第64話 遠い日の悲しい記憶
彼が剣を作り上げてから3日後、彼らはある街へと到着した。彼らはそこで平穏な一日を過ごそうとする。しかし、彼らが街についてからさらに2日後、その平穏な一日はぶち壊された。
なんと、彼らの目の前に追っ手が現れたのだ。……いや、それを追っ手という一言で片付けていいのか分からない。全身から雷を放ち、神々しいオーラを放っている。
「敵か……だが、俺らも強くなった。勝てないことは無い」
彼は、その男が目の前に現れて直ぐに戦闘態勢をとった。しかし、何故か彼女はその男を見て全身をふるわせ後ずさっている。
「どうした!?」
彼はそう聞いた。すると、彼女はこう言う。
「ゼウスよ……なんでゼウスがここに来るのよ……!?」
彼女は恐怖に満ちた笑みでそう呟く。彼はその言葉を聞いて一瞬で察した。
さすがの彼も、ゼウスが何者かは知っている。色々な文献に載っているからな。
「まさか……全知全能の神が来たというのか!?」
「ダーリン!早く逃げないと……っ!?」
彼女がそう言って逃げようとした時、突如ゼウスが彼女の目の前に移動する。彼女はその速さに驚き身動きが取れない。
「っ!?」
彼は直ぐに彼女の前に出てゼウスを蹴り飛ばす。そして、慌てて悲しみの糸を両手首に装着させた。ちなみにこの糸は、旅してる途中で手首に装着できると他のアーティファクトと合体できると知っだのだ。
「……さっさと殺されてくれれば、楽に死なせてやれたのにな」
ゼウスはそんなことを言いながら彼らに近づいてくる。
「嫌だね。そもそも、なんでそんなに俺らに関わる?もう関係ないだろ」
「そうはいかないのだよ。神界のものが人間界に許可無しに居るということ自体がダメなんだよ。だから、掟を破った者には天罰を与えなければならない」
「神界?どういうことだ?」
「しらばっくれるな。もう気づいていたのだろ?」
彼はゼウスからそう言われ何も言えなくなる。そして、彼女の顔を見た。彼女は少し申し訳そうな顔をしている。
「まぁな。俺も馬鹿じゃない。薄々わかっていたよ。でも、それが何なの?俺はただこいつと愛を育みたいだけだ。たとえ神界の者でも、名前がわかっていなくても、俺はこいつを愛している。それを邪魔するやつは許さないよ」
「フッ、無謀だな。そんなことで我に戦いを挑むとは……自殺志願者か何かか?まぁいい。楽に死ねると思うなよ。”ライジングキャノン”」
その瞬間彼に向かって雷の弾丸が放たれた。彼はその弾丸を反応しきれずに受けてしまう。そのせいでかなりの距離を吹き飛ばされてしまった。
彼はそのまま壁に激突して止まる。そのせいで、肺に溜まっていた空気が無理やり押し出された。
「かハッ……!」
彼はそのまま前に倒れ込む。すると、崩れた壁が彼の上に落ちてきて、彼をきさ生き埋めの状態にしてしまった。
しかし、彼は体を動かすことが出来ない。ゼウスの一撃で全身を痺れさせられたのだ。筋肉が痙攣しているのが分かる。それに、力を込めようとすると、一瞬で抜けていってしまう。
「……動けよ……!俺の体……動けよ……!」
彼は何とか力を込めようとするが、やはり動くことは出来ない。それどころか筋肉が勝手にビクンっと跳ねてしまう。
「こんなところで……こんなところで死ぬ訳にはいかない……!」
彼は全力で立とうとした。しかし、やはりと言っていいほど体が動かない。だが、少しずつ動いている感覚はあった。彼は少しだけ、そう、ほんの少しだけ瓦礫を上に押し上げると、右手首から悲しみの糸を伸ばしその収縮力を使って瓦礫の中から脱出した。
「クッ……!」
彼は何とか弱りきった足で立ち上がると、彼女がいる方向を向く。そして、自分が出せる力を全て使って地面を足で押し、駆け出した。
……その頃彼女は、彼が飛んでいくのを見て一瞬で体を硬直させてしまった。なんせ、守ってくれると言った人が一瞬でやられたからだ。
「そんな……!ダーリン!」
彼女は振り返って彼を呼ぶ。
「よそ見は良くないぞ」
「っ!?」
彼女はゼウスのその一言で直ぐに振り返った。すると、ゼウスは杖を空に掲げていた。
「ケラウノスだ。もう終わりだよ」
ゼウスはそう言って上空に雷雲を発生させる。すると、そこから雷が落ちてきてケラウノスに直撃した。その雷は形を変え斧のような形へと変わる。
「罰を与える。貴様は死刑だ。死ね」
ゼウスはそう言って斧を振り下ろした。
「待てよ!」
その瞬間、突如彼の声が聞こえる。そして、彼女の体が少し後ろに下がり斧を避けた。
しかし、彼女は避けようなんて考えていなかった。なんせ、恐怖で足が動かなかったからだ。
しかし、何故か避けた。足が勝手に動いて。
彼女はその理由にすぐに気づく。背中を見ると、彼の悲しみの糸が引っ付いていた。どうやら彼がギリギリでこの糸を彼女に引っ付け引っ張ったらしい。そのおかげで避けることが出来たのだ。
