第47話 魔王との対面
「なるほど。それがお前の本気か」
「まぁ、カツカツの魔力だからな。これが限界だよ」
「カツカツとは思えん量の魔力だ。それに、さっきまで目の力は使ってなかったはずだろ?なぜ使える?それとも、元々使えたのか?」
魔王は戦う気配を見せずそうやってただ質問をなげかけてくる。さすがにこれに正直に答えていれば、情報が筒抜けになってしまう。バカ正直に答える必要は無い。
だが、真耶は不敵な笑みを浮かべると言った。
「いいぜ。特別に教えてやるよ。本来天神纏を使っている状態だと目の力は使えない。なんせ、そこに意識を向ける暇などないくらい集中しなければならないからな。だが、それは融合や調律の場合だ。超越に限っては少し違う。超越の場合は2つを1つにするんじゃなく、2つを2つのまま1つの体にするんだ。だから、どっちの魔力を使うかを切り替えることも出来る。それを応用でクロエに天神纏を維持させることで俺は別のことに意識を向けられるわけだ。まぁ、維持している側には強烈な痛みが襲うがな。俺もさっき体験した」
真耶はそう説明した後にニヤリと笑った。すると、魔王も何故か嬉しそうに笑う。そして、不敵な笑みを浮かべたまま言ってきた。
「さすがは神を殺した者だ。やはり俺はお前が欲しい」
「そうか、なら魔王軍に入ってやってもいいぜ。あと、俺は神を殺せていない」
「それでもだ。お前なら神を殺し世界を取り戻すことが出来る」
「そうかもしれないな。だが、俺は神を殺すために魔王軍に入る。神を全滅できたり、抜けなければならなくなったりすればすぐに抜けるぞ」
「構わん。その時は我らに歯向かわない限りこっちから介入はせん」
2人はそんな話をした後にお互い笑い合う。そして、両方とも同時に魔法を解いた。そのせいで、魔王は普通の姿に戻る。真耶も普通の姿に戻る……のかと思いきや、何故かクロエが離れてくれず中途半端に合体してしまう。
「おい、なんか女の子になってしまっただろ。一旦俺の体から出ろよ」
「いや!まだ離れたくない!」
真耶がクロエに言うと、そんな回答が帰ってくる。仕方がない。少し肩が重たいが我慢しよう。真耶は心の中でそう思った。
「大丈夫か?」
「まぁ、男が一時的に女になるだけだ。問題は無い」
真耶はそう言って微笑む。そして、こう思った。逆にすごいありがたいと。今、もしクロエが離れてしまえば真耶の体は崩れてしまう可能性がある。なぜなら、真耶の体は魔力で無理やり形を留めているだけだ。だから、その魔力が無くなれば体は崩れるのが当たり前。
もしかしたらクロエもそれがわかっていて離れようとしないのかもしれない。
「てか、これからどうするんだ?さすがにずっとここにいるわけじゃないだろ?」
「魔王城に移動する」
魔王はそう言ってゲートを開いた。すると、サンドドラゴンがそのゲートをくぐる。
「この世界とは別の世界にあるのか?」
「なぜ分かった?」
「なぜって、このゲートは異世界を繋ぐものだろ?俺もこれと似たものでこの世界に来たからな。それに、ゲートは異世界を繋ぐときその異世界の色に染る。例えば、アヴァロンなら銀、ペンドラゴンなら緑、神界なら金とかな。逆に、異世界に行かなければそのゲートの色は白くなる」
「なるほどな。我はあまりゲートを使わないからな。そういうものだと思っていた。まさか、そんな違いがあったとは」
「ま、俺みたいに色んな世界に行くやつしか分からんよな」
真耶は少し顔を暗くしてそう言った。そして、悲しい表情で笑う。
心の中でクロエが慰めてくれている気がしたが、それでも心の傷が癒えることは無い。真耶の心の中はボロボロだ。
「お前は真耶と言ったな。真耶、心に傷があるのなら、その傷を糧に強くなれ。受け入れることは出来ずともそうならないために強くなれるはずだ」
