第45話 2つの領域
「お前、ここまでの力を持っているとはな」
「まだまだ全力を出し切ったわけじゃない。お前もそうだろ?」
真耶は不敵な笑みを浮かべながらサンドドラゴンに言った。すると、サンドドラゴンは少しだけ考えるとニヤリと笑って言う。
「当たり前だろ。だが、そんなもの出さずともお前を倒すことは出来る」
そう言って砂を操り真耶を押し潰そうとしてきた。さすがにもうこの技を食らうことなんてない。なんせ、真耶はもう既にこの攻撃を見切っているからな。
しかし、技名のない技にしてはかなり強いと真耶は思う。もしかすると、サンドドラゴンからすれば日常の行動の延長戦なのかもしれないが、それでもここまで自由自在に動かせるのは凄いと思う。
「変幻自在だな」
真耶はその砂を避けながらそんなことを言う。その声や表情、動きの全てからは余裕が溢れ出ていた。そんな余裕を感じ取ったサンドドラゴンは少しだけ不愉快な気分になる。そして、さらにペースをあげていく。しかし、どれだけペースをあげようとも真耶に攻撃は届かない。
「無駄なことはやめた方がいいよ」
真耶はそう言って稲妻のような速さで砂の間を駆け抜け間合いに入り込んだ。そして、その両腕の爪で引っ掻く。しかし、どれだけ引っ掻こうとも、その攻撃が当たることは無い。サンドドラゴンはその攻撃を避け続ける。
「さすがだな」
「……痩せ我慢はするな。時間が無いんだろ?」
「……どういうことだい?」
「しらばっくれるな。お前のその力、強大な力なだけあって顕現させておくのに時間が無いだろ?」
サンドドラゴンはまるで真耶のことを見透かしているかのようにそんなことを言う。しかし、真耶はそんなこと全く気にせず攻撃を続ける。
「この攻撃も、さっきより弱くなっている。お前のその技、持って10分ってところか」
サンドドラゴンはそう言って真耶の攻撃を捌く。そして、隙を着いて真耶を蹴り飛ばした。
真耶はその蹴りをギリギリで右腕で防ぎ衝撃を抑える。そして、飛ばされたせいで地面に叩きつけられるが、それも何とか受身をとって衝撃を抑えた。
「クッ……!」
真耶は苦悶の表情を浮かべながら何とか立ち上がる。さすがに、天神纏をしているせいで魔力消費も多い。それに、何より痛みがとてつもない。大きな力とは言え持続させているだけで体全身に痛みが響き渡る。
さらに、当然と言ったらそうなんだが、この状態だと目の力は使えない。この状態を継続させるだけでもかなり精密な魔力操作をしなければならないのに、目に魔力を溜めるなんてことは出来ない。
「じゃあ、そろそろ終わりだな」
サンドドラゴンはそう言って地面を大きく蹴り真耶の間合いに入り込んだ。そして、腕に砂で爪を作り切りさこうと腕を振り上げる。
しかし、その時不意に体に痛みが走った。そのせいで動きが止まる。真耶はその隙を見逃すことなくサンドドラゴンを蹴り飛ばした。
「グハッ……!」
「フッ、そういうお前も相当負担がでかいみたいだな。顕現時間は俺と同じか。どちらとも強力ゆえの弊害だな」
真耶はそう言ってサンドドラゴンの姿を見た。サンドドラゴンは蹴り飛ばされた衝撃と、突如襲った痛みに耐えながら何とか立ち上がっている。
真耶はそんなサンドドラゴンとの距離を一瞬で詰め爪を振り上げた。そして、爪で切りさこうとする。しかし、ギリギリで避けられる。もしくは、砂で防がれる。
2人の実力は拮抗していた。しかし、どちらとも限界が近づく。ほぼ同時にこの状態になったから顕現限界は同じ時だ。だから、この勝負、どちらかが先に限界が来る前に倒す必要がある。
「どちらも切り札を使っていないというわけか……。どうする?このまま力を出し惜しみしたまま負けるか?」
