第53話 オリュンポスの脅威
……ずっと彼女は見ていた。アフロディーテと戦う姿を。それも、かなり近くで。
こうして近くで見ていると、本当にこの真耶と言う”男”はとんでもない力を持っているなと実感する。そして、いつかその力と対決しなければならないとも考える。
「……」
彼女はそれを理解してかは分からないが、ニヤリと笑った。
……真耶は突如剣を弾かれ疑問に思っていた。今、この場には真耶とアフロディーテ、そしてフェアリルしかいない。そして、アフロディーテは全く攻撃をしていない。だとしたら、一体誰が攻撃してきたのか。
もしかすると、ここに真耶が見えていないもう1人の誰かがいるのかもしれない。真耶はそう考えて周りを見渡す。
「……」
「どうしたの?突然険しい顔になって」
「フッ、お前も嘘が上手いな。気づいてないふりをして油断を誘っていたわけか」
「あら?なんの事かしら?そんな物騒なことするはずがありませんわ」
アフロディーテはそう言って笑う。それを見た真耶もニヤリと笑みを浮かべる。そして、アフロディーテから少し距離をとって剣を構えた。
「フェアリル、少し降りておいてくれ」
そう言ってフェアリルを下ろした。すると、フェアリルは何かを察したのかすぐにその場から離れる。真耶はそれを確認すると左目の次元眼を浮かべ光らせる。
「まぁ、これが一番早いよな。”無差別乱次元斬り”」
真耶は剣を無差別に振るった。すると、剣から歪んだ斬撃がいくつも放たれる。そして、その斬撃は無差別にその場にあるものを切り裂いた。
しかし、アフロディーテのいる場所と別の場所に2つほど斬撃が当たらない場所があることに気がついた。真耶はすぐにその場所に斬撃を放ち、距離を詰める。
「っ!?」
その時、カキンッ!という甲高い音と共にその場所から女性が現れた。その女性は強そうな盾と剣を持っている。そして、その盾には赤い宝玉が埋め込まれていた。
真耶はそれを見た途端その女性から離れる。そして、何時でも攻撃を避けられるように構えた。しかし、その女性は言う。
「あら、そんなに構えなくていいのよ。だって、構えたところで防げないでしょ?」
「馬鹿か?防げるわ」
「強がりは止めなさい。この私が直々にあなたを始末しに来たのよ」
女性はそう言って盾を構える。
その女性が持っている盾の名はイージスの盾と言う。それは、オリュンポスの中で最も固いと言われる盾だ。壊すことはほぼ不可能に近い。
その盾を持っている人物だ。察しがいい人ならすぐに気がつくだろう。
そう、真耶の前に現れたのはアテナだったのだ。
「……ったく、めんどくさいのがまた来やがったな」
真耶はそう呟いてため息を1つ着いた。そして、体の主導権をクロエから真耶に移す。そうすることで真耶の体は女性から男性のいつもの体に戻る。
「さて、やるか」
真耶はそう言って体が元に戻ったのを確認すると、アフロディーテに向かって駆け出した。
「さすがね。前衛より先に後衛を潰しに来るなんてね。でも、アテナを舐めてたら行けませんわよ」
アフロディーテがそう言った瞬間、アテナの盾が真耶に向かって飛んできた。真耶はその盾をバク転のように避けると、すぐに体勢を整えアフロディーテを襲う。
しかし、やはりと言っていいほどアテナが邪魔をしてくる。アテナは飛ばした盾とは別に剣を構えてアフロディーテの前に飛び出してきた。そして、真耶の剣を弾く。
「チッ……!」
真耶は剣を弾かれ体ががら空きになった。しかし、なぜかアテナは攻撃をしてこない。真耶はその瞬間全てを悟った。そして、右目に神眼を浮かべ、左目に魂眼を浮かべる。
その刹那、真耶の体が上半身と下半身に真っ二つに両断された。そのせいでとんでもない量の血が吹き出る。
しかし、真耶はすぐに体を再生させる。上半身から下半身を作り出し、同時に服までも再生させる。そして、もう1つの下半身を爆弾に変えてアフロディーテのいる場所に蹴り飛ばした。
「っ!?”ライトニングシールド”」
アテナは咄嗟に魔法を唱える。すると、真耶の足が大爆発した。しかし、その爆発は全く意味が無い。アテナのイージスの盾で全て防がれてしまった。
「”ストーンレイ”」
アテナは間髪入れずに魔法を唱える。すると、盾に埋め込まれている赤い宝玉から赤い光線が放たれた。真耶はその光線を何とか避ける。すると、後ろにあった建物に光が当たり石化してしまった。
「はは……とんでもねえな」
「これで分かったでしょ?大人しく死になさい」
「嫌だね。それに、お前はまだ俺の力を知らない。それを見てから決めろよな。“理滅・歪曲“」
真耶がそう呟いて魔法を放った時には、既にアテナの持つイージスの盾が真耶の目の前まで飛んできていた。
しかし、真耶はそれを見て慌てることは無い。一切表情を変えることなくその盾を見つめる。そして、魔法を発動した瞬間奇妙な笑みを浮かべた。
すると、盾が突然歪んだ。これは比喩とかそういうのじゃなくて本当に歪んだんだ。
「っ!?」
アテナはその光景を目の当たりにして言葉を失う。そして、すぐに盾を自分の元に戻そうとするが、何故か盾は戻ってこない。
アテナはそれを疑問に思った。そして、そのせいで隙が生じる。真耶はその隙を見逃すことなくアフロディーテに攻撃を繰り出す。
「終わりだ。”真紅・黒炎呪”」
真耶がそう唱えると、真耶の持つ剣に黒い炎がまとわりついた。そして、その炎は刃の形に変わっていき黒い炎の刃となる。
黒い炎の刃は寸分の狂い無くアフロディーテの首元に向かっていった。
しかし、突如その剣に何かが当たる。そのせいで完全に軌道を変えられ刃は全く違う場所に行ってしまった。さらに、その剣を持っていた真耶の体も引っ張られるようにアフロディーテの右に動く。
「っ!?」
「「「っ!?」」」
その突然の攻撃にその場の全員が驚いた。そして、その攻撃が来た場所を見る。すると、そこには驚くべき人物がいた。
「っ!?お前ら……!」
「やっぱり、来ると思った」
真耶はその人物を見る。その人物は3人組だった。2人は女性で1人は男性。女性のうち1人は小学生位の身長で赤い髪をしている。その髪の毛はかなり長く身長と変わらないくらいだ。そして、その少女は赤く光る球を3つほど空中に浮かせ体の周りをぐるぐると回転させている。
「邪魔するな」
真耶はその赤い髪の少女に言った。しかし、赤い髪の少女はそこからどこうとしない。別に真耶とアフロディーテの間にいる訳じゃないからアフロディーテを狙っわてもいいが、再び同じ技を出され邪魔されるだろう。
「……」
真耶は赤い髪の少女を無視してアフロディーテを襲う。しかし、当然と言っていいほどその少女に邪魔をされた。
「やはり、俺と戦うのか……なら、やってやるよ。なぁ、モルドレッド」
真耶はそう言って剣を構えた。
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