第59話 遠い記憶Part2
彼らは出会った場所から何十km、いや、何百kmも離れた場所へと移動した。ここなら彼らも安全だと思ったからだ。その思惑は外れてはいなかった。どこからも襲ってくることは無かった。そして、彼は彼女に色々と聞く。
「何があった?あいつらは何者だ?お前は何者だ?全て話せ」
彼の言葉を聞いた彼女は素性やら何もかもを全て話し始める。
「私は追われていたんです。私が少しミスをしたばかりに、あの男達が私を殺そうと襲ってきたんです……!私は慌てて逃げて、そしてここまで来たのです!お願いします!助けてください!」
彼女は彼にそう言った。しかし、彼女の話はどこか嘘が混じっているような気がした。だが、追われていて殺されかけていると言うのは本当だ。実際に彼はその目で見たから。
だから、彼は彼女を助けることにした。そこで、彼はまず彼女の名前を聞いた。しかし、彼女は教えてくれない。出身も、何も教えてくれない。彼はそのことを不思議に思いながらも言いたくないという彼女の気持ちを尊重した。
彼は彼女と話終えると再び旅に出る。元々彼は旅をしている身だ。強くなるという目的を果たさない訳には行かない。それに、1つの場所に留まるよりどこかに移動し続けている方が危険は少ない。
彼はそう頭の中で考えて彼女と共に旅を再開した。
最初は追っ手が来ることも無かった。それに、彼女もこう言う運動になれているのか、疲れを見せることは無かった。だから、何日も休みなく歩くことも多々あった。
「あの、すみません。ご主人様、そろそろ休みを頂きたいです」
「……まだ2日しか移動してないが……まぁいい。今日はここで野宿だな」
彼は彼女に休みたいと言われ休むことにした。因みに、彼女が彼のことをご主人様と呼ぶのは、彼女が彼のことを慕うあまり、どう呼べばいいのか分からなくなりそう呼んだのが最初だ。
彼は、彼女に言われテントを立て火を起こした。そして、食材を取り出す。
「森の中か……害虫と害獣対策は必須だな」
「……あの、ご主人様は魔法で火をおこさないのですか?」
彼が火をおこしていると、彼女がそう聞いてくる。そう、彼は火を起こす時は決まってきりもみ式で起こすのだ。
こんな魔法がありふれた世界できりもみ式なんて使う人は珍しい。彼女は彼にそう問いかけた。すると、彼は少し暗い顔をして答える。
「俺は……魔法は使えない。教えてくれる人がいないからな」
彼はそう言った。
「それでは、ご主人様は魔法を学んではいないのですか?」
「あぁ」
「っ!?それであの力……!ご主人様!凄いです!あっ!そうか、だからご主人様の瞳力が安定しないのですよ!」
「どういうことだ?」
「魔力を操りきらないから目にたまる魔力を安定させられないのですよ」
「っ!?」
彼はその言葉を聞いて納得する。そう、魔法が使えないということは魔力を操る術を知らないということ。だとすれば、瞳力に必要な魔力を安定させられないということだ。
「ご主人様!これからは私に魔法を教えしてください!私ならご主人様が魔法を使えるように出来ます!」
彼女はそう言って彼の前に出て土下座をした。彼はそんな彼女を見て少し嬉しさを感じる。今こうして彼に魔法を教えてくれる仲間と呼べる人が増えたのだ。こんなの、嬉しくないわけが無い。
彼は、生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。そして、その時初めて彼は彼女になにか特別なものを感じた。
「……ありがとう……!本当にありがとう……!」
その時彼は、嬉しさのあまり泣いてしまった。涙をポロポロと流して彼女にお礼を言った。
