第44話 死獄纏と天神纏
「っ!?まさか……あそこから抜け出したのか!?」
サンドドラゴンは思わずそう叫んでしまった。なんせ、自分が勝ったと思い込んでいたからだ。
しかし、真耶は何事も無かったかのような顔で出てきた。いや、何事も無かったわけじゃない。強いて言うなら、砂が口の中に入ったのか、なんかぺっぺって言いながら砂を口から出しているくらいだ。
だが、そんなことをするくらい余裕があるのだ。サンドドラゴンはそんな真耶を見て驚愕し言葉を完全に失ってしまった。
「あ〜、じゃあ行くか」
真耶は独り言のように呟いて駆け出した。その速さはさっきの3~4倍位の速さだ。その急激な速度の上昇にもサンドドラゴンは驚く。
「っ!?」
サンドドラゴンは驚きながらも真耶を攻撃した。砂を操り棘を作って刺そうとしたり、砂の壁で圧死させようてしたり、砂の波で生き埋めにしようとしたりと、様々な手を使って殺そうとした。しかし、どれも避けられてしまい不発に終わる。
「”サンドウェーブ”」
サンドドラゴンはそこで初めて魔法を使った。そして、いくつもの砂の波で真耶を襲う。しかし、真耶は大ジャンプをしてその砂の波の上に乗り、全て同じ方法で避けた。そして、一瞬でサンドドラゴンの目の前まで来る。
「頼むから一撃死はやめてくれよ。”白爪”」
真耶は爪を一気に振り払う。すると、その爪から白い斬撃が3つほど飛び出した。サンドドラゴンはその斬撃を砂で防ごうとしたが、直ぐに砂を使って足場を浮かせ避けた。
「いい判断だ。だが、遅いな」
真耶はそう言った。その時には既にサンドドラゴンの逃げるであろう場所を予測しジャンプしていた。そして、予測した場所にピンポイントで来たためかかと落としを決め込む。
思い一撃を食らったサンドドラゴンは蹴り飛ばされ砂の上を3回ほどバウンドして止まった。
「俺を倒すには本気出さないと無理だぜ。それとも舐めてんのか?」
真耶は冷たい声でそう言う。すると、サンドドラゴンは真耶を睨みつけながら起き上がった。そして、真耶に向かって言う。
「さすがは魔王様が目をつけた男だ。神を殺したという噂は本当のことか」
「いや、それは嘘だね。俺は殺してはいない」
「それこそ嘘だな。魔王様はその目できちんとご覧になったと言われた。その目に狂いは無い。ということはお前が神を殺したのだ」
「違うな。5分の4殺し位で俺は止めたから、もしあの後に俺の仲間だった奴らに見つかってたら助かってるぜ」
「それでもだ。神と渡り合うお前を魔王様は気に入った。このまま連れ帰らせて貰う」
「嫌だね」
真耶はそんなことを言って爪を構える。そして、サンドドラゴンを睨みつけた。サンドドラゴンもそんな真耶を睨み返す。2人の視線が交差しまるで火がついたかのようにその空間が暑くなった。
「……」
「……」
「……」
しばらくの間静寂がその場を包み込む。
「俺も本気を出そう」
サンドドラゴンはその静寂を破り、そう言って周りの砂を自分の体に集めだした。その砂は瞬く間にサンドドラゴンを覆ってしまう。
「……」
真耶はそんなサンドドラゴンを見て静かに構えた。そして、真耶も全身に魔力をため始める。すると、真耶の周りで雷が発生し始めた。
「ふふふ、真耶ったら本当に戦闘狂よね」
クロエは真耶の姿を見てそう呟く。
「……」
「……」
2人は静かに見つめあった。そして、溢れかえった魔力を何とか制御し、少しも溢れさせること無く吸収する。さらに、周りの魔力も吸収し安定させる。そうすることで2人の魔法は完成体となる。
「”死獄纏”」
「”天神纏”」
その時、2つの魔力が同時に安定した。そして、膨大な魔力が武装として具現化され、この世界に2つの強大な存在が顕現した。
「それがお前の本気か。眩しくて汚らわしいな」
