第48話 暗く冷たい絶望の少女
「……クロエってそんな凄いやつだったの?」
真耶は疑問に思いながらそう呟いた。すると、サタンは答える。
「龍神族は全ドラゴン族の頂点にあたる存在だ。その理由は、ドラゴンの祖先に当たるから。だから、龍神族であるクロエ様は高貴な存在。そんな龍神族を虐殺した精霊族は万死に値するものとされている。この魔界ではな」
サタンはそう言った。そして、あるリストと絵を見せてくる。それは、この魔界に投獄されている人物のリストと、その人物を投写魔法で写真化させた絵だった。
そして、真耶らそれを見て言葉を失う。なんと、そこに映っていたのはフェアリルだった。フェアリルは全身に鞭で殴られた傷があり、拷問を受けている様子だった。
口にはボールのようなものをくわえさせられ、お尻には……言うのもおぞましいようなものがつけられている。
強いて言うなら、真耶が日本にいた時エッチな本を読んで見たものだ。
そして、フェアリルは両手両足をかせで繋がれ3角木馬の上に座らされている。その様子を見ただけで痛みが伝わってきたような気がした。
「おい。コイツはどこで……っ!?」
その時、突如として真耶の意識が無くなる。何故か頭を殴られたようだ。
だが、それは現実世界では無い。なんせ、サタン達は真耶の仲間なのだから。それに、真耶自身も現実で殴られたような気がしなかった。
そう、なんとクロエが精神世界で真耶の魂を後ろから殴りつけて気絶させたのだ。そのせいで、一時的だが真耶の体の主導権がクロエに移行される。
「真耶、どうし……っ!?まさか!?」
「そのまさかよ。今一時的に主導権を代わってるわ。それより、この子はどういう事?なんで私達の仲間にこんな屈辱的なことをしてるの?それに、こんな痛いことを……今すぐ説明しなさい」
クロエは殺気を全力で出してそう言った。その殺気はとてつもなく強烈で、周りにいた魔族やモンスターなどの、魔界に生息している生物すらも震え上がらせるほどだった。
「も、もうしわけありません!我々に領域に聖霊族が立ち入ったため、敵と勘違いしてしまいました……!」
「彼女は何か言ってなかったの?」
「な、何か言っていたのですが、罪人の戯言と思い無視をしてしまいました……!」
サタンはそう言って頭を下げる。そして、ダラダラと汗を流した。
「……良いわ、今すぐ彼女の元に連れていきなさい」
クロエはかなり怒った声でそう言った。サタン達は慌ててゲートを繋ぐと、罪人を捉えておく場所まで直行した。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━場所は変わって魔界の幽閉施設では……
そこには1人の少女がいた。彼女はある日、ある男に敗北しそして恋をした。その男はそんな彼女の思いな気がついたのか、彼女を仲間に入れた。そして、その男はある日突然消えた。
それから彼女は仲間と手分けして男を探し、ある場所へと辿り着く。それは、魔王軍の幹部が作り出した領域だった。彼女はそこで魔王軍に捕えられこの施設に幽閉され、そして死ぬよりも苦しく辛い拷問を受けたのだ。
それから彼女は何日も拷問を受け続けた。初めは何とか意識を保ち、何度も誤解を解こうとしたが、魔王軍は一向に耳を貸さない。それどころか、初めから決めつけてずっと痛めつけてくる。そんな地獄の日々をずっと続けていた。
初日目は反発もした。苦しいと叫んだりもした。だが、叫んだところでやめてもらえない。さらに拷問が厳しくなるだけ。反発なんてすれば、気絶しても許されることは無い。日をまたごうとも続けられる。
そんな地獄の日々に彼女は心を壊されてしまった。そして、逃げる希望も、反発する元気も、何もかもを失った。
それから彼女は毎日同じことを続けられた。座らせてもらえるなんてことは無い。毎日熱い鉄板や、ゴツゴツした足つぼの上に立たされる。首には首輪が着けられもししゃがみでもすればすぐに首を締められる。
さらに、お尻を虐められることも毎日された。朝昼晩問わず、突如お尻ペンペンをされるなんてこともよくあった。
しかし、魔王軍はまだ割かし優しいらしい。食事はとらせてくれた。しかし、その食事も食事と言っていいのか分からない。ぐちゃぐちゃでまるで吐瀉物のようなものだった。見た目も味もそのまま。口にひとくち入れただけで吐き気を催す。
魔王軍はそんな吐瀉物を口の中に無理やり詰め込んだ。絶望的な味だった。初めの何日かは毎日吐いていた。しかし、吐くなんてことは許されることでは無い。また厳しい拷問が始まる。そんなことを毎日続けていた。
そして、それから約半年……
彼女もいつも通り拷問を受ける。しかし、もう何も感じない。いつもなにか聞かれるが、話す気力すらない。
反発もしない。そんな力がないからだ。だから、いつも通りきつく苦しい拷問を受ける。しかし、そんなきつく苦しいものもそう思えなくなってきた。おそらく彼女の心は壊されてしまったのだろう。目から光は失われ、表情すらもなくなった。
「ったく、いつまでこんなこと続けるんだよ!お前が早く何しに来たか言えば終わりなんだよ!」
魔王軍の拷問官がまた同じことをボヤきながら彼女のいる牢屋に入ってきた。その手には拷問道具が握りしめられている。
「……」
彼女は絶望した目で見つめた。そして、また、覚悟を決める。
「……」
「じゃあ、今日も楽し……っ!?」
その時、だった。突如とてつもなく暗く、重たい気を感じた。それは、何も感じない体になっても感じるほどだった。拷問官はその気を感じて汗をダラダラと流す。
そして、その気の持ち主はだんだん近づいてきた。
しかし、彼女はここに来るなど思っていない。なんせ、助けは来ないと思っているからだ。
しかし、その予想と反してその気の持ち主は来た。それも、彼女のいる場所に。
「貴方がフェアリルね。私は初めましてじゃないけど、多分初めましてよね。あ、でも、覚えてたら初めましてじゃないかな?」
女性の声でそんなことを聞いてくる。しかし、フェアリルは何も答えない。拷問官が叩こうとしたが、その気の持ち主はそれを止めた。そして、さらに近づいてきて言う。
「私はクロエ。クロエ・リ・ヨルムンガンドよ。あなたを助けに来たわ」
そう言って優しくフェアリルを抱擁した。そして、フェアリルを拘束する全てのものを壊す。すると、フェアリルの体は一瞬だけふわっとした感覚がした。
「よしよし、辛かったよね。もう大丈夫よ」
クロエは優しい声でそう言う。そして、優しく頭を撫でる。すると、フェアリルは少し楽になったのか、ゆっくりと眠ってしまった。
「もう長い間寝てなかったのね。目の下にくっきりとクマがある……。それで、彼女にこんなことしたのは誰?いや、そもそも、こんなことをするって決めたのは誰?皆出て来なさい。殺してあげるわ」
クロエはそう言って殺気を放つ。クロエを誘導していたサタンと、その後ろを着いてきていた何人かの12死星はその言葉と殺気を受けて汗を滝のように流す。
クロエはそんな魔王達を見て拳を握りしめた。その時、クロエは心の中で誰かに話しかけられたような気になる。
『ん?』
『……変われ』
その暗く重たい言葉と共に、真耶に主導権を変えた。
「お前ら……」
そして、真耶が話始める。そんな真耶の体はいつもの男の体に戻っていた。
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