「ダーリン!」
その瞬間彼が戻ってきた。彼女は彼が帰ってきたことに心から喜んだ。そして彼はそんな彼女の目の前に立つ。
「まだやる気があるのか……愚かな奴らだ」
「お前こそ愚かだろ。自分の国は大丈夫なのかよ」
「我1人居らんくらいで国を回せんオリュンポスでは無い」
「オリュンポスねぇ……ま、何でもいいけど帰ってくれよ」
「それは無理な願いだ。死ね。”雷絶”」
その瞬間ゼウスのケラウノスに雷が宿った。そして、ゼウスはそれを振り払う。すると、そこから強力な雷の斬撃が放たれた。
彼は彼女を抱きかかえ、それを紙一重で避ける。そして、背中のアムールソードを抜きゼウスに切りつける。
「ほぅ、魂に干渉できる武器か。確かにそれなら我も倒せるな。だが、お主の実力では無理だ」
ゼウスはそう言ってアムールソードを受け止める。そして、彼を蹴り飛ばした。彼はその攻撃を防ぎきれずに少し遠くに飛ばされる。そして、地面に何度か跳ねて止まった。
「クッ……!ゲホッ!ゲホッ!……クソッ……!」
彼は何とか体を起こす。すると、ある事に気がついた。なんと、彼女が既に捕まえられていたのだ。彼は慌ててゼウスから彼女を奪い返そうとするが、ゼウスは的確に彼の心臓を雷の槍で突き刺した。
彼の胸から大量の血が流れる。さらに、心臓から電撃を入れこまれたせいで全身の血管を通って電気が走る。
「ぐぁぁぁぁぁぁ!」
彼は全身に痛みを感じ力なく倒れ込んでしまった。
そして、上を見上げる。そこは、ちょうど彼女の真後ろだった。彼は急いで立ち上がるとゼウスに蹴りを入れる。しかし、やはり攻撃は防がれる。彼はそのまま飛ばされてしまった。しかし、彼は何度でもゼウスに立ち向かう。何度も立ち向かって彼女を逃がそうとする。
だが、遂に限界は来た。彼は体が動かなくなるほどのダメージを負ったのだ。そのせいで彼の足は前より断然遅くなる。
「逃げ……ろ……!逃げろ!」
「もう遅い」
ゼウスは再び斧を振り上げる。しかし、彼女は何故か逃げない。もう全てを諦めたような顔で笑っている。
彼は急いだ。何とか助けるために急いだ。走って走って走りまくった。そして、彼女の姿が見えてくる。
「やめろ……やめろ、やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ……やめろぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
彼がそう叫んだ時、彼の目の前でゼウスは彼女の体を斧で切り裂いた。そして、彼女は大量の血を吹き出し流しながら倒れていく。
「っ!?クソッ!目を覚ませよ……!なぁ!おい!」
彼は慌てて彼女の体を抱き抱えてそう叫んだ。しかし、返事は無い。
「諦めろ。その女は死んだ」
「っ!?この野郎……!ふざけ……っ!?」
その時、なんと彼女が起きたのだ。しかし、既に意識は朦朧としていた。
「ダーリン……ごめんね。私、もうダメみたい……」
「おい……そんな事言うなよ……!」
「ごめんね……。ずっと騙してて。私……本当は神界に住む者だったんだ……」
「そんなのいいって。もう喋るな」
「……大好きだったよ。最後に……名前……教える……ね。私……の、名前は……”イザナミ”だよ……!」
彼女はそう言ってニコッと笑うと、最後にこう言った。
「ありがとう……!前に言ったこと……覚えてるよね……?きっと、何があっても……私は……。生きて……待ってて……ね……!”月城真耶”君……!」
そして、その時、その瞬間、彼女の命の灯火は消えてしまった。
「……ふざけるなよ……!ふざけるなよ!ゼウス!俺は、俺の大切な存在を奪ったお前を許さない!」
「お前ごときに許される必要などない。それとも、死にたいのか?」
「それは俺のセリフなんだよ!……もう全部どうでもいい……!神だろうが悪魔だろうが、全てを消してやるよ。理ごと全て消滅させてやるよ!」
その時、彼の中にもう1つの人格が出来た。その人格は、これまでの彼とは全く違った、冷徹な殺し屋のような人格。
「ゼウス、俺を怒らせたことを後悔するんだな」
彼はそう言ってアムールソードを強く握りしめる。すると、アムールソードは眩い光を放ち変形する。そして、アムールソードは絶愛輪廻アムールリーベへと進化した。そして、彼はそれを自分に向かって向け、そして自分の心臓に突き刺した。
その瞬間、彼は白い光に包まれ、彼の中の何かが閉じ込められたような気がした。そして、それの代わりに新たなる多くの力を手に入れた。
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