第57話 孤独の王と大衆の王
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━魔王は見ていた。真耶の姿を。ずっと、ずっと……
12死星も見ていた。魔王と共に。彼らは真耶の戦いを見て目を疑う。そして、言葉を失う。
まるで、死神のような戦い方をする彼を、12死星はずっと見ていた。
「古より来たりし死神は、死をも制し神をも殺す。私が昔教えてもらった離しよ」
「死を制し神を殺すか……俺も聞いたな」
「そこから考えたら、今俺達の代わりに神と戦っているこの男は、もしかするとあの伝説にもなった死神なのかもしれんな」
「……いや、あのお方は以前こう言っていた。『俺の息子がお世話になるよ。きっと君達の力になる。でも、少し心に問題があるけどね』と」
「っ!?なら、あの男はあのお方の……」
「そうかもしれない。……いや、俺はそう信じている」
サタンはそう言ってもう一度真耶を見た。彼は、楽しそうに敵を殲滅している。しかし、なぜだか苦しそうだ。その目からは楽しさなど微塵も感じない。
でも、顔は笑っている。自分の中の何もかもを隠すかのように笑っている。そして彼は、絶望の底へと堕ちていく。
「真耶……兄貴、友達なんだろ。助けてやれよ。それにさ、あのお方も親なら助けてやれよ」
「お、お、お、親だからこそじゃないですか?か、か、か、彼は苦しみを味わうことで強くなれると思ってるのだと思います……」
「……親とは難しいものだな」
サタンはそう言って話しかけてきた12死星の少女の頭にポンっと手を置いた。そして、静かに息を漏らした。
「……死ぬなよ」
その言葉は口から外に出た瞬間、直ぐに消えていってしまった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━真耶の起こした爆発は一瞬でその場を白く、そして黒く染め上げた。
こう言われると、『お前頭おかしいんじゃね?』とか、『黒と白って矛盾してるだろ!ばーか!』とか言うだろうが、そんなことを言われてもしょうがない。なんせ、本当に白と黒に染め上げられたのだから。
「「「っ!?」」」
その異様な爆発にその場の全員が呆気に取られた。そして、直ぐに状況を把握しようと周りを見る。しかし、一瞬でやばいと理解し結界を張った。
だが、その時アーサーとモルドレッドは理解する。ヘファイストスが結界を張れないことに。だから、2人はヘファイストスの分まで結界を張った。
「残念。そんなものじゃ防げないよ」
真耶は結界を見てそう言った。すると、突如結界が消える。壊れるとかじゃなくて、消える。そしてヘファイストスは爆発に飲まれて全身に大ダメージを負った。
アーサーはそんなヘファイストスを見て逃げようとするが、爆発はとても速く一気にアーサーを飲み込んだ。
モルドレッドも大量の結界を張ったが、全て消え去り爆発に飲み込まれてしまった。
それからその爆発は少しの間その空間を白と黒に染めあげる。そして、その光は消える時は一瞬で通常の空間へと戻った。そして、その場所に現れたのはボロボロの体となったヘファイストスと、少し傷を負ったアーサーとモルドレッドだった。
「ほぅ、これを防ぐとは……さすがだな。だが、もう限界のようだ。どうする?このまま戦って死ぬか?それとも逃げるか?」
「そんなこと聞くんだ。どうせわかってるはずなのに」
「フッ、そうだな。どうせ何を言うかは分かってたからな」
真耶はそう言って地面に突き刺した剣を抜き取る。気がつくと、地面が元に戻っている。どうやらヘファイストスが倒れたせいで地面を変える魔力を制御出来なくなったらしい。
「そろそろこの剣の本当の能力を見せてやるよ」
真耶はそう言って剣を構える。すると、モルドレッドとアーサーも同時に構える。
「やるしかないよな」
真耶はそう言ってもう一度地面に剣を突き刺した。それも、今度はかなり深くまで。
「じゃあ、これでどこまで強くなれるのか見ものだな」
真耶はそう言って全身を集中させると体の中に自分の魔力とは別の魔力を流し込んでいく。その魔力は、地面と類似していた。
アーサーはその魔力を見て真耶を睨みつける。そして、エクスカリバーに含まれる魔力を体に流し込んで行く。すると、マントのような物が背中に出来る。その姿は本当に王のような姿だった。
「大衆のための王と、孤独の王、どちらが強いか決めるしかないよな」
「そうだな」
「フッ、こういう時はだいたい俺が負けるのがテンプレなんだけどな。俺はテンプレなんか気にしない。どんな事があっても俺の目的のために勝つ」
真耶はそう言って剣を抜いて駆け出した。すると、その剣から紫色の淡い光が放たれているのに気がつく。真耶はそんなもの全く気にすることなくアーサーに襲いかかった。
アーサーはそんな真耶を見て剣を構えて真耶の攻撃に備えた。そして、真耶の剣を剣で弾く。
しかし、真耶は連続でアーサーをきりつけた。アーサーはそれを剣で防いだり避けたりして攻撃が当たらないようにする。
だが、アーサーはあることに気がついた。なんと、エクスカリバーの刃が欠けているのだ。だから、これ以上攻撃を受けると、”普通”なら壊れてしまう。
そう、普通なら……
「まぁ、再生するんだけどな」
アーサーはそう言って剣を握りしめて襲ってきた。真耶はそれを見てニヤリと笑う。どうせ2人とも考えていることは同じだ。
「ま、そうだと思ったよ。てか、俺その技前に見た事あるしな」
「我はその技は無いな」
「残念だったな。俺は常に最新を生きる男だ」
真耶はそう言うとアーサーを蹴り飛ばす。そして、自分も少し距離を取って剣を強く握りしめた。すると、剣にまとわりついている光が少し強い光を放つ。
真耶はそのまま剣を振り払った。すると、剣から紫色の斬撃が放たれた。
「地脈の力だ。”地脈深斬”とでも言っておくよ」
真耶はそう言って斬撃を放つとかけ出す。そして、もう一度剣に紫色の光を纏わせた。
アーサーは向かってきた斬撃を避けると真耶に向かって剣を振り下ろす。すると、白い白刃が煌めき真耶を襲う。
真耶はそれを剣で防いだ。すると、カキンッ!という甲高い音と共に火花が散る。
2人の戦いは白熱していった。
「アーサー、久しぶりだよな。こうして2人で戦うのって」
「そうだな。だが、いつも引き分けだった」
「当たり前だろ。いつも手加減してるからな」
「じゃあ、今度は手加減抜きだ。必ずお前に勝つ。そして、連れ帰ってやるよ」
「……無理だね。手加減抜きなら俺が絶対勝つから。本当に手加減抜きでいいならお前を殺すのは容易い事だ。まぁ、あいつには悪いが、少しの間体はまともに動かなくなるがな」
「「「っ!?」」」
真耶のその言葉を聞いた瞬間アーサーとモルドレッドは言葉を失った。そんな二人を見てアフロディーテは慌てる。なんせ、こんなに強い奴らが慌てるほどだから。
「やめろ!真耶!あれは禁術だろ!」
「文献で見ただけで、危ないかどうか決めるのはおこがましいんだよ!実際にやってみる勇気がなけりゃ、人は強く離れない!それにな、俺は孤独だからこそ出来るんだよ!失うものなんて何ないからな!」
真耶はそう言ってアーサーから距離をとって剣を自分に向ける。そして、勢いよくその刃を自分の胸に突き刺した。
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