第55話 激化する夫婦喧嘩
モルドレッドはその領域を見て直ぐに思う。これはやばいと。なんせ、この領域はかなり大きいはずなのに熱気がかなり籠っている。時間をかければ熱中症になりかねない。
それに、今のモルドレッドも、昔のモルドレッドも、真耶が今使ったこの魔法は全く身に覚えがなかったからだ。
「俺は、ずっと独りで生きてきた。アーサーが光なら俺は闇だ。光は仲間と共に戦い、闇は独りで戦う。さぁ、力を合わせて俺を倒してみろよ」
真耶はそう言って剣を構えかけ出す。そして、真っ先にアフロディーテを狙った。
さすがにこの状況で誰もアフロディーテを狙うとは思わなかったのだろう。全員対応しきれずに体を硬直させた。しかし、そんな中2人ほど動ける者がいたそれは、アーサーとアテナだ。2人はすぐに真耶を止めようと動き出していた。
しかし、たった2人で真耶を止められるわけがない。しかも、この領域内では真耶の戦闘力は何倍にも増大している。真耶は2人を横目にアフロディーテの首元に刃を突き立てた。そして、そのまま首に押し込んでいく。
「あなたねぇ、私を舐めないで。“吹き飛びなさい“」
アフロディーテは真耶に囁きかけるようにそういった。その瞬間真耶の体が宙に浮く。そして、気がついた時には体がどこかに吹き飛ばされていた。
真耶は背後にあった建物を破壊してしまい瓦礫の雨に打たれる。そして、背中にとてつもない痛みを感じる。さらに、降ってきた瓦礫によって頭に深い傷も負ってしまった。
「っ!?クッ……!」
真耶は何とかその体を動かす。少し動かしただけで全身が痛み、体が硬直したかのように動かなくなる。しかも、全身に何百kgあるのか分からないくらいの重りをつけられたかのような気分だ。
「……一体何が……」
「”紅光球《隙ありね》”」
真耶が状況を確認していると、モルドレッドの声が聞こえ、どこからか魔法を放ってきた。真耶はその玉をギリギリで避けると瓦礫を塀にして身を隠す。
「……ハァ……ハァ……クソッ……!」
真耶は荒くなった息を何とか落ち着かせようとした。しかし、頭から血が流れていることや、全身の骨が軋むこともあってかまともな判断ができない。
しかも、敵の数が多すぎる。さすがに5人も相手をするのは簡単じゃない。
「……だが、負ける訳にはいかない。1度道を違えた者だ。その道は常に平行線。たとえ何があっても交わることは出来ない。だから、俺は俺が死なないために、そして俺という存在を……存在意義を奪われないために、心の底から全力で戦ってやるよ」
真耶はそう呟いて1度目を閉じる。
初めは世界のためだとかモルドレッドのためだとか思っていた。だが、全て違う。他人のためじゃない。全ては自分のため、この世界に月城真耶という存在を認識させるため。これは、ケイオス・レヴ・マルディアスのことでは無い。たとえ作られたものでも、月城真耶という1人の人間がいるということ、そして存在意義を世界に知らしめるために仲間であろうと恋人であろうと、結婚相手であろうと、邪魔する者は全て殺す。
『っ!?ダメ!真耶!自分をちゃんと持って!闇に堕ちるなんてダメ!』
「もう遅いよ。ずっと、もうずっと前から遅かったんだ。そう、俺が生まれた時から……。”死獄纏”」
真耶がそう唱えた瞬間、それまで展開していた領域が消えた。そして、今度は真耶の体の周りに真っ黒なオーラがまとわりつき始める。そして、真耶の体は光から、どす黒い闇となり悪魔のような存在となった。
『そんな……!』
「クロエ、安心してくれ。俺は無差別に人を殺したりはしない」
真耶はそう言って優しく微笑む。そして、天神纏の魔力を死獄纏の魔力と混ぜ込んでいく。
すると、光と闇が混じりあってさらなる力を生み出す。
「光と闇は表裏一体。敵対することもあれば、混じり合うことも出来る」
