第43話 砂の龍
なんと、真耶の目の前に現れたのはクロエだった。クロエはとても嬉しそうな顔で真耶の顔を見る。そして、甘えてくる。
「どうした?」
『ねぇねぇ、セッ……したい!』
「え!?……フフフ……ハハハハハ!面白いこと言うな!いいぜやろうぜ!って言いたいけどモルドレッドから殺されそうだから止めてくれ」
『冗談だよ〜。それよりさ、サンドドラゴンを呼び出すんでしょ。彼女怒りっぽいから多分戦わないとダメだよ』
「へぇ、会ったことあるのか?」
『そりゃあ友達だもんね!龍神族を舐めないで欲しいな〜』
「お前すげぇな。あ、てかさ、そろそろ具現化してくれないか?カネンが頭を抱えてこっちを見ている」
『ごめんごめん』
クロエはそう言っててへぺろって感じの雰囲気を出すと、突然具現化した。カネンは突如目の前に人が現れる驚き腰を抜かす。
クロエはそんなカネンを見て慌てて近寄ると、ごめんなさいと言った感じの雰囲気を醸し出しながら手を差し出した。
「さっきから雰囲気ばっかりだな。謝罪くらい声に出せよ」
「もぅ!私だって初対面の人とは緊張するんだよ!」
クロエはそう言ってプンプンする。しかし、それに対して真耶は言い返した。
「いいや嘘だ!お前は初対面で俺を殺しに来た!」
真耶はそう言い返す。すると、クロエもその言葉に対して言い返してきた。
「違うもん!あの時は今とは違ったんだもん!」
そう言って手を前に突き出して紫色の炎を出てきた。
「バカ!こんなところで”獄炎波動”を発動するアホがいるか!」
真耶はそう言って魔法陣をもう1つ描く。そして、その魔法陣から放った技で炎を相殺した。
「凄いわ。よく私の魔法を相殺したわね」
クロエは楽しそうにそんなことを言う。しかし、真耶は全く楽しくない。今かなり精密な魔法陣を組んでいるのにそれを邪魔されているからだ。
もしかしたら、その精密な動きを邪魔するのがクロエは楽しいのかも知れない。だが、真耶からしてみれば1つ間違えただけで全て水の泡となる。だから、かなり慎重に動かさなければならないのだ。
「……だから……いい加減にしろ!」
「やーだよー!”フレアマシンガン”」
クロエは楽しそうにこの世界の人を5人くらい軽く殺せそうな魔法を発動してきた。さすがの真耶もその攻撃には耐えられない。何かしらの魔法で相殺しなければならないのだが、果たして精密な作業をしている時に出来るのか……。
「出来ん!クソ!もうやめだ!こんなものこうしてやるよ!」
真耶はさっきまで作っていた魔法陣を一筆で書き換えた。そして、1つだった魔法陣を7つに分ける。その魔法陣を全部クロエの放った魔法に向けた。
「”理滅・思い出の断片”」
その時、真耶の作り出した魔法陣の前にクロエが先程はなった獄炎波動が作り出される。そして、その魔法は容赦なくクロエの作り出した炎を飲み込みクロエを襲った。
だが、クロエはニコニコと笑っているだけで何も動こうとしない。だが、それもそのはずなのだ。なんせクロエは炎に強い。でなければ自分の炎でやられてしまうからな。
「全く、さっきまでの準備が水の泡だよ」
「でも、来てくれたから結果オーライじゃない?」
「フッ、だな」
真耶はそう言って振り返った。すると、そこにはなんと男の人がいる。その男の人は背中から龍の羽を生やし、歯も鋭い。さらに、来ている服が豪華だ。だが、それよりも驚くべきことはある。なんと、その男の周りには砂が舞っているのだ。しかも、ずっと空中を。
さすがにそれを見て真耶はその男の正体が何者か察する。カネンは突如現れた男に驚き腰を抜かしているようだが、どうやら正体を知っているらしい。
「クロエ、カネンを守っておいてくれ。あと、お前が来たってことは、もう1人来てんだろ?」
真耶は不敵な笑みを浮かべてそう言った。そして、その目でサンドドラゴンを見据える。
「行くか」