「そういうお前の本気は、どす黒くて汚ぇな」
2人は不敵な笑みを浮かべ合いそんなことを言う。そんな2人はそれぞれ光と闇のようだった。
クロエは思った。真耶の体は全身真っ白の光に包まれ神々しく輝いている。体の周りには雷が纏わりつきバチバチと音を立てている。そして、何よりもその両手に目がいった。なんと、両手には先程まで片腕だけだった爪が、さらに派手になり両腕に武装されている。当然だがその両腕は真っ白の光を放っている。これだけ武装をすると、かっこよさが倍増されるな、と。
だが、直ぐにサンドドラゴンを見て思った。その体は砂でおおわれ硬い表皮のようなものが着いている。そして、体からはどす黒いオーラが溢れ出ている。さすがは魔王軍幹部と言ったところだ。それに、背中からはドラゴンの羽が生えている。これは、龍神族で言うところの龍人化している状態だ。
「さて、行くか……」
真耶がそう呟いた瞬間2人の姿が消えた。しかし、その代わりに白い光の跡と砂の跡が現れる。そして、その2つの線は衝突した。
その刹那、大量の砂と、大量の火花が散る。そして、甲高い音が鳴り響いた。
真耶とサンドドラゴンは顔がくっつきそうなほど近づけ全身に力を込める。すると、2人の力がちょうど釣り合いその場にとどまった。
「やるな。だが、俺の方が強い」
「バカをいえ。そんな眩しいだけのお前に勝てるはずもない」
2人はそんなことを言い合ってさらに力を込めていく。真耶はその途中で自分の手のひらに雷を発生させ小爆発を起こし、1度その場から離れようとした。
すると、その思惑は上手く行き、さらにサンドドラゴンも遠くに吹き飛ばされた。真耶は直ぐに体制を立て直すと、爪を構える。
「”虎雷・須佐之男”」
真耶はそう言って爪を振るった。すると、その爪から白い稲妻の斬撃が放たれる。そして、その斬撃は一瞬でサンドドラゴンの間合いに入り込んだ。
サンドドラゴンは突然のことに驚くが、直ぐに体勢を建て直してその斬撃をスレスレで避ける。
「”招来・砂塵の悪魔”」
サンドドラゴンも負けじと魔法を発動する。その魔法はその名の通り砂の悪魔を作り出すというものだった。しかし、その悪魔は真耶の想像以上に大きく魔力は多かった。
当然真耶はそれを見て直ぐにその場から離れる。なんせ、作り出された悪魔はその形を安定させる前にその巨大な爪で攻撃してきたからだ。
「チッ……さすがは幹部だ。魔王軍と言うのは伊達じゃないみたいだな」
真耶はそう呟いて体に魔力を少し溜める。そして、力強く右足で地面を押した。すると、真耶の体が白く発光しスピードが上がる。その軌跡はまるで白き稲妻が走ったかのようだった。
「”虎雷・天雷”」
真耶は右手に魔力を溜め勢いよく振り下ろす。すると、その爪から白い稲妻の斬撃が放たれた。
その稲妻は真っ直ぐ砂の悪魔を襲う。そして、砂の悪魔に直撃した。しかし、あまり有効打にはなっていないようだ。体の一部が欠ける程度のダメージしか与えられない。
「馬鹿め!この空間では俺の方が有利だったようだな!」
「確かにそうみてーだな。だが、舐めてもらっちゃ困るなぁ。……”虎動・狩猟の戦場”」
真耶が魔法を唱えた瞬間その空間が白い稲妻で満たされる。そして、さっきまでただの砂漠だった領域は稲妻が走り回る砂漠へと変貌した。
当然だがサンドドラゴンはその異変にすぐに気が付き羽を羽ばたかせ空中に飛び上がる。そして、その稲妻を避けた。
「……まさか……!」
「まぁ、こんなんじゃ倒せないよな。だがな、俺の……いや、俺と白虎の力はこんなものでは無い」
真耶はそう言って再びその爪をサンドドラゴンに向けて構えた。
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