彼女はそんな彼の姿を見て慌てて近寄ると、彼に泣かないでくださいと伝える。しかし、彼は嬉しすぎて涙が止まらない。この時彼は初めて、『嬉しさに包まれた涙』を流した。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━それから彼は彼女との旅を続けた。その旅の道中で魔法を学ぶことになった。彼女の魔法はとても綺麗で、彼は初めて劣っているのに楽しかった。いつもは、嫉妬や怨念に捕われるのに、初めて楽しいと、劣っている自分も良いと感じた。
そして、彼女に魔法を学ぶ。彼女はどうやら魔法を使うだけでなく教えることも上手らしい。彼は魔法をすいすい覚えていく。そして、彼は彼女から魔法だけでなく楽しさや嬉しさなどの正の感情を学んだ。
「”炎の精霊よ、我に力を。ファイアーボール”」
彼の手のひらからから炎の玉が放たれた。その炎の玉は綺麗に形を保って木を破壊する。
「わぁ!凄いです!こんなに綺麗に作れるなんて、ご主人様は本当に凄いです!」
「そんなことないさ。これも全部、君が教えるのが上手いからだよ」
「めっ!」
「っ!?」
彼女が突如彼の額をドンッと指で叩く。そして、言ってきた。
「ご主人様は謙遜なんかしてはダメです!ご主人様は凄いのです!だから、下の人がいることも考えなければなりません!力あるものが謙遜すると、下にいるものが『私達はなんなんだろ』って気持ちになるので、力あるものはその力を誇示しなければなりません。だからご主人様は必ずその力を誇示してください」
彼女は彼にそう言った。彼はその言葉を聞いて納得すると、心の大事な場所に、絶対に忘れないように記録した。
「フッフッフッ、ですが、ご主人様は私には謙遜してくださいよ。私はご主人様の魔法の先生なのですから」
「あ?言ったな。絶対強くなって先生とか師匠って呼ばせてやるからな」
彼らはそんな会話をする。彼は、その時間を一生の中で1番最高のものだと思った。だから、彼は彼女といる時間を生きている中で最も大切なものだと尊重し増やしていくと決めた。
「ほら、ご主人様!そんなこと言ってないで練習しますよ!」
「そうだな」
彼は再び練習を始めた。
そして、そんな日々が続く中、突如として脅威は襲ってくるものだ。なんと、彼の目の前にある男が現れた。その男はどこかおかしな服装をしている。それに、なぜだか嫌な予感がする。
彼はその異様な雰囲気を感じとると、すぐにその場を離れ逃げようとした。
「どこに行く気だ?」
突如そんな声とともに男が目の前に現れる。その速さはとても速く、彼は全く目で追うことが出来なかった。
「お前こそ、なんで俺をつき回す?俺とお前の間には何も接点はないだろ」
「貴様からはあの女の気を感じる。貴様だな。あの女を匿っているのは」
男はそう言って腰の剣を抜くと彼に突きつけた。どうやら彼女を匿っているのはバレているみたいだ。だったら、やることはたった1つ。追い返すだけだ。
「バレてんなら仕方ねぇな」
彼はそう言ってアルテマヴァーグを抜くと男に襲いかかった。すると、男は何事もないかのように攻撃を防ぎ反撃をする。
だが、彼も伊達に特訓してきた訳では無い。反撃も全て防ぎ男にさらなる攻撃を繰り出した。そうして彼と男は激しい戦いを繰り広げる。
そして、その戦いは3時間にも及んだ。彼の戦いはついに男の限界が近づき剣の精度がかなり落ちてきていた。彼はその隙をつき攻撃を与える。すると、男はかなかなりダメージを負ったのか、さらに弱ってしまった。
「これで終わりだ」
彼はそう言って男に攻撃をする。そして、遂に彼は男を倒した。しかし、彼は男を殺さなかった。これは、彼に殺す勇気がなかったことと、彼女が殺さないで欲しいと言ったからだ。
彼女は彼に、魔法を教えるにあたってこういうことを教えた。それは、無闇に魔法を使わないこと。魔法を使って人に迷惑をかけないこと。そして、生命を簡単に奪わないこと。
彼はこの教えをしますずっと守っていたのだ。だから、男を殺さなかった。
だが、それは失敗だった。
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