真耶はそう言って魔力を安定させた。その瞬間、真耶の体に白い光と黒い闇を放つ洋服が構成され、その姿はまるで光と闇の王のようだった。
「クロエ……俺が暴走したら止めてくれ。頼む……」
真耶はそう言って一気に力を込めモルドレッド達がいる場所まで駆け出した。そして、モルドレッドの前に一瞬で移動する。
「「「っ!?」」」
アーサー達は突然豹変した真耶が現れて目を疑う。しかし、直ぐに攻撃に備えた。
しかし、真耶は全く攻撃してくる気配は無い。それどころか、悲しい目をして涙を流している。
「……やっぱり悲しいなぁ。この状態のせいで負のエネルギーを受けてしまうからなぁ……」
「どういうこと?」
「陰陽連鎖……これを聞いて分からないか?陰と陽の力を無理やり結合させることで宇宙のエネルギーを手に入れることが出来る魔法だ。まぁ、俺も本当に宇宙のエネルギーなのかは知らんがな。古い文献にはそう書いてあった」
「……宇宙のエネルギー……そんな力を手に入れて何をするつもりなの?」
「……全ては自分のため。俺が悲しまないようにするため。俺が辛い思いをしないようにするため。全て自分のためだ。人のことなんか考えない。俺は自分のためにこの力を使って神を殺す」
真耶はそう言ってモルドレッドから少し離れる。すると、モルドレッドは少し不思議そうな顔をした。そして、真耶に対して言う。
「嫌な思いをしたくないなら、和解するしかないじゃない!人が人を殺すから悲しいことが連続して起こるのよ!」
「そうかもしれない。だが、どちらかがどちらかを殺すのを止めた時、秩序は崩壊する」
「人を殺してる人が、秩序なんて語らないでよ!皆が和解し合えば人や神、悪魔だって、全ての生物同士の争いは無くなる!でも、そうしなかったらそれこそ秩序が崩壊するじゃない!」
「それは、皆が同時に和解しなければ成立しない。どんな生物も、全く同じ瞬間に敵意を牛ない和解したいと思わなければ、秩序は崩壊する」
真耶は悲しい声でそう言った。すると、その言葉がその場に優しくこだまする。そのせいでその場は少しの間その場に静寂か訪れる。
「……考えても無駄なことはある。だが、一つ言えることは、俺は神を殺すということだ。たとえそれが愚かな選択でもな」
「そう、なら私はそれを止めるわ。たとえそれが愚かな選択でもね」
2人はそう言い合ってニヤリと笑う。そして、どちらとも戦闘態勢をとった。
「行く。”理滅・歪曲”」
その瞬間真耶の目の前の空間が歪む。そして、真耶はその歪んだ空間に飛び込んだ。
すると、真耶の体もゆがみ始め、何故か消えた。そして、突如モルドレッドの目の前に現れる。モルドレッドはその突然のことに対応しきれず動けない。
しかし、アーサーは動いた。一瞬で二人の間に入り込み攻撃を仕掛ける。
「”神速斬撃”」
「”創成・宇宙の災害”」
真耶も負けじと剣を振る。その刹那、2つの力がぶつかった。そして、とてつもない衝撃波が放たれ周りの建物が破壊される。そのせいで足場としていた建物さえも破壊され、真耶達の体は宙に浮いた。
「夫婦喧嘩に割り込むなよ。”消え去る夜想曲”」
その瞬間真耶の周りの闇が消えた。そして、とんでもない光を放つ物体が二人の間に現れる。
「「「っ!?」」」
「邪魔だよ」
「っ!?」
真耶はそう言ってアーサーを蹴り飛ばした。そして、今度はモルドレッドに目を向ける。しかし、直ぐにアフロディーテに目がいった。
「”元に戻りなさい”」
アフロディーテはそう言うと、さっきまで真っ白だった空間が元に戻る。そして、直ぐにアテナが剣で攻撃を仕掛けてきた。しかし、真耶はその攻撃を全て避ける。
そして、真耶はニヤリと笑ってアテナの剣を掴んだ。
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