第62話 遠い日の記憶Part5
それから何時間経過したのだろうか。彼は、深い眠りから目覚めた。眠りから覚めると彼は直ぐに異変に気がつく。
それは、何故か自分がベッドの上に移動しているということだ。彼が倒れたのは床の上だったはずなのに、何故か彼はベッドの上に移動している。
彼はその事を少し疑問に思う。しかし、直ぐにその理由はわかった。
なんと、彼の横に彼女が寝転がっていたのだ。だから、それで直ぐに理由が分かる。
恐らく彼女が家に帰ってきて彼をベッドの上まで運んだのだ。そして、一緒になってベッドに入って彼を見つめていた。だから、彼女は目を開けてこっちを見つめているのだ。
「……おはよ」
「……もぅ、心配したんですからね」
彼女はそう言って涙を流す。
「おいおい、泣くなよ」
「そんなの無理ですよ。ご主人様がこんな姿になって、泣かない方がおかしいです」
「……ごめんな。俺には手も足も出なかったよ。見たことないやつに見たことない技を使われて見たことない武器まで使ってきやがった。もうお手上げだよ」
「見たことないもの……そうですよね。ご主人様は『神代武器』を知りませんよね」
「ん?『神代武器』だと?なんだよそれ……」
「……彼らが使っている武器です。特殊な金属でできていて、特殊な力を持っているものです。あの武器を持つまでいる者はその力を何十倍にもしてくれます」
彼女は彼にそう言った。彼はその言葉を聞い自分の耳を疑ったが、この世には古代武器がある。そして、彼はそれを持っている。だから、信じないことは無かった。
「……他の皆は?」
「……」
彼がそう聞くと、彼女は少し暗い顔をした。彼は、その顔で全てを察する。しかし、直ぐに動こうにも体が言うことを聞かない。まるで、脳から出た電気信号が首元で消され、命令が体に行き渡らないような感覚だ。
彼女はそんな彼を見て少し泣きそうな顔をする。そして、彼を落ち着けるかのように優しく頭を撫でると、顔を近づけた。
そして、2人は抱き合うと熱いキスをした。
しかし、その時彼は何か嫌物をかんじる。そして、彼は彼女を家の内側になるように無理やり体を移動させた。
その刹那、彼らの家を超強力な電気が混じった波動……言わば、電磁波道が襲った。そのせいで彼らの家は木っ端微塵にされる。
彼は、突如家が壊れたことで多少は驚いたが、直ぐに降ってくる瓦礫から彼女を守ろうと彼女の上にまたがるように乗った。
「キャッ!」
彼の上に瓦礫が降ってくる。いや、彼の上だけじゃない。家中にふってきた。そのせいで砂が巻き上がり白煙が登る。彼は、そんな中痺れる手足を無理やり動かして立ち上がった。そして、電磁波道が来た方向を見る。すると、そこには男の人が立っていた。
「何者だ!?」
「俺が何者かはどうでもいい。大事なのは、お前が死に、そこの女が俺のおもちゃになることだ」
男はそんなことを言ってくる。彼はその男を見つめて武器を構えた。
しかし、彼はある事に目がいき言葉を失う。なんと、そこには精霊王がいたのだ。いや、それだけじゃない。かなりの数の精霊族の人達がいる。
その精霊族の人達は皆男と戦っていたのだろう。身体中に傷跡がある。それに、何人もの死骸が……
「フッ、こいつらは本当に気持ちよかったぞ。ここの女どもは活きがいい。泣きながら謝ってきたが容赦なく犯してやったぞ。それに、殺しがいもある。あんな声で泣かれたら殺さないわけが無い」
突如男はそう言ってくる。その顔はいかにも悪役な感じがした。
「クソ野郎だな。だが、そんなことはもうさせない」
「ハッ!お前に俺が倒せるとでも!?」
男は彼にそう言って紐のようなものを引く。すると、背後から裸で四つん這いになり、首輪をつけられた精霊族の女性が現れた。
「っ!?」
「お前らもこんなふうにしてやるよ!”絶裂”」
男は剣を振った。すると、とてつもなく大きな斬撃が彼を襲う。彼はその斬撃を避けようとした。しかし、後ろに彼女がいることに気が付きアルテマヴァーグで防ぐことに切り替える。
「クッ……!」
やはり力に差がある。しかし、彼は何とかその斬撃を弾いた。
「ほぉ、少しはやるみたいだな!だが、直ぐに終わ……」
「待てよ。俺にも楽しませろよ!」
その時、突如のもう1人の男が現れる。それは、前に彼を襲った男だった。
「あ!お前、よく逃げやがったな!」