「それはこっちのセリフだ。俺は魔王軍幹部。魔王様のためにも死ねないのだよ」
「……死ねない理由なら俺にもあるさ。世界のため、国のため、友のため、そして何より愛する人のために死ねない」
「どちらとも死ねない理由は十分か。なら、俺も全力を持ってお前を殺す」
サンドドラゴンはそう言って全身に魔力を溜め始めた。すると、周りの砂が巻き上がりサンドドラゴンへと集まってくる。
さらに、それだけでは無い。周りに充満していた負のエネルギーが一気にサンドドラゴンへと流れ込んでいく。そのせいで、さっきまでどす黒かったサンドドラゴンのオーラがさらに黒く染まった。
「ここまで頑張ったんだ。簡単に死んでくれるなよ」
サンドドラゴンはそう言って手をパンっと合わせた。そして、魔法を唱える。
「”死領域・砂塵ノ陽炎”」
その瞬間、サンドドラゴンを中心とした半径何キロメートルかくらいの範囲が砂の球体で覆われた。そして、その砂の球体の中は砂塵で溢れ何も見えなくなる。
その砂塵は速いスピードで動いており、体に当たると少し痛い。しかし、それ以上にこの領域がとてつもなくヤバいということの方が分かる。どんな能力かは分からないが、恐らくこの場所に留まり続けるのは良くない。
真耶はそう考え直ぐにその場から離れた。そして、全速力で壁に向かって進み、全力で爪で壁を切り裂いた。しかし、その壁は厚く、さらに砂でできているためすぐに再生してしまう。どうやら1度入ってしまえば逃げられないらしい。
「この領域に入ったら最後、お前はもう二度と外の景色を拝むことはできない。諦めることだな」
「確かに強い領域だな。だが、脆いところもあるかもだぜ」
「いいや、無い。これは俺の本気の力だからな。例えどれだけ強い力で壊そうが直ぐに再生する」
「……俺さ、さっき言ったよね。本気を出す前に死ぬのかって。俺もさ、切り札残ってんのよ。それでさ、死ねない理由もあるわけよ。どういう意味か分かる?」
「……」
「何度も言わせてもらうよ。俺をあまり舐めるなよ。”天領域・白夜の虎動”」
真耶はそう言って自分の両手を組み合わせ印を組んだ。そして、自分から発せられる音を全て極限まで小さくし、心臓の鼓動しか聞こえないようにする。
そして、その瞬間、さっきまでサンドドラゴンの領域だったはずのその空間は、白く染まり稲妻で満ち溢れた。
そう、サンドドラゴンの領域はたった一瞬で真耶の領域へと塗り替えられたのだ。
「っ!?」
サンドドラゴンはその真耶の魔法を見て言葉を失う。そして、拳を強く握りした。
ついさっきまで自分の砂の領域だった場所は、一瞬で真っ白の雷の領域へと塗り替えられてしまった。その絶望で何も言えなくなったのだ。
クロエはそんな真耶の領域を外から見る。実は、サンドドラゴンの領域はクロエも中に入れていたが、真耶の領域はクロエはギリギリ入らないくらいの大きさだったのだ。
「……ま、もう終わりだよな」
真耶は小さく呟いた。そして、手を前に突き出し静かに握りしめる。
サンドドラゴンはその行動を見て即座に自分の体を砂で覆った。砂でおおっていれば助かる可能性があるからだ。
しかし、そんなものが通用するはずもない。なんせ、この領域に入り込んだら最後。抜け出すことは出来ない。それに、この領域では真耶は自由自在に攻撃出来るからだ。
まぁ、当たるかどうかは別としてな。
「守るより逃げる方を選ぶべきだったな」
真耶がそう言った瞬間サンドドラゴンの胸の辺りに巨大な深い傷が出来た。
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