ってきたものの、俺の体も力も全てケイオスが今持っている。記憶が戻るまでは本体があっちだと思っていたからな」
「なるほどな。……なぁ、その事なんだが、お前はなぜああすることで記憶が戻ると知っていた?そもそも、何故冥界にお前の体があると分かった?」
「……考えたこともなかったな」
真耶はそう言って机に肘を着いて深く考え込む。
(確かに、なぜ俺は冥界に俺の本体があると知っていた?あの時俺は自然な口調でケイオスにそう言った。そして、ずっと本体だと思われていたケイオスに全てを渡した。だが、本当は俺が本体だった。そして、ケイオスは俺が闇堕ちしたことで生まれた二重人格だった。じゃあ、元々あった記憶はなんだ?そして、記憶を戻すトリガーを俺は知っていた。なぜ知っていた?いや、違う。俺はあれで強くなると思っていた。だが、記憶が戻ってくることだった)
真耶は深く、深く考え込む。すると、サタンが言ってきた。
「なにかの可能性は無いのか?」
「なにかの可能性?ないことも無い。誰かにどこかのタイミングで記憶を植え付けられた可能性はある。どのタイミングかは分からないがな」
「そうか……なぁ、確かお前は1年間のブランクがあっただろ?その時何してた?」
「何って……確かに、記憶にねぇな。だとしたら、その間に何かあった可能性が高い。例えば、何者かによって記憶を消されかつ、新しい記憶を植え付けられたとかな」
「その可能性は大いにある。真耶、これからはその事の解明も視野に入れてくれ」
サタンのその言葉に真耶は強く頷いた。
「とりあえず今やるべきことは、アーティファクトの収集、軍の強化、神を倒す。この3つだ。分かったら各々行動に取り掛かってくれ」
「「「了解!」」」
そして、その場にいた全員は席を立ち移動を始める。真耶も他の人と同じように席を立ち移動しようとした。すると、サタンが止めて来る。
「真耶、お前には少し頼みたいことがある。残っておいてくれ」
「ん?あぁ、分かったよ」
真耶はその場に立ち止まりサタンの話を聞いた。
「どうした?」
「真耶、お前にお願いしたいことがあるんだ。アクエルアの街に新しいアーティファクトが発見されたらしい。それを取ってきて欲しい」
「それで、敵は?」
「まだ分からない。だが、神の力を感じる」
「だとしたら、俺が行くのが1番だよな」
「気をつけてくれ。何かあったら直ぐに帰ってきていい。あと、12死星の中から1人連れていけ」
「いや、1人でいいよ」
「ダメだ。必ず1人は連れて行け。2人組が絶対だ。ルリータ!来てくれ!」
サタンはそう言って12死星の中から1人呼ぶ。来たのは大きな杖を持った小さな女の子だった。
「彼女は?」
「ルリータだ。12死星の中で最も魔術に長けている。必ずお前の力になるはずだ」
「……」
「良いから連れて行け!」
「……分かった。仕方ないから連れて行ってやる」
真耶はそう言って振り返ると、ルリータの背中に手を当てて連れていった。
「ったく、ロリコンめ。心配性なのは分かるが、1人よりマシだろ。それに、守るべき存在が出来た時お前は今まで以上に強くなる。と、思うよ」
サタンはそう言って優しく微笑んだ。
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