男はそう言って恐怖に満ちた笑みを浮かべる。
「2人か……やるしかな……」
「逃げなさい」
その時、精霊王がそう言った。彼はその言葉を聞いて耳を疑う。
「え?何で……!?」
「逃げなさい。あなたをここで失ってはいけません。世界はあなたを必要としています。だから、あなたは何があっても生き抜かなければなりません。あなたが世界に必要とされなくなった時、それがあなたの死ぬ時です。それまであなたは生き抜きなさい。逃げて、戦って、全てを終わらせるまで生き抜きなさい。分かりましたか?」
「は?分かるわけねぇだろ!世界が欲しているなら、今ここで戦うのが運命なんじゃねぇのかよ!他人を犠牲にしてまで生きることは出来ない!」
「いい加減にしなさい!言うことを聞くのです!」
精霊王はそう言って彼を怒鳴りあげた。そして、男二人と向き合い背中越しに彼に言う。
「ここで戦うのがあなたの運命なら、ここで逃げるのがあなたの宿命です。今すぐ逃げなさい」
「っ!?」
精霊王はそう言った。
「おいおい〜、逃がすわけねぇだろ〜!精霊王、あんたも犯しまくってぐちゃぐちゃにしてやるよ!この女みたいにな!」
男は彼と精霊王の話を遮りそんなことを言ってきた。そして、後ろにいた精霊族の女の子の頭を鷲掴みにして彼らに見せる。
その女の子は、この100年間彼らと仲良くしてくれていた女性だ。時に遊んだり、時に勉強を手伝ってくれたりと、100年間お世話になった。
そんな女の子をその男は犯し尽くしたのだ。女の子は涙で顔をぐちゃぐちゃにして精神を完全に崩壊させている。彼はそれを見て酷く怒った。そして、その怒りを力に変えて男へと襲いかかろうとする。しかし、彼女がそれを止めた。全力で彼を抑えて止めた。
「ダメぇ!今行ったら殺されちゃうよ!だから行かないでぇ!」
彼女はそう叫ぶ。しかし、彼女のその言葉は彼に届かない。彼は何とかその制止を振り切ろうと力を込める。
「アハハハハハハハ!愉快だ!もっと怒れよ!ほらぁ!こうやってこいつの心臓を突き刺してしまえば、こいつは死ぬんだぜ!」
そう言って男は女の子の心臓を剣で1突きする。すると、女の子から真っ赤な鮮血が吹き出してきた。
「っ!?このやろぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
彼は怒り狂いさらに力を強くする。男はそれを見てさらに言った。
「アハハハハハハハ!怒れ怒れ!もっと怒って理性を無くせよ!ほらほらぁ!変えの女ならいっぱいいるんだよぉ!アハハハハハハハ!」
「ぶち殺してやるよ!!!!!」
遂に彼は彼女の静止を振り切った。そして、剣を強く握り締め男に向かって突き進んでいく。しかし、その時精霊王が動いた。
「っ!?」
突如精霊王が彼に風魔法を当てた。すると、彼は突然の事で後ろに倒れ込んでしまう。
「何を……っ!?」
彼が精霊王に何かを聞こうとした時、突如彼の後頭部に痛みが走る。そして、一瞬で意識が闇の中に引き込まれていく。
彼はそのまま倒れてしまった。意識を何とか保とうとするが、まるでブラックホールのように強い引力で彼の意識を常闇の中へと連れ去ろうとする。
そして彼の意識は奈落のような闇の中に囚われてしまった。
「……ご主人様……すみません」
「早く行きなさい。私はこれでも精霊の王。あなたがた2人を逃がす時間は作れます」
「……死なないでください……何て言いません。きっとその言葉は精霊王様の覚悟を侮辱することになるから。だから、こういっておきます。もし、次にどこかで会えることがあったら、次は平和な世界だと良いですね」
「……ありがとうございます……!」
精霊王はそう言って少し嬉しそうな顔をすると振り返って男と向き合った。彼女はそんな精霊王を見て彼を抱き抱えると、急いでその場から逃げ出した。それも、涙の軌跡を作りながら……。
「さぁ、悪あがきの時間ですよ」
「ハッ!あんたで遊ぶのも面白そうだな!せいぜい死なないでくれよ!」
男はそう言って精霊王に向かって突き進んでくる。精霊王は切断されてしまった右腕に回復魔法をかけると、ズタズタな左腕で魔法を放った。
「”妖精の風”」
その日、この世界から精霊の森が消えた。
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