第54話 助けたい心
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━真耶とモルドレットが出会う前、彼女は出るべきか出ないべきか迷っていた。と言うのも、ここで便乗して殺すことも出来るからだ。
しかし、出なかった。なぜなら、モルドレッドが来たから。さすがにモルドレッドと今ここで戦うわけにはいかない。
真耶1人ならまだしも、モルドレッドとの相性は最悪。勝てる見込みがあまりないのだ。だから、ここでで行くべきではないと彼女は思った。
「……フフフ、頑張ってね。マヤさん……」
彼女は小さくそう呟いていつも通りに戻った。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━真耶は目の前の少女を見つめていた。その少女の名前はモルドレッド。つい最近まで真耶と共に旅をしていた人だ。今は、もう一緒に旅はしていない。
そんな彼女が今こうして真耶の前に立ち邪魔をしている。だいたい理由は分かるが、その理由を認める訳には行かない。
「まだ、殺すなとな言ってんのか?」
「えぇ……。だって、人を殺すのは良くないことだから。神だって同じよ」
「例えそうかもしれないが、向こうから殺そうとしてくるんだ。殺す以外に道は無い。殺さず無力化するなど戯言に過ぎない。ましてや、説得して仲間にするなど、机上の空論に過ぎない」
「そうかもしれない。でも、やってみないと分からない」
「いいや分かるね。俺はヘファイストスの時だって最初は説得をしようと思った。だがアイツは真っ先に俺を殺しに来た。皆そうだろ?オーディンだってお前を殺した。記憶まで奪ってな。結局のところ、甘えがあるから負けるんだ。甘えはいらない。情けはかけない。敵は殺す。こうしないと、自分の揚げ足を取られるからな」
真耶はそう言って左目に魔力を溜める。そして、左目に火炎眼をうかべた。
「俺はアルテミスともであった。あいつは何もしてない無防備な俺を殺そうとした。今だってアフロディーテとアテナは俺を殺そうとする。モルドレッド、お前はこの事実を聞いてどう考える?」
「そうね……それでも殺すのは良くないわ」
「無力化か……なら、それがどれだけ難しいか今知ることだな」
真耶はそう言って体の中から魔力を放出する。そして、その魔力は真耶の体を焼き尽くし始めた。しかし、全然真耶の体は燃えない。火傷すらしない。
「これがヘファイストスの力か……初めて使ったな」
真耶はそう言って剣を構える。すると、剣に炎が再び纏わりついていく。真耶はその炎を剣だけではなく体までまとわりつかせていく。そして、全身を真っ赤に……いや、その炎は高温になりすぎたのだろう。白く光り始めていた。
端の方はオレンジや赤に光っている。真耶はそんな状態になりながら不敵な笑みを浮かべた。
モルドレッドはそれを見て少し気を引き締めた。そして、赤い玉を周りにいくつか浮べる。さらに、魔力を全身にめぐらせて無理やり身体能力を底上げした。
「”天神纏・炎神呪”」
真耶はどす黒い笑みを浮かべてそう唱えた。すると、モルドレッドも優しい笑みを浮かべて唱える。
「”紅羅伸”」
その時初めてモルドレッドが全力の魔法を使った。モルドレッドの体は赤い光に包まれる。そして、体の周りにいくつもの球体が現れた。
「……初めて見たよ。それ」
「初めて使ったよ。こういう時のために取っておいたの」
「そうか、なら、手加減は出来ない」
真耶はそう言って駆け出した。その軌跡には燃え盛る火炎が道を作っている。真耶はそのまま剣を作り出すと、その剣を構えて火炎眼を浮かべた。
「”真紅・螺旋炎舞”」
真耶の剣が螺旋を描きながらモルドレッドを襲った。そして、当然だが螺旋の炎の軌跡が残る。
さらに、真耶の剣は空を切りながら斬撃を飛ばす。その斬撃は周りの建物を破壊し尽くした。
モルドレッドはそんな斬撃を華麗な動きで全て避けて真耶に近づく。そして、真耶の体に触れようとした。しかし、真耶は何かを察したのかスレスレで避ける。だが、モルドレッドはそのまま無理やり体を振り返らせて魔法を放つ。
「”紅光線”」
モルドレッドの右手から赤い光が放たれた。真耶はその光を見てすぐに避けようとする。しかし、それを見た時には既に遅かった。
赤い光線は既に真耶の目の前まで迫ってきている。さすがにこの距離では避けられない。真耶は限界まで体を逸らしたが、避けきれずに右目の眼帯に攻撃が直撃した。
しかし、当たった場所が良かったらしい。眼帯に当たったため咄嗟に顔をそらし、かつ顔を弾かれ目への直撃を免れる。
「クッ……!」
真耶は穴の空いた眼帯を外し、右目から血を流しながらモルドレッドを見つめた。右目から流れる血は真耶自身の炎によって燃やされ蒸発する。そのせいで右目から赤い蒸気が上がり始めた。
「真耶、あなたじゃ私に勝てないわ。このまま動けなくして連行させてもらう」
「それは無理な話だな。俺には俺のやり方がある。邪魔は誰にもさせない。それに、喋れるようになったんだな」
「……あなたのおかげよ。世の中は私より苦しみを味わっている人がいるんだって教えてもらったわ」
「そうか、なら、その苦しみがどんなものかも知るべきだったな。人は、苦しみを糧にして強くなれる。そして、苦しみがあるからこそ闇の中へと堕ちていくんだよ」
真耶はそう言って左目の火炎眼を大きく見開く。そして、剣をかまえ駆け出した。
「苦しみがないやつは脳天気に生きている!そんなやつは、苦しみを持つ者を理解することは出来ないんだよ!”真紅・黒稲妻之炎”!」
その瞬間、突如として空が曇り、黒い稲妻が落ちてくる。真耶はそれを見て剣を掲げた。すると、真耶の剣に雷が直撃する。すると、刃に黒い稲妻を走らせた。さらに、そこから真耶は黒い炎も作り出す。
真耶はその剣を振り上げモルドレッドに向かって振り下ろす。すると、その刃から全方位に黒い稲妻が放たれ、さらに黒い炎がその稲妻の後を追うように放たれた。
モルドレッドはそれを見て少し後退して赤い球体を3つほど飛ばしてきた。そして、それを真耶の近くで爆発させる。すると、赤い波動のようなものが放たれて真耶を襲う。
真耶は左目に転移眼を浮かべてその場から逃げた。
「……ほら、言ったとおりでしょ?あなたじゃ私には勝てないのよ」
「果たして本当にそうなのか?人の放つ言葉には言霊がつく。その言霊は時にはいい方に動き、時には悪い方に動く。ま、とりあえず周りをよく見るんだな。なぜ俺があそこまで範囲攻撃を続けたのか。考えてみろよ」
真耶はそう言って剣で何も無いところを切り裂く。すると、突如空間が切り裂かれた。さらに、空間が切り裂かれたのと同時にモルドレッド立ち退いた場所に炎の壁が出来上がる。そして、その壁は真耶達を全員閉じ込めてしまった。
「さぁ、ラウンド2だ。”天領域・炎羅の灰塵”」
真耶はそう唱えて剣を壊すと、今度はリーゾニアスを構えた。
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