第46話 超越する真耶
サンドドラゴンは突然のことに理解が追いつかなかった。しかし、1つだけ確実にわかることがある。それは、サンドドラゴンの負けだということ。
サンドドラゴンはそんな状況になって何とか自分の体を再生しようとした。しかし、砂で回復などできるわけもない。自分の自然治癒力を何とか駆使して回復を試みるが、全く回復しない。
いや、してないことは無いのだが全然回復が追いついていない。溢れ出てくる血は自然治癒で止まるような量ではなかった。
「フッ、俺の勝ちだな」
真耶がそう呟いた時、領域は解除される。そして、サンドドラゴンの領域も既に壊されていた。どうやら巨大な領域の中に小さな領域を作り出したことで、その小さい方の魔力に耐えきれず大きい方が壊れたらしい。
真耶達が領域から出た時にそこに残っていたのは、元々あった砂漠の領域だけだった。
サンドドラゴンはその砂漠の上に力なく横たわる。その様子を真耶は静かに見つめていた。
「……殺さないのか?」
「まぁな。元々俺はここから出して欲しかっただけだ。お前を殺す必要なんてない」
「フッ、ここまでやっといて殺す必要は無いか。既に死にかけなんだがな」
「悪いな。ただ無力化するだけではお前はまだ攻撃してくるだろ?だから、急所を攻撃させてもらった。心臓は半分ほどまで切り裂いている。死にはしないが回復には時間がかかるだろうよ」
真耶はそう言ってサンドドラゴンに近づく。サンドドラゴンは真耶の姿を見て笑いしか出なくなる。
「ハハハ……初めから負けてたってことか。殺そうと思えば殺せたんだろ?」
「当たり前だろ殺すより無力化する方が難しい。殺すだけなら距離を詰めて心臓を潰せばいいだけだからな」
サンドドラゴンに対して真耶は冷たくそう言う。そして、静かにサンドドラゴンから離れていく。
「……お前、領域から出たいんだろ?だったら、あと一人倒すことが出来たら出してやるよ」
突然サンドドラゴンがそう言ってきた。真耶はその言葉を聞いて少し構える。もう1人と言うことはこの場に敵が隠れている可能性があるからだ。
しかし、その予想は違った。
「キャッ!?」
突然クロエが叫び声をあげる。その方向を見ると、何故かカネンがクロエの首筋にナイフを当てていた。
真耶はそんな不思議な様子を見て動揺することも無くカネンに言う。
「なるほど、お前が魔王か。擬態が上手いみたいだな」
真耶は静かにそう言った。すると、カネンの姿が変わっていき、魔族に変わる。
「よく分かったな。だが、気づくのが遅かったみたいだ。お前のその状態ももう解けるのだろ?」
魔王がそう言った瞬間真耶が発動していた天神纏が解除される。そして、白虎と真耶が分離された。
「……」
「魔力も残り少ないみたいだな。もう少し気づくのが早ければまだ対策をうてたろうに。どうするつもりだ?」
「……フッ、まず最初に言っておくが、俺は戦うなど一言も言っていない。それに、お前も戦うなんて言ってないだろ。だがまぁ、こんな状況なんだ。戦うのがセオリーみたいになっているからな。まだ俺には奥の手が残っているぜ」
真耶は不敵な笑みを浮かべてそう言った。そして、右目の眼帯を外す。すると、真耶の見えなくなってしまった目があらわになる。真耶はその眼帯をバックの中に詰め込むと大量の魔力を溜め始めた。
「やる気か……魔王と戦えたことを光栄に思うことだな。それと、我の手で直々に殺してやるのだ。幸せだろ?」
「そうだな。魔王を殺すなんて、オタクからしたら夢のような状況だな」
真耶はそう言ってクロエを見る。すると、さっきまで拘束されていてクロエの体が霊体に変わった。その突然の変化に魔王は少し驚くが、すぐに理解して呪文を唱える。
「“死獄纏”」
その瞬間魔王の体からサンドドラゴンとは比べ物にならないくらいのドス黒いオーラが放たれた。そして、魔王の体に黒い鎧のようなものが生成されていく。さらに、背中からは羽を生やした。
遂に、魔王の体は黒い鎧に包まれ、絶望という言葉をつけるのが相応しい存在となった。
「それで、この状況でもまだその余裕を見せられるのか?」
「フッ、何度でも言ってやる。俺を舐めるな。“超越”」
その瞬間真耶の体が黄色い光を放ち始め、肉体が透け始めた。そして、それと同時にクロエの体も透け始める。2人は体が完全に見えなくなると、霊魂だけの状態となってその場に浮遊し始めた。
だが、まだこれは始まりにすぎない。本当の力はこれからだ。
「っ!?」
魔王は真耶とクロエを見て言葉を失った。なんと、2人の魂が重なりだしたのだ。重なりだした2つの魂は片方は光を、片方は闇を纏っていた。
そして、その2つはまるで月食や日食のように重なり光を隠した。そして、後ろからその光が前の闇を覆い始め人の形へと変わっていく。
遂に、その闇は光におおわれとてつもない光を放った後その光の中から真耶が現れた。真耶の姿は、全身に龍の鱗のようなものを纏わりつかせている。
「っ!?まさか……まだこんなに力が残っていたとは……!だが、なぜ女の子なんだ?」
魔王は驚きながらそう言った。真耶はそう言われて自分の体を見ると、確かに胸があるし下に着いているものがない。どうやら真耶自身の魔力が少なすぎて、クロエの性質が全面的に押し出されたようだ。
「まぁ、少し肩が重たいが問題は無いだろう。それにしても、クロエはいっつもこんなに物を持って歩いてたのか……」
真耶はそう言って自分の胸を揉む。すると、クロエの声が聞こえた。そして、その後クロエに叩かれたような気分になった。
「まぁいい。さぁ、戦うんだろ?やろうじゃないか」
真耶はそう言って戦闘態勢に入る。そして、少し魔力を溜め魔法を唱えた。
「”天神纏”」
その刹那、真耶の体から紫色の魔力と共に紫色の炎が出てきた。そして、その炎は魔力を燃料にして真耶の体を燃やし始める。
しかし、真耶は全く熱がる様子は無い。それどころか、意識を集中させている。
すると、突如炎が弾け飛んだ。その為、真耶の姿が顕になる。そこから現れた真耶の姿は全身を龍の鱗に包まれ、背中から龍の羽を生やし、龍の鱗の鎧を纏った女騎士だった。
「さぁ、本気の勝負と行こうか」
真耶はそう言って両目に神竜眼を浮かべて言った。
魔王はそんな真耶を見て少しだけ恐怖を覚えながらも不敵な笑みをうかべた。そして、その場にとてつもなく重たい空気が流れ込んだ。
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