第63話 遠い日の記憶。そして……
……彼は再び目を覚ました。目を覚ますとそこは森の中だった。木漏れ日が刺して彼の顔を照らす。彼は頭痛に耐えながら体を起こすと直ぐに周りを見渡す。
「……」
彼はその光景を見て少し気持ちが楽になったような気がした。そして、何故か大事なことがあったような気がして思い出せない。
「……あれ?」
彼はゆっくりと立ち上がり周りを見渡した。なぜだかここはとてつもなく安心する。体が落ち着いてくらい気持ちなど全てなくなる。
「……」
「あ!ご主人様!やっと起きましたね!」
そう言って女性が彼に抱きついてきた。
「……あ、あぁぁ……」
彼は彼女の顔を見た瞬間全て思い出す。記憶が頭の中に流れ込んできて、いい記憶も嫌な記憶も全てフラッシュバックする。そのせいで彼は大量の涙を流してしまった。
「あぁぁぁぁぁぁ……!なんで……!なんで俺は生き残ったんだ……!俺は……俺は……!他人を犠牲にしてまで生きるなんて……!」
彼女は泣く彼を優しく抱く。そして、静かに彼を慰めようとした。
「ご主人様……」
「俺なんかが……俺なんかが生きてたって、なんの意味もないだろ!なんで俺が……」
「意味ならあります!ご主人様は自分のことを”なんか”なんて言葉を使って呼ばないでください!たとえご主人様がそう思っていても、私にはご主人様が必要です!それに、今ここでご主人様がそんなこと言ってたら、精霊王様の意志を無駄にするつもりですか!?」
彼女はそう言って彼の頬をパチンッとビンタする。そして、強い口調で怒るようにそう言った。
彼はその言葉を聞いて心を強く殴られたような衝撃を受けた。そして、何故かさっきまでのくらい気持ちが全て吹き飛ぶ。
「……そうだよな……。やっぱりそうだよな。ごめん。俺、生きるよ。どんな事があっても必ず生きるよ」
「うんうん。その意気やよしだよ」
彼女はそう言ってにっこりと笑った。彼はそんな彼女の笑顔を見て少し……いや、心の底から笑う。そして、彼は言った。
「それとさ、もう敬語を使うのはやめようぜ。仲良くなったんだしさ」
「えぇ〜、でも、こっちの方がしっくり来るんですよ〜」
「じゃあ俺も今日からお前のことをハニーって呼ぶよ」
「ふぇ!?じゃ、じゃあご主人様はダーリンで……だね!」
2人はそんなことを言いながら笑い合う。
「じゃあ、行くか。時代は先へ進もうとしている。俺達も早く強くならねばならない」
「そのためには早く魔法の鍛治台を探す必要があるね。それに、魔法も完成させないと」
彼らはそう決意を固めて次の場所に進むことを決めた。
「そういえばここは?」
「ここは安らぎの森よ。悪の心を持つ者は何人たりとも侵入を許さない」
「なるほどな……。じゃあ、最後にここに戻ってこようぜ。全部、何もかもが終わって2人でここに戻ってきてさ、『俺たち頑張ったよね』って言いながら残りの人生を過ごそうぜ」
彼はそう言って笑った。彼女もそれを見て笑う。そして、再び旅を始めた。
……それから彼らは急ピッチで旅を進めた。これまでの間、精霊の国の図書館で見つけた文献を元に魔法の鍛治台を探す。そして、自分らしさを出しながら魔法をつくりあげていく。
しかし、いくら急いでも時間はかかる。時の流れというのは残酷で、あっという間に数十年が経過する。
彼らからしてみれば数十年など一瞬かもしれない。だが、普通の人は長い年月だ。彼らは旅をする中で、たくさんの人の死や、街の発展を見届けてきた。悲しいことがあれば嬉しいことも多々あった。
そして、彼らは100年かけて遂に魔法の鍛治台を発見した。それは、何の変哲もない立方体のはこのようなものだった。
「遂に見つけた……」
「うん。そうだね」
「フッ、これで遂に1歩目を踏み出したわけか……」
「長かったね」
「あぁ。これまで俺は何人もの死を見てきた。そして、誕生も見てきた。100年も経てば世界は変わる。街は発展し新しい国ができる。俺らも変わる時が来たんだ。この度の中で強くなった。だが、まだ不完全だ。完全になるための1歩目がこれだ。歩きだそう。未来へ」
「うん!そうだね!」
彼らはそう言って魔法の鍛治台を手に取った。そして、この何年もの旅で集め続けてきた素材を取り出す。
「意志を強く持つんだよ」
彼女は彼にそう言う。彼は強く頷くと、武器を作り始めた。
……それから彼は何時間……いや、何日も武器を作り続けた。別に何個も作っている訳では無い。1つの武器を完璧にするためずっと打ち続けたのだ。
彼の汗がダラダラと垂れる。彼女はその汗を拭き取る。そんな作業をずっと続けた。
そして遂に、彼の武器は完成する。眩い閃光と共に武器から大量の火花がちった。彼はそれが見えると武器を水につける。こうすることで武器は完成する。
「完成した……」
「名前はなんて言うの?」
「そうだな……”輪廻の剣”と名付けよう」
彼はそう言ってアムールソードを振る。そして、重さや使い心地を確かめると、流れる動きで鞘に収めた。ちなみに、鞘は剣ができた時に一緒に出来たものだ。
「ふふふ、かっこいい。いい感じだね」
「そうだな」
彼はそう言って笑う。その笑みには自信が満ち溢れていた。そんな彼に彼女は言う。
「それで、私に隠していることがあるでしょ?」
「え!?な、な、な、無いよ」
彼女の言葉を聞いて彼はあからさまに否定する。しかし、彼女は言った。
「嘘ついたらお尻ペンペンだよ〜。前みたいに恥ずかしい思いをすることになるよ〜」
彼女はそう言って不敵に笑う。ちなみに前というのは、50年くらい前に彼がいじめっ子からいじめられている男の子を助けた時、たまたまその場にいなかった彼女が彼がいじめたと勘違いをしてお尻ペンペンをしたのだ。
その時大衆の面前で彼は何百回もお尻を叩かれ恥ずかしい思いをしたのだが、その後直ぐに勘違いだったと発覚し今度は彼女が大衆の面前でお尻を何千回も叩かれたのだ。
「……いや、あの時は完全にお前が悪かっただろ。それに、あの時お前ギャン泣きして顔とか目とか真っ赤にしながら最後皆にお尻見せてただろ」
「っ!?そ、そんなこと思い出させないでよぉ!は、恥ずかしいじゃん!」
彼女はそう言って顔を真っ赤にする。
「てか!話をそらさないでよ!私わかってるんだよ!魔法完成したんでしょ!」
「っ!?なんで分かったんだ!?」
「山1個無くなってたら分かるよ!」
そう言って彼女は指を指す。そこには半々以上消された山があった。
「名前はなんて言うの?」
「名前か……そうだな。”⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎”なんでどうだ?」
「うんうん!いい名前だね!」
その時、彼は確実にその言葉を放ったはずなのに何故か聞き取れなかった。しかし、彼女は聞き取れている。彼は、自分で言った言葉が聞き取れなかったのだ。
「あれ?今俺なんて……」
「ねぇ、ダーリン。これからどうする?」
「これからか……まぁ、平和な暮らしを満喫しようぜ。あと、いずれ来る戦いに備えよう」
彼はそう言って1度伸びをすると、その場に大の字になって寝転がる。すると、彼女もその横に寝転がってきた。その時彼らは1時の安らぎを感じた。
そして、この安らぎが彼らにとって最後の幸せとなった。
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