その刹那、サンドドラゴンが手を前に突き出した。そして、地面にある砂を操り始める。その、操られた砂は真っ直ぐ真耶を潰そうと襲ってきた。
真耶はその砂をバックステップで避ける。そして、前に突っ込もうとした時、更に隣からも砂が襲ってきた。
いや、隣からだけではない。あらゆる方向から襲ってきている。真耶はバックステップでその砂を避けていく。
しかし、バックステップで避けているせいでどんどんサンドドラゴンとの距離が開いてしまった。だが、それでも近づくことが出来そうにない。何とか避けてその隙に、と行きたいが、次から次に砂が襲ってくる。
「……やっぱり少しは力を見せないとな。……白虎!来てんだろ!融合だ!」
真耶は大声でそう叫んだ。その瞬間真耶の隣に白い光を放つ、白い毛の虎が現れた。その虎は現れた途端二足歩行になりどんどん人の形へと変わっていく。
そして、白い毛皮の服を着たイケメンに変貌した。
「行くぞ!”融……っ!?」
真耶が魔法を唱えようとした時、サンドドラゴンは全方位から砂の壁を作り、その砂で真耶を押し潰そうとした。
真耶はそれを見て魔法を唱えるのを止める。なんせ、このまま融合してしまえば時間が間に合わずにやられてしまうからだ。
そもそも、真耶は合体する魔法を他に持っているのだろうか。そんな疑問が頭に浮かぶ。一応いくつか説明しておこう。
基本的に真耶の合体系の魔法は4つほどある。1つは『融合』だ。これは、肉体を魔力で無理やり合体させる。だから、魔力の質や属性を合わせなくてはならず、その時間がかかってしまう。
2つ目は『調律』。これは、先程の融合とは違い、思いや意志をシンクロさせることで体を合体させる魔法だ。だが、合体と言っても融合のようにキメラみたいになるのではなく、片方が主体になってもう片方の武器や防具、洋服、あるいは髪などの特徴が混ざる感じになる。
まぁ、言うて融合も気持ち悪いキメラみたいにはならないんだがな。こういう合体系統は自分の想像した姿になることが多い。
そんなことはさておき、まだまだ真耶の持ってる合体系の魔法はある。3つ目は『超越』だ。その名の通り超越する。2つの生物の魂を無理やり合体させる魔法だ。
これは、シンクロや融合などとは比べ物にならないくらい時間がかかる。なぜなら、1度自分の魂ともう片方の魂の性質を合わせる必要があるからだ。さすがに魂の操作には時間がかかる。
そして、4つ目は『共鳴』だ。これは、1番簡単かもしれない。だが、慣れてなければ1番難しい。
とにかく思いを1つにする。それがこの魔法のコツだ。シンクロと少し似ているが、色々違うところも多い。
シンクロは厳密に言えば、脳から出る波長を合わせるものだ。そうすることで合体する。レゾナンスは共感することだ。2人が互いに共感し合うことで合体する。
こういった魔法があるのだ。だが、そのうちの時間がかかる魔法はもう使えない。このままでは間に合わずにやられる。
「……フッ、まぁ、魔王軍だから少しはやるみたいだね。少し本気を出そうか……」
真耶はそう言うと、1度深呼吸をしてニヤリと笑った。そして、小さな声で呟く。
「”重なり合え。2つの意志よ。調律”」
その刹那、真耶の体が白く光り始める。そして、気がつくと一緒にいた白虎の姿が無くなっていた。
だが、サンドドラゴンはそんなことに気が付かない。なんせ、真耶を既に砂で囲んでいるからだ。そして、もう圧死させることが出来る位置まで持ってきている。
「弱いな。偽物か……」
サンドドラゴンがそう呟いた時、突如それは起こった。なんと、突如砂が全て弾き飛ばされたのだ。そして、その砂の中から一人の男が出てくる。その男の右腕は鎧を着たような、だが白い毛皮の虎を連想させるような巨大で鋭く強そうな爪が着いていた。
「じゃあ、第2ラウンドだな。”白虎冥爪・調律”」
真耶はそう呟いてその爪を構えた。
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