「……そうかもな。だが俺はもう受け入れるのを止めた。本当はこれ以上強くなるのも止めたいんだがな、仲間のために、愛するもののために、強くなるのを決めたんだ。それが今の俺だ」
「フッ、お前は強いな」
「いや、俺は弱いよ。弱いからこそ、強くなろうと足掻いてもがいて努力した。たとえこの体が朽ち果てようとも、俺は歩みを止めないと決めた。……済まない。俺の話ばかり……」
「いいや、構わない。我も自分の話をしたがるからな」
「そう言ってくれると助かるよ。あと、最後に一つ言っておく。俺を仲間に入れるということは、どういうことか分かるよな?」
「あぁ、分かっている。皆と話し合った。そして、決めた答えだ。たとえ何があろうともお前を手放さないと誓った」
「なるほどな。だが、俺はお前らから離れるかもしれない。その時はどうする?」
「その時は、お前を優しく見送るよ」
魔王は真耶にそう言った。真耶は少し考えた後、不敵な笑みを浮かべてゲートの中へと入った。
魔王は真耶に続けてゲートの中へと入った。
ゲートをぬけた先は魔界へと繋がっていた。やはり、この魔界はさっきまで真耶達がいたペンドラゴンとはまた別の世界なようだ。魔力の流れや空気、気の流れが全く違う。それに、ここはどうやら神々の影響を受けてないらしい。
「久しぶりに澄んだ空気を吸ったよ」
「ここが澄んでいるって言ってるのお前くらいだよ」
「いや、澄んでるさ。だって、皆優しい顔をしている」
真耶は魔界にいた魔物を指先で言った。魔王はその言葉を聞いて少し嬉しそうな顔をする。真耶は続けて言った。
「コイツらは絶対に人を殺したことがない。人を殺したことがあるやつは、あんな顔をしないからな」
「……まるで、そんな人に出会ったみたいな言い方だな。もしかして我のことか?」
「ま、お前もだけど、それ以上に俺の事だよ。人を殺したことがあるやつはこういう濁った目をして、暗い顔をしている」
真耶は自分の顔をや目を指さしながら言った。魔王はそれを聞いて少し考えると、笑うかのように言った。
「そんなこと気にするな。ここじゃそういう奴らばっかりだ。人を殺したくらいじゃなんともならん」
魔王はそう言って真耶の背中をバンバン叩く。真耶は背中を叩かれて魔王を見た。そして、呆れたような顔で言う。
「軽いなぁ」
「深く考え込んだら疲れるだろ」
「……それもそうだな」
真耶も魔王に感化されたのか、軽く考えるようになってしまった。
「そういえば、自己紹介がまだだったな。我の名はサタン。魔王だ」
「俺はサンドドラゴン。魔王軍幹部、別名12死星だ。12死星は他にもいる」
「よろしくな」
サタンはそう言って手を差し伸べてきた。真耶はその手を掴み、握手をする。そして、その時2人の間で固い絆が結ばれた。
「俺のことはもう分かってんだろ?」
「まぁな。かなりしらべたからな。だが、まさかお前があそこまで強いとは思ってなかった。一体どんな魔法を使った?」
魔王は興味津々で聞いてくる。真耶はその押しの強さに少し驚きながらも答えた。
「まず、最初のやつは白虎との融合だ。そして、今やってるのはクロエとの超越だ」
真耶がそう言うと、魔王達は目を丸くして言葉を失った。そして、何故か真耶に向かって跪く。
「おいおい、どうした?」
「ま、まさか、貴方様がクロエ様だったとは……無頼を働き申し訳ありません!」
魔王はそんなことを言ってくる。真耶はそれの意味が全く分からなかった。だから、すぐに聞く。
「クロエ様?クロエがそんなに偉いのか?」
「な、何を言っておられるのですか!?クロエ様は、龍神族。我々12死星の中のドラゴンの祖先ではありませんか!」
その言葉を聞いた瞬間真耶はその場に凍